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仕事が終わって、朔間零のもとに集合したら兄もそこにいた。この間の宿題の提出と合わせて、二人にこれからのことを聞いてみたら、スキルやノウハウの引き継ぎは今回の宿題を持って終了だという。二年ペースでやろうと零と斑は計画していたのだが、登良の飲み込みが良かったので、今回で終了だという。正確にはやめようと思ったらやめれた。が正しいらしい。それでもがむしゃらについてくるが二人の心象によかったらしく、課題とノウハウを与えていってという。二人から卒業おめでとうとも言われて複雑な気分になった。
でも、これである程度落ち着いてけるし、マスターして宿題やノルマから開放された。と思っていたのだが
今どうしてこうなったのか。登良にはよくわからなった。
返礼祭当日、お祝いの品を渡す際に時間があったからと、この間の話なんだけれども。と登良は言いにくそうにしたら、周りのメンバーはこの間の。にピンときたのか聞く体制になった。登良も腹を据えて細々と一つ一つ説明を始める。最初は夏のキャンプ時に朔間零に言われた。夏休みぐらいに兄と朔間零から外国に対してのスキルを教えてくれるというから、そのスキルやノウハウを『Ra*bits』に使えないかと思って受講しだした。そして、そのノウハウや引き継ぎ、基本的なことがこの間終わりを迎えた。もしも、今後姉妹校の話があったら、『Ra*bits』に仕事を回してもらうように手はずを整えたことを言うと、周りはいろいろな感情を表してた。

「登良くん、勝手すぎます!!」
「ごめん、でも。多分俺は『Ra*bits』の力になりたいって思ってた。」

創みたいに、手芸ができるわけでもない。光みたいに大きく出ることもない。友也みたいに引っ張る力もない。俺は二番煎じしか、できないから。できることを探したら、これが一番できると思った。今年でに登良ちゃんもいなくなるから、みんなで揃って考えるだけじゃだめだと思ってる。視点を一つ増やすことは強みにもなる。未開踏のジャンルを予め開いておく、それだけで他のユニットには負けない武器にもなるって考えてた。黙っててごめん。

「ま、登良ちんも反省したな?」
「してる。」

体調までメンタルまで崩しちゃ元も子もないもんな。今まで俺たちのために頑張ってくれたんだな。となずなは笑いながら頭を撫でる。登良ちゃんは登良ちゃんなりに考えて動いてるんならいい子なんだぜ!光はそう屈託なく笑った。ありがとう!まで言ってのけるのだから器は広いと登良は思った。創もそれに合わせて頷くけれども、それで納得しなかったのは友也だった。

「登良。そういう大事なことなんで言わないんだよ。」
「ちゃんと習得してから言おうと思ってた。この間の仕事で俺が限界だな。って思ったから、兄貴と朔間さんに相談に言ったら終わりだって言われた。」

これからも、俺は頼りないだろうけど、友也やみんなと一緒に『Ra*bits』をやっていきたいよ。だから、もう無理はしないし、秘密は作らない。俺を選んでくれたのは皆だから、俺はみんなといたいな。それが登良の本心でもあった。これで『Ra*bits』切られてしまう未来だってあった。一種の博打であるとも登良は捉えた。腹を据えて友也を見つめていると友也は観念したように息を吐き出した。

「…もう、今度から秘密はなしな。お互いゴメンナサイして、この話はおしまいにして、必要な時に教えてくれよ。」
「うん。わかった。ごめん。みんな。心配かけました。」

ぺこりと頭を下げれば、周りは大丈夫だよ。と笑っていってくれるので登良はようやくそこで息を吐き出した。ちょっと安心したらウルッとし出すので深く息を吐き出して何事もない顔を取り繕う。目をこすったからか友也が心配そうに声をかける。

「登良?どうした?」
「俺、『Ra*bits』でよかったなって思ったんだ。」

四月のユニット募集時期は『三毛縞』の名字で断られてたし、兄貴は『流星隊』だったから、比べられるのは絶対嫌で余所をさがしてたんだけど、創と友也と光が声かけてくれたからっていう選択肢だったんだけど。それでも俺、ここが好き。今すごく実感してるんだ。
今しがた擦ったせいで目が少し赤いけれど、登良は嬉しそうに笑う。 珍しく感情がコロコロ変わるなと友也は思ったが、幸せそうに笑う顔を見て何も言えなくなった。入学当初から比較的一人でいたのをよく見ていた。体育の授業も同様で、恥ずかしそうに顔を上げたり下げたりしているのもだ。こうして自分の主張をするようになったのだから、かなり成長しているのだろうかと友也は感じた。登良ははぐらかす様に笑っているとタイミングよくあんずが部屋に入ってきた。そっと創と光と目線を合わせると、登良は笑った。

「ごめんね、こんな日にいいだしちゃって。に〜ちゃんのいる間に言っておきたかったんだ。あんず先輩もちょうどよく来たし。丁度いいよねハッピーホワイトデー!」

登良が笑ってポケットからクラッカーを取り出して遠慮なく引っ張った。火薬の匂いと音が一瞬にして部屋を占める。ほら、創も。と促せば、あわててポケットからクラッカーを出して引っ張りながら、ホワイトデーを祝う言葉を言う。それにつられて光もクラッカーを破裂させた。

「おおう…あぁビックリしたっ。急に何だお前ら〜?クラッカーを鳴らすなっ!この部屋はレンタルなんだから、汚したりしたら大変だろ?」
「大丈夫ですよ。すぐに回収できるやつなので。回収して鳴らせないからね、光?」

