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山本くんの自殺騒動のあと、私は何故か彼に絡まれるようになった。
綱吉に聞いてみたら、私の内側に入ってみたくなったとかなんとか言っていたとか言っていたけど、まあいずれどうにかなるかな。

変わってきたのは、獄寺くんもだ。綱吉のことを十代目と呼ぶ彼は、申し訳ないけど忠誠心の強い犬にしか見えない。綱吉と話してるとき、馴れ馴れしいんだよとか突っかかってきたときには心底びっくりした。

綱吉と幼なじみなのはクラスの皆が知っていることだし、私や郁ちゃんが綱吉のことを大切にしていることも知られている。ダメツナとか言っていた人も、私たちの前ではあまり呼ばなかったくらいだったから。
あのとき、綱吉が本気でやめてと言わなかったら、私は未だに彼に睨まれていることになっていたのだろうか。

……もしそうだったなら、嫌だなぁ・・。

人付き合いの悪さは自覚している。それが原因で、人によっては取っつきにくいとか思われていることも知っている。
だけどまあ、私は私の大切な人が、私のことをそこそこ大切にしていてくれるのなら満足してしまうような人なので、そこまで人の目は気にしない。目立つとかそういうことは本当にごめんなさいしたいところではあるが。
だけど誰かに思いきり敵視されたりすることはあまりなかったので、彼に睨まれてメンチを切られたときには、怖さ、というよりも新鮮さの方が勝っていたのだけれど。

だけど、すごく悲しくなったのは今でも覚えている。
悲しいというよりは、ショックだったのかな?

綱吉には嬉しそうな笑みを向けたのに、警戒するような威嚇のような目を向けられたとき、胸に走ったのは痛みだった。
まあ、綱吉が獄寺くんを窘めてからはなくなったけれど。
以降彼は、山本くんよりは若干柔らかい態度で私に接してくる。綱吉に幼なじみだと言われたからか、綱吉と山本くんとの真ん中らへんの扱いだと思う。

山本くんは持ち前の明るさで、しょっちゅうこちらのクラスにくる郁ちゃんに、私と同じくらい郁ちゃんに絡みに行って仲良くなった。
もともとのめり込みやすい2人だから、意気投合しやすかったのかな。2人ともマイペースというか自分を崩さないから。

まあ、郁ちゃんが嬉しそうだからいい。

そう山本くんに言ったとき、本当に大切な人が中心なんだな、と言われた。

そうだよ。大切だ。大切に思うから、大切にしたいから、なかなか増えないし増やさない。人付き合いが得意ではないこともあるけれど、何かあったとき、両手を広げて守れるくらいの人数がきっとちょうどいいと思うんだ。
それ以外は、割り切ってしまえばどうでもいい。冷たいかも、最低かもしれないけれど、生憎と私には、不特定多数を気にかけて大切にするなんてことはできないから。それでいいんだ。――それで、いいはずなんだ。

そう言ってきた山本くんには、そうだね、という返事だけをした。



「きりーつ、れーい」

帰りのHRが終わって、ガヤガヤと生徒が教室から出始めた。

「ツナー!帰ろうぜ!」
「お前は一人で帰れ、野球バカ!」
「ごっ獄寺くん!皆で帰ろうよ!」

それでも彼らはほんの少しずつ私の中に入ってきていた。彼らにその自覚はもしかしたらないのかもしれないけれど。


――だけど、ときどき襲ってくるこの感情は。


「ぐっ……十代目がそうおっしゃるのなら……感謝しろよ野球バカ!」
「おう、サンキューなツナ」


こんなやりとりを見るとき、聞いたときに襲ってくるこの感情は。


「沙耶は?一緒に帰れる?」


綱吉の声に、私はそれらを顔には出さず、笑い返して頷く。

無意識に鞄を握る手に力が篭っていることに気づいて、そっと緩めた。


どうしようもなくもの悲しくて、だけど悲しいとは少し違う。胸が締め付けられるような――寂しいとも少し違うこの感情に、まだ名前は付けられていない。







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