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綱吉の家庭教師が来てから、クラスでの綱吉の扱いはかなり変わり始めた。
いい方向に変わりつつあると思うから、大歓迎だ。
そんな変化は大歓迎なんだけど……こんな変化はいらない!

「……あ、あの、何の御用でしょうか」

思わず敬語が出たのは、校門を入ってすぐに声をかけられた5人の学ラン姿の古風な不良たちに囲まれたからだ。学ランの左袖には「風紀」の文字。

いやこれ!むしろ彼らが風紀乱してないの!?

チラチラと見ながら生徒はそそくさと通り過ぎていく。

あぁぁあ!目立ってる!目立ってるよこれ!変に目立ちたくないのに!

私の目の前に立ったひときわ立派なリーゼントをして葉っぱをくわえた男の人が、申し訳なさそうに口を開く。

「浅葱沙耶さん、すいませんが我々に着いて来てもらえませんか」
「……えっ?」
「委員長の――雲雀の希望でして」
「――ッ」
「あっ!おい!」

「委員長」に「雲雀」とくればもうあの人しかいない。雲雀先輩の名前が出た瞬間、私は風紀委員の間を走り抜けて逃げ出した。
呼び止める声がしたけど、そんなの聞いていられるか!

「……冗談じゃっ、ない!」

あんな規格外に関わっていたら、綱吉の家庭教師に関わることになる気がするから全力で回避するしかない。
たぶん、この間の球技大会で感じた視線がきっと綱吉の家庭教師だ。たぶん私のことは知っているんだろうな。
でも、シュウちゃんに関わらない方がいいと言われた以上、全力で回避する。
エンカウント率をギリギリまで下げてやる!

できるだけ足音を消して廊下を走り階段を駆け登る。

「あ、おはよ沙耶」
「おはよ綱吉ごめん行く!!」
「えぇっ!?教室素通りー!?」

教室の前で綱吉とすれ違う。だけど教室にいたら風紀委員じゃないけど、アウトな気がするの!

廊下の端っこまで走って、階段の裏の窪みに座り込んだ。ここなら入り込まないと見えない。
上がった息を深呼吸で整えながら考える。

なんで雲雀先輩は私を連れてこようとしたんだろう?この間以降特に何も無いし、校則違反もしていない。あ、今廊下走ったけど。でも普段はしないし。
私が関わることで、何かあるとしたら――

「……郁ちゃん?」
「ほい呼んだ?」
「ぎゃあっ!」
「うおっ、なんだよ!」

いきなり話しかけられて、バクバク暴れる胸を押さえながら郁ちゃんを見上げた。あまり回らない頭を必死に回していたから、全然気付かなかった…。
いきなり悲鳴を上げられて、少し不機嫌そうな顔をする郁ちゃんに謝る。

「まあいいけど……こんな所で何してんの?綱吉が様子変だったって言ってた」
「風紀委員にというか、雲雀先輩に何故か覚えられた」
「は?」
「風紀委員から逃げました」

あははと引き攣りながら笑うと、郁ちゃんの顔もひくりと引き攣った。
まぁそうだよね、そういう反応だよねと遠い目をすると、悪魔の足音が近付いて来る。郁ちゃんを窪みの中に引っ張り込んで、2人して息を殺した。
あ、なんかアウトな気がするよ……でも今更改めて隠れる場所を探すなんてことは出来ない気がする。
急に静かになった廊下に、キュ、と上履きを踏みしめる音がした。キュ、キュ、と上履きの音は近づいてくる。
様子が気になったのか、郁ちゃんが廊下に顔を出そうとするのを無声音で慌てて止めようとしたとき、郁ちゃんは中腰という中途半端な体勢のままピシリと固まった。

「――見つけたよ、浅葱沙耶、レティ=ユートノール」

どことなく嬉しそうにも聞こえそうな聞こえないような彼の声のすぐあと、SHR開始のチャイムが響いた。




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