登良の釘にぐきっ。と光の体が飛び跳ねる。やっぱりとおもって、そっと光の手からさっとクラッカーを回収して手近な袋にねじ込んで、目で友也を促す。

「今日は俺たちから、に〜ちゃんたちにホワイトデーの贈り物をしたいんです。【返礼祭】本番の前に、それを渡してもいいでしょうか?」
「いいけど…今日までにたっぷりレッスンはしたし当日は本番までにゆっくり気持ちを作りつつ、ウォーミングアップする程度にって思ってたから。それに、おれからもみんなにホワイトデーの贈り物があるしな。【返礼祭】が終わってからでも良いかと思ってたけど、せっかくだし今のうちに渡しとくぞ〜?」

部屋の隅においてあった鞄からなずなは小さな袋を四つ取り出そうとするので、光は交換会だと嬉しそうに自分の鞄を漁って、なずなとあんずに手渡した。プレゼントがうれしいのかあんずの目が輝いた。あんずが忙しいからあんまり引き留めるなよ?となずなが苦言を呈したが、あんずが大丈夫ですと言わんばかりに首を振る。

「わかってるぜ〜、ね〜ちゃんは『みんなのプロデューサー』だし?」

それよりもチョコを食べてとなずなにチョコレートを渡すから、なずなはそっとチョコレートの箱を開けて、なかを見る。その形に見覚えがあるのか、一瞬表情が輝く。【ショコラフェス】以来何度か作っているのだと胸を張った。レシピを貸しましょうかと創がレシピを貸そうかと、言い出したがみんなでまた作ろうと言うとそれもいいね。と言う話に落ち着いたので、登良は鞄から荷物を取り出した。##name_1##の手には小さな袋が四つ。一人一人に手渡して##name_1##は周りを伺う。妹も兄も寝静まった早朝にこっそりベットを抜け出して作ったクッキーだ。…ちなみに登良が渡したクッキーは誰も起きない時間を狙ってコッソリ焼いたもので、『Ra*bits』全員の顔になるようにデザインしたものだ。そして駄目押しといわんばかりになずなには別の封筒を追加で渡す。

「恥ずかしいから、封筒はおうち帰ってから開けてね。」
「登良ちんは、俺たちの顔のクッキー?」
「そう。」

恥ずかしそうに照れて視線を反らす、タイミングを見て友也がプレゼントをなずなとあんずに渡す。色々登良も手伝った記憶のあるものだ。

「今年度末、に〜ちゃんの卒業後に行われる俺たちのライブの企画書です。先輩たちに頼らず、俺たちだけで一から予算や衣装のプランとかぜんぶを組み立てました。こういうことしてた登良の意見が大体入ってますけど。」

実現可能な、俺たち『Ra*bits』にとって意義のある企画になってると思いますけど、良かったらチェックしてみてください。と書類を手渡す。なずなは受け取ってぺらりとめくりだして頷いている。それがどこか怖くて、登良はずっとなずなを見た。一枚一枚めくっていく中で、ぼんやり頭の中によぎるのは兄の考察からの対処法に似ていたので、恐らくこれで大丈夫だとは思うのだが。なずなと兄は違うのだ。兄で承諾されても、なずなでは承諾されない可能性はあるのだ。そう考えてると、ドキドキが強くなっている。あと数枚でなずながすべてを見ていくのがどことなく怖い。

「おれがいなくなっても大丈夫なんだ〜って証明するつもりか、確かに。それが一番の贈り物だな。登良ちんも斑ちんからいっぱい教えてもらって流用してるんだろ?偉いな!」
「…俺は…べつに。そういう意味でやりたかったわけじゃなくって…。」
「こういう時は胸張っていいんだぞ。さらっとは観たけれど、だからこそこの場で簡単に返事はできないから、持ち帰ってじっくりチェックしてもいい?」
「はい、どうか甘やかさずに、俺たちを一人前だと思って公平に厳しく見てください。俺たちも先輩になるんですから、初心者マークは外さないと。あっ、ちなみに普通にお菓子も用意しましたよ。どうぞ〜俺はラスクを作りました!」

それを聞くと、心臓がぎゅっとしまった。次の春になると、なずなは居ない。『Ra*bits』は四人でやっていくと言う事だが、さみしいな。と思ってしまう。『Ra*bits』は終わるわけでもないとはおもうのだけれど、今まだこの段階でまだなにも決まってないに近い。視線をそっと下げると、なんだかしんみりしてきた。卒業って淋しいな。って考えてしまう。

「でも、みんなが笑顔で、こうやってあったかく送り出してくれるなら、きっと堂々と胸を張って前へ進めるよ。ありがとう、友ちん、光ちん、創ちん、登良ちん。大好きな『Ra*bits』、おれに幸せな青春をくれて本当にありがとう。考えることは同じだな〜俺もみんなにお菓子のプレゼントだ!ほぉら、配るぞ〜寄ってこい」

手招きして、なずなが一人ずつに大きなクッキーを渡していく。可愛いラッピングのされたクッキーは登良の掌に倍ほどの大きさに驚きながら礼を言う。どうやってたべればいいのかと考えてみたが、割るしかないんだろうな。と結論づいた。

「近所の教会のオリジナルレシピだぞ〜ちっちゃいころから無性に好きでさ。やたらデカくて食いでがあるし、めちゃくちゃ甘いんだ。子どもの頃はこれがほんとに大好物で…神様についてのお話なんかよりも、こっちを目的にして教会に通ってたよ。高校生になった今のおれたちには甘すