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小学校と比べたら、中学校は時間が過ぎるのが早いと思う。年をとったからかな。
気が付けば春が過ぎて、もうすぐ梅雨に入る。

梅雨入りは来週だって言ってたじゃないかお天気お姉さん。朝は快晴だったし降水確率だって20%だったのに雨が降り出していますよ?

「……ま、折りたたみあるけどさ」

ロッカーに置いておいた折りたたみを持って昇降口に向かうと、途方に暮れたように空を見上げる人がたくさんいた。
いつもなら迷わず綱吉誘って帰るけど、最近のクラスでの扱いのせいでか綱吉は教室にいることが減っていてしまっていて、体育が終わったら帰ってしまった。

原因はわかっているから、原因はひたすら睨みつけてやったけど。私は睨むとそこそこに迫力があるらしいから、こういうときに有効活用できていい。

綱吉が帰ってしまうと、一緒にいる時間が減って寂しい。
いや、いつまでも3人でいるわけにもいかないことは知っているけども。
さっさと帰ろうと下駄箱を開けようと視線を上げると、人ごみの中に茶髪ショートカットの可愛い可愛い女の子。……に、近づく黒髪の男。

「かーのじょっ、傘ないなら入ってかない?」
「わっ、沙耶ちゃん!」

させるかとばかりに駆け寄って先にナンパする。もちろん折り傘を見せながら。

「いいの?」
「もっちろん!可愛い京子ちゃんと相合傘できるなんて私はラッキーだね」
「もう、すぐそういう事言うんだから、沙耶ちゃん」

そう言ってはにかむ京子ちゃん。うん、可愛い。学校のマドンナは伊達ではない。ちょっと待ってね、と言ってから靴に履き替える。どうしようか迷っているっぽい男の人に、勝ち誇ったようにふふんと笑って見せると、なんだか衝撃を受けたような変な顔された。
…変なの。
傘を広げて、左側に傾ける。

「ありがとう」
「いーえ。むしろ私が見つけられてよかった」
「どうして?」

それは、花ちゃんに持田先輩に気をつけてと言われていたからなんだけど……それを京子ちゃんに言ってもいいのかわからないから言わない。

「京子ちゃんと帰れるからね」

あ、もしかしてさっきのが「持田先輩」?

よし、奴の毒牙から京子ちゃんを一回守ったよ、花ちゃん。

京子ちゃんも花も、中学校からの友達。綱吉は京子ちゃんが好き。真っ赤な顔して見てれば誰だってわかるのに、本人はバレてないつもりらしいから可愛い。
京子ちゃんは好きだし、もちろん綱吉も大好きだから、2人がくっついてくれればいいのにな。2人とも優しいからお似合いだと思うんだけど……

「沙耶ー!」
「あ、郁ちゃん」

パシャパシャと水音を立てて郁ちゃんが走ってくる。もう結構学校から離れてあるのに、走ってきた郁ちゃんは息切れしてない。確か体力テストで山本くんとやらに勝った、とか話題になってたっけ。体力バカだしなぁ。あ、でもシュウちゃんのおかげか。

「あ、笹川さんか」
「うん、沙耶ちゃん借りちゃってごめんね?」

横に並んだ郁ちゃんが傘の中を覗き込んで笑った。むぅ、ムダイケメンめ。

「んー沙耶は俺だけのじゃないからなぁ」
「……」
「それにたぶん沙耶が言い出したんでしょ?」
「うん」
「だろうなぁ」

フェミニストめ、と笑われる。

「郁ちゃんだってそうでしょ?てかシュウちゃんもか」
「兄貴のあれはもうイタリアーノだろ。もはや性分。あれで余計苦労すんのにな。俺は女の子にあげる優しさは、沙耶にあげる分の優しさしか持ってねぇの。あるとしたらその残りのかけら?野郎は勝手にしろって感じ。あ、綱吉は別枠。」
「沢田くん?」

少し驚いたような声を京子ちゃんが上げる。

「あれ、知らない?沢田綱吉、同じクラスの」
「ううん、知ってるよ。出席番号近いし。でも沢田くんはどうして別枠なの?」
「郁ちゃんも綱吉と私と幼なじみなんだよー」

へぇー!と声があがる。私が綱吉と幼なじみなのは知ってても、郁ちゃんは知らなかったのか。
まぁ、郁ちゃんとクラス違うしねぇ。

「3人とも仲良しでいいね」
「そうだね、シュウちゃん…郁ちゃんのお兄ちゃんからはくっつき過ぎってたまに言われるけど」

そう話したところで、私の家と京子ちゃん家との分かれ道に来てしまった。

あ、というような顔をしてから傘から抜け出そうとした京子ちゃんの手を捕まえて、両手で傘の柄を持たせる。

「はい、これ使って」
「でも沙耶ちゃんが…」
「私は郁ちゃんのに入れてもらうから大丈夫よ」

そう言って、さっと自分の傘から郁ちゃんの水色の傘に移動する。
私がそうすることをわかっていたのか、移動する直前に私が入れるように左側を開けてくれていたから、傘の中でまごつくこともない。
それをびっくりしたような顔で見ていた京子ちゃんは、ありがとうとふわりと笑った。

「またね」
「傘、明日乾かして返すね」
「うん」
「じゃあね、笹川さん」
「ユートノールくん?もまた明日」
「レティでいいよ」

言いにくそうだね、と苦笑い。

「じゃあお言葉に甘えて。じゃあね、沙耶ちゃん、レティくん」








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