<META NAME=”ROBOTS” CONTENT=”NOARCHIVE,NOINDEX,NOFOLLOW”><META NAME=”GOOGLEBOT” CONTENT=”NOARCHIVE,NOINDEX,NOFOLLOW”>テキスト | ナノ



「ゆうちゃん、いる?」


覗きこむようにして尋ねると、「え?」と聞き返された。テスト前のこの時期に、放課後遅くまで教室に残っているのは、勉強をしているか若しくは、既にテストを投げてしまっているかのどちらかだ。1年9組には野球部が残っていて、どうやら勉強会をしているらしかった。「あれ、どうした?」にこにこと笑顔のまま立ち上がってこちらへと来るゆうちゃんの背後では「オレのことかと思った!」とそばかすの男の子が笑っていた。どうやら彼の名前にも ゆう がつくらしい。


「あ、あべくんだ。久しぶりだね」
「……栄口の」
「俺のじゃないんだけどな」
「ゆうちゃん、あべくんがひどいよ」
「いまにはじまったことじゃないでしょ」
「うん。中学の時からずっとひどいよ」
「そうだね。それでもがんばるんだよ」
「うんがんばるよ」


茶髪の子の、「なんだか和むね」という発言によってあべくんに対する私とゆうちゃんの非難は終わった。あべくんはすぐ怒るから面白いなと思う。きっとカルシウムが足りてないのだろうと、以前カルシウム配合の幼児用ウエハースをあげたら頭を叩かれた覚えがある。


「…で、どうしたの?」
「昨日ゆうちゃんの古典の教科書ウチに持って帰っちゃったから」
「ああ、ありがとう」
「全然気付いてないみたいだから古典のテスト勉強なんかしなくても余裕だぜって見せつけてるのかと思ってさすが私のゆうちゃんだなあと思ったって彼氏に言ったら彼氏をフったよ」
「そっかー…て、え、フったの?なんでいまの話の流れから彼氏フるの?」
「……フラれろよ」
「あべくんには言ってねー…ですよ」


「あべはひどいやつだよ」とくりくりした目の黒髪の子が言うと「うるせえ」とあべくんはいらいらした様子だった。「まあまあ」と金髪の背の高い子がなだめている。確かあれは浜田さんだ。留年生の。「なんでフったの?」「水谷、お前空気読めよ」茶髪の子、水谷くんを坊主で眼鏡の子が咎めた。


「私が夜にゆうちゃんの部屋に行くのおかしいだろって。仲良くすんのやめろよって言われたからむかっときました水谷くん」
「そうですかなるほど」
「水谷くんはなかなか話がわかりますね」
「いや部屋いくなよおかしいだろ」
「あべくんはだまって」
「…それで別れちゃったの?」
「そうだよゆうちゃん」
「いいの?」
「なにが?」


「好きだったんじゃないの?」と言われてなんだかドキリとした。これは怒られる雰囲気だと思って黙っていると「好きでもないのに付き合ったの?」と追い討ちをかけるように尋ねられた。「だって」と呟くと「だってじゃないよ」と真剣な声で言うのでびくびくしてしまった。奥の方であべくんの向かい側に座っているひょろひょろした男の子も、なんだかつられてびくびくしているようだった。


「…だって好きになれるような気がしたんだよ。でも違った」
「まあまあ栄口、そんな怒んなって」
「前のと別れたときも同じはなししたよね」
「………ごめんなさいでも、」
「言い訳はいいよ」


「要らない」と呟いた、それは言い訳が要らないのか、それとも私が要らないのか。後者だった場合、私はもう生きていけないとおもう。だってゆうちゃんに似てたから好きになれるような気がしたんだよ。だけど違ったんだよ。全然違ったんだよ。みんなゆうちゃんと仲良くするなっていうんだよ。私はゆうちゃんが必要だよ。ゆうちゃんが私を要らなくても、私はゆうちゃんしか要らないよ。
涙がぽろぽろと零れるのに気付いてダッシュでそこから逃げた。野球部のひとにおかしいと思われたかもしれない。ゆうちゃんがシニアで野球漬けになってから、ずっと、野球にゆうちゃんをとられちゃうような気がして怖かったから、野球部のひともあんまりすきではない。だから違う男の子のところに行くようになって、だけど全然違った。
ゆうちゃんじゃなきゃだめなんだって、ほんとはもうずっと前から気付いてた。


