お見通しな話
サンジくんは料理をしている。
トントン、と小気味よい音がしたり、たまにサンジくんの鼻歌なんかが聞こえてきたり。
料理をしているときのサンジくんはとても生き生きしている。
彼がときおり鼻歌を歌っているのも、きっと彼は気づいていない。それくらい夢中なのだ。
だからわたしは邪魔をしないように、でもそばにはいたいから、大抵ダイニングで本を読んだりして過ごしている。
ここならサンジくんが料理をしている姿がみられるからだ。
ふんふん。
サンジくんが、じゃがいもの皮を丁寧にむきながら鼻歌をうたっている。
なんだかすごく幸せな気持ちになって、サンジくんの姿を見ていたくなって、ぱたんと読んでいた本を閉じた。
テーブルに頬杖をついて、彼を見守る。てきぱきと無駄のないだけど優雅さも漂う動き。
思わずうっとりと見つめてしまった。
いつもわたしの頭を優しく撫でてくれたり、わたしの手を包み込んでくれたり、今みたいにとっても美味しい料理を作ってくれる大きな手。
いつも優しく見守ってくれる、すこし垂れ気味の目。
ゾロに馬鹿にされるけど、可愛いぐるぐるの眉毛。
髪の毛で見えない片目。
手足が長くて、線の細い身体。
改めて見るとすごく格好よくてこのうえなく愛しい姿を、いつになくじっと見つめてしまう。
なんだかふつふつと愛しさがこみ上げてきて、いてもたってもいられなくなってしまった。
そっと椅子から立ち上がって、サンジくんの後ろに回る。
さすがにサンジくんは気づいてくれて、微笑みながら振り返ってくれた。
「どうしたんだい、●●ちゃん」
「んーん、特になにも」
サンジくんがじゃがいもをむく手を止めてくれたから、さっきより少し近づいてみた。
近くで見ると、やっぱり綺麗だなぁ。サンジくん、素敵。
手を洗ってタオルで拭いて、サンジくんはわたしを抱きしめてくれた。
ふわりと漂うサンジくんの香り。落ち着いていて優雅で、すこし煙草の匂いが混ざった、この香りがとても好きだ。
「サンジくん、どうしてわたしがぎゅってしてほしいことわかったの」
「クク、愛の力かな」
冗談を言って、サンジくんが笑う。私も一緒に笑った。
線が細いわりに意外と逞しいサンジくんの腕に抱かれながら、この上ない幸せを感じた。
そっと背中に腕を回して、頬を逞しい胸板につけた。
いちばん落ち着くサンジくんの体温を感じていると、そっとサンジくんの手がわたしの頭を撫でてくれた。
それが嬉しくて、甘えるように胸板に擦り寄った。クク、と嬉しそうに笑う声が頭上から聞こえる。
そんなサンジくんの顔が見たくて、そっと顔をあげると、優しい目で、サンジくんがこちらを見ていた。
ああ愛しい。
その柔らかくてあまい言葉をわたしにくれる唇そのものを、いますぐわたしにください。
頭の隅で、ぼうっとそんなことを思った。
サンジくんの服の裾を軽く引っ張る。すると、サンジくんは軽く笑いながら、わたしの後頭部に手を回した。
そのままゆっくりと、サンジくんの唇が降ってくる。ちゅ、と軽く触れたあと、ゆっくりともう一度唇を合わせた。
いつもより甘いような気がした。
ゆっくりと合わせた唇は暖かくて、柔らかくて、まるでそのまま溶け合ってしまえるかのような。
「サンジくん、どうしてわたしがキスしてほしいことわかったの」
「なんでもわかるさ、●●ちゃんのことだからね」
ああ、わたし、あまりにサンジくんがおいしいスイーツばかりくれるから、わがままになっちゃったみたい。
(20130323)
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