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朝起きると私は気づいたのです。
事態は夜のうちに起こったか、はたまたもうずっと前から計画的に進められてきた誰かの策略なのかもしれません。
恐ろしいことになりました。
これは全く、大変な事なのです。
今私の気持ちをお伝えしようとしても、それは叶わないのです。
何故なら私の胸中は空っぽだからです。これは全く、ゆゆしき事態という奴なわけです。気持ちはあるのに、伝える為の言葉が無いという、良くあるジレンマではなく、その全く逆なのです。それでいて空っぽの筈の胸の中は大変重苦しく、まるで金曜日の帰宅ラッシュ時の満員電車の中のような、そんな感じがするのです。
言葉は確かに、紡ぎ出そうとすれば生み出せるような気がするのです。しかしその言葉で、伝える筈の気持ちは、全くといっていいほどこの胸には無いのです。
全く おかしな話でしょう!
或いは、ぐるぐる気持ちがどこかに転がっていってしまったのかもしれないとすら、私は考えました。











毎日はぐるぐる廻るようにやってきます。
私といえば毎日を、ぐるぐる廻るように過ごしています。家族と、友達と、先生と、その他大勢と、それから文貴。私がそのぐるぐるの中でカテゴライズして認識出来るのはそれくらいしかいません。
携帯電話のフォルダで区分けされたメモリーのように、カテゴライズされたその中身はまたぐるぐる入れ替わっていきます。変わったことがないのは、家族と文貴くらいなので、いっそ普遍的なメモリーとして、家族のカテゴリーに文貴を加えるか、はたまた文貴のカテゴリーに家族を加えるかしたらそれは容量の軽減化に繋がるのでは無いかとも考えます。
こんなことを言い出すとまるで可笑しな奴だと思われそうなので、一応弁明しておくのですが、私は至って普通に毎日をぐるぐると過ごしています。朝、6時に起きて、お弁当を、時折味見兼朝ご飯としつつふたつばかり作り上げ、身支度をして学校に向かいます。始業のチャイムが鳴るのは、8時半なので、丁度良く私は席に着くことができます。
日差しが強くなってきた最近では日焼け止めを塗ってから家をでることも忘れません。本当は日傘を差したいものですが、自転車に乗りながらというのでは危ないので、私はなるべく照りつける日差しを避けながら通学します。
SHRの後には直ぐに1限が始まるので、その準備をします。隣の席の浜田くんはよく、もうすぐ自分が当たるというときになると、私に質問をしてきます。私は予習をしておいたノートをひろげてその問題を解説してあげます。2度目でも解らないのは、正直解ろうとしていないのではないかと疑いたくなるのですが、ぐるぐると頭の中を掻き回して、時折くしゃりとふわふわした金髪を掴み、それから問題が解けたときの彼といったら!
忽ち今まで自分が彼に対してどれほど失礼な事を考えていたのかと自己嫌悪に陥るほどの笑顔を、浜田くんは浮かべるのでした。
ですが、そんな素晴らしい浜田くんの笑顔にも、私の空っぽな胸の中はすかすかしたままなのでした。

1、2限をこなした後の2限休みには、7組へ行きます。これは毎日のことです。たまに、田島くんや泉くん、三橋くんが7組に行こうとするので、その場合には連れ立って行くのが常です。文貴は大概、お菓子を食べていて、そのまわりで阿部くんや花井くんも所謂早弁というのをしているようです。私は自分のつくったお弁当のひとつを文貴に渡します。文貴は待っていました、と言わんばかりに包みを広げてそれを食べ始めるのです。因みに言っておくと、文貴はお昼にはきよえママのつくったお弁当を食べるので、私が毎日つくるのは早弁用のお弁当なのです。
文貴は大抵の時、へらへらした笑顔を浮かべているのですが、私のお弁当を食べるときのあの笑顔といったら!
これがどんなものなのか、皆さんには到底お教えする予定も、意志も、義務も私にはありませんから、絶対にお教えすることは無いかと思います。時折、田島くんが手を伸ばすのを避けながら、毎日綺麗に完食してくれるのです。


そんな時、私は気付くのでした。
冒頭で言ったような出来事の、真相についてです。もしかすると皆さんは、冒頭のような出来事は、ある日突然私にふりかかった全くもって珍妙な災難であるかのように思われているかもしれませんが、それは今ここで訂正しておかねばなりません。私の中に発生する空白の、満員電車の重苦しさは、時としてひょいと顔を出す、そんな奴なのです。つまるところ、それは日常の一部であるのです。
そして冒頭の出来事の真相についてですが、これも極めて簡単なことなのです。
胸の中で、心の中で、気持ちはぐるぐる廻るものです。想いはぐるぐる廻るものです。これは万人に言えることなのですが、私では一寸違うようなのです。

つまり、文貴がいてはじめて、ぐるぐると廻るのです!
さて、あなたにわかるでしょうか。いや、わかっていただけなくても十分なのです。本来、独りで行われる筈の気持ちの循環機能が、どうやら私の場合、万人とは違う風に出来てるようなのです。わかり易くいえば、皆さんはひとりでに気持ちを構築して、それを自分の中にあるまるで回転寿司のレールみたいなところに、色違いのお皿に乗せて並べるのでしょうが、どうにも私のレールは、文貴に繋がっているようで、文貴がいないとなると循環機能不全が起こるらしかったのです。



「オレたちケッコンすんだもんね!」



ぐるぐると巻かれたあまい卵焼きを文貴はいつも最後に食べます。ぐるぐる廻る毎日の中で、やはり私はぐるぐる巻かれた卵焼きを毎日文貴の為に作るのです。

とうに私は気づいていたのです。
事態はいつ起こったか、はたまたもうずっと前から計画的に進められてきた誰かの策略なのかもしれません。
ただ恐ろしくはないのです。
しかしこれは全く、大変な事なのです。
今私の気持ちをお伝えしようとしても、それは叶いません。
何故かといえばもちろん、こんな幸せな気持ちを、文貴以外の誰かに循環させるつもりは、毛頭無いからなのです。




(家族を文貴のカテゴリーに入れてしまうのは少し違う気がするので、やはり文貴を家族のカテゴリーに入れてしまう方向で、まず間違いはないだろうとおもいます。)
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