心中失敗


ごぽり、


透き通るような色が好きだ。
くったりと全身の力を抜いて身を任せられる感覚が好きだ。
映す空でくるりとかわる表情が好きだ。
ゆらゆら、静かに、時に大波に揺れる不安定さも好きだ。



ごぽり、

確かな浮遊感、でも私はしずんでいく。それも確かで、どちらが本当かなんて、今のわたしにはどうでもよかった。


急に、溺れてみたくなったのだ。端的に言えばそういうこと、具体的に言えば、水面を下から見てみたかっただとか、浮遊感を味わいたかっただとか、いろいろ浮かんではくるのだけど。


きらきらゆらゆら輝く水面が遠のく。どこまで続いているのかなんて皆目見当もつかない。ふと、視界の隅に、自分のシャツの裾がひらひらと揺れるのが見えた。人魚の尾みたいだ、と、朦朧とする意識の中で思った。


まるで幼い頃必死で覗き込んだビー玉のなかに沈んでいくみたいだ。視界は一面透き通り、時折光の筋がさしこむ。


ごぽり、ごぽり、


ふと、視界が白く濁った。水面が泡立つのが見える。あの黒い影は、


そう思った刹那、腕をぐいと掴まれ、このビー玉を名残惜しく思う間もなく水面へ引き上げられた。


「なに考えてんだ!いきなり海に飛びこむなんて!」


くらくらとした余韻のなかで、エースの怒ったような声色が響く。そうか、サッチが助けてくれたのか。

悪びれもせずに、何となく溺れてみたくなったのと言うと、彼は大げさにため息をついた。またお前はそういう突拍子もないことを。と。



「なァ●●、たのむから」


彼の鍛えられた腕が伸びてくる。普段から体温のたかい彼だが、より暖かく感じられた。ぎゅっと彼の腕に閉じ込められる。ふわりと、エースのにおい。



「たのむから、海だけはやめてくれ。おれが助けにいけない」





(20130328)



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