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「少しだけ寂しくなってしまいました」

そう言えば先生は少しだけこちらを向いて、また明後日の方を向いた。
放課後の橙色に染まる机を二つ繋げて向かいに座るその人に向かって「つれない」と苦笑すれば、「勉強するんじゃないの?」なんて言うものだから、可笑しくってまた笑った。

「先生」
「やめてよ、その呼び方」
「でも先生は、先生で…」
「漱石が好きなのは解ったからさ」
「嫌だ!私が好きなのは先生です」

そう言ったら怪訝そうに眉を曲げて先生はようやく此方を向いた。ようやくこちらを向いてくれたというのにいざとなると私はどうにも照れくさくなってしまって、「漱石も好きですけど」そう付け足した。これではまるで先生と漱石が同列みたいだ。プリンとケーキと漱石は同列でも、先生は決して一緒では無いのに。

「くああ、やる気が無いなら辞めよう」
「わあ、大きな欠伸」
「どうも退屈になってしまったからね」
「女の子と一緒にいる時に、それは言っちゃいけないと思います」
「勉強しに来ているのに?」
「それはそうですけれど」

だって先生が先生で無くなってしまって、私が生徒で無くなってしまったら、私のことなんてちっとも先生は構ってくれないでしょう、とはいつも言えないままでいたのだったけれど、やはりまた今度も言えずに終わりそうだった。
「ほら、時間が勿体無いよ」
呆れた様に先生が言うので、私はまた何だか寂しくなってしまって下を向いた。


「今日は、部活の方に行かなくていいんですか?」
「考査前は部活は無いよ?」
「そうじゃなくて、いつも勉強会 しているようだから」
「ああ、断ったよ」
「ええ?」
「こっちの約束が早かったからね」


「だからほら、早い処やってしまおう」
先生が言うので、私はどうにも泣きそうになってしまって仕方がなかった。
西広先生は、中学生の時からずっと私の先生だった。詰まるところ、私は以前からしばしば先生に勉強を教えて貰っていたのだ。西浦高校に入学出来たのも、多分先生のお陰だと思う(そう言ったら先生は自分の力では無い、と言っていたけれど)
野球部に入部した先生が、忙しそうに毎日朝から夜まで部活動に勤しんでいるのを邪魔する訳にもいかずに、ようやくテスト勉強を一緒にしてくれる様に頼んだのだけれど、先生はどこかつれない態度で、私はずっとひとりで解けない問題に悩まされていたのだった。どうしてこんなにも、先生が野球部に取られてしまう様で、私のことを見てくれなくて、寂しいのだろうか、と。

「先生、」
「何?」
「ずっと解らないことがあって」
「うん?」
「でも今ようやく解ったみたいで」
「何それ?」

自分が本当に伝えたいことを言葉にしようとすると、言葉に出来ない分の感情は、涙として、溢れ出て来るようになっていると思う。涙も唾みたいに飲み込めるようになっていたらいいのに、と思った。仕方無しに私は、カラカラになった口内で無理矢理に唾を飲み込んだ。
「先生、」もう一度呼びかける。
「何?」返事が聞こえる。


「先生、」
「だから、何?」
「先生、」
「……」
「にしひろ、くん」
「え?」

「好き」


「西広君が、好き、です」
目を大きく開いて此方を向くので、私はずっと下の方を向いた。教室の床には特にこれといった特徴も無くて、このどう仕様も無い気持ちを紛らわす方法はちっとも転がっている気配さえ無かった。
どうにも沈黙が突き刺さる様に痛いので、「多分ずっと前から好きで、それから、ずっと前から西広君って呼びたかった」そう呟いた。今、彼がどんな顔をしているかなんて、知らない。

「それは…漱石とは違う意味で?」
「あ、当たり前です!」
「……」
「あのう、ええと」
「どうしようも無いな」
「?」
「ずっと名前で呼んで欲しかったんだ」


「ようやく解って貰えたみたいで良かったよ」
そう笑うので、「西広君西広君広君」何度も繰り返した。「どうにも勘が鈍いよね、気が遠くなりそうだった」だから明後日の方ばかり向いていたのか、と少し納得した。


「少しだけ寂しくなってしまって」
「うん?」
「先生…、西広君が野球部に入ったので」
「ああ」
「忙しそうで、私の入る隙間なんて無くて」
「そんな」
「だけど私との約束、先にしていたからでも優先してくれて、嬉しくて」
「少しだけ?」
「え?」
「すっごい寂しかったけどな」


「全然近寄って来ないから嫌われたのかと思ったよ」
クラスも違うのにさ、と続けた。
まさかそんなことが有る筈が無い訳で、にこやかに笑う、西広君が、とても好きだなあ と思った。








「あれー西広、居るんじゃん!」
「あー本当だ西広!」
「俺数学全っ然わっかんねーんだけど!」
「ちょっとお前ら!空気読め」
「何々、西広彼女居たの?」
「いいからお前ら勉強をしろ勉強を」
「俺らじゃ三橋と田島、手負えねぇよ」
「ご、ごめ…」
「三橋大丈夫だから、な?」



「西広助けてー!」
そう野球部員達(どうも9組で勉強会らしい)(そして飲み物を買いに行っていたらしい)が嘆くので、やはり何処でも西広君は先生なのか、私の手を引いて、そして其の輪の中に入って行った。
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