「ゆうちゃんの、ばか」
「……ばかじゃないしはしるの、はやいよ」
「ゆ、うちゃん…なんでくるの」
「ごめんね」
「なんであやまるの」
「泣かせるつもりじゃなかったんだけど」


ううん、と顔を横にふると笑ってくれたのでなんだか安心してしまって余計に涙が溢れてきた。「ほんとは嬉しかったんだよ」とセーターの裾で私の涙を拭いながら言うので、「なにが?」と尋ねると「俺と仲良くするなって言われてそれに怒ってくれたこと」と言って、困ったような笑顔を作った。「だけど俺とばっかいたら本当にすきな奴と付き合えないよ」と言うので、心臓が飛び跳ねて口から出てきてしまいそうだと思った。
「だってゆうちゃんがいちばんだもん」
「えーなにそれうれしい」
「みんな俺と栄口どっちが大事なんだよってゆーんだよ、ばかじゃんね」
「…まあ気持ちもわからないでもないよね」
「でもゆうちゃんもさ、ゆうちゃんといたら本当にすきな奴と付き合えないとかいうし。ばかじゃん」
「いやばかじゃないよ」
「ばかだよ」
「俺より頭わるいじゃん」
「だまってよ」


こうやって話しているだけで幸せになれるのに、それよりももっと幸せになろうなんてとても愚かしいことかもしれないなあと思った。ちゃんとするのが、怖かった。ゆうちゃんにちゃんと好きって言ったら、ゆうちゃんは本当に本当に遠くへいってしまうような気がしてた。だって本当にゆうちゃんは私をただの幼なじみとしてしか見ていない可能性だって十二分にあるし、きっとその可能性の方が高いような気がした。


「だって要らないっていうし」
「え、なに」
「さっきゆうちゃん要らないっていったでしょ」
「あ、言ったね」
「ゆうちゃん私なんか要らないんだ」
「いや要らないっていったのは言い訳のほうだからね」
「紛らわしいよ」
「文脈から読み取ってよ」
「そうゆうの苦手だよ」
「…要らないわけないじゃん」


ゆうちゃんを見上げると口元を抑えながら真っ赤になっていて、私もかあっと赤くなるのがよくわかった。突飛すぎるとおもうけれど、世界がこのひととわたしだけだったらいいのにと思った。



「要らないよ」
「え、なに俺?」
「ゆうちゃん以外要らないもん」
「……え、」
「みんなオカシイんだよゆうちゃんとそれ以外なんて、どっちが好きかなんて決まってるじゃん」
「………あの、さ」
「ゆうちゃんより好きなひとなんか出来るわけないじゃんね」


ぎゅうと抱きつくとぎゅうと抱きしめられたのでこのまま溶け出したいと本気で思った。頭の上の方からゆうちゃんの声がして、それは自然と体の中に流れてくるように思われた。「早く言ってよ、俺ばっかり好きなのかと思った」ほんと、ばかじゃんねと言うとほんとにねと返ってきた。ゆうちゃんが少し体を離したので、「やっぱり今の無し」とか言い出すんじゃないだろうかと思ってゆうちゃんを見上げると、ちゅうされた。どきどきしすぎてしにそうだと思った。


「はじめてのちゅう!」
「ころすけ?」
「キテレツガイジン?」
「めそ?…てかえ、なにはじめてって」
「今までの彼氏とはしてません!気持ち悪い!」
「なに、俺とはいいの」
「ゆうちゃんしかだめだよ」






「……………」
「てれたの?」
「うん、はずかしかった」
「私もはずかしかった」
「…でもはじめてじゃないよ」
「え、うそーなにー」
「ウチに泊まったとき先寝たじゃん」
「なに、寝てるときちゅうしたの」
「すみません」
「なんであやまるの、うれしい」
「(…かわいいよばか!)」




(幼なじみとしてじゃなくても、君がすきだよ!)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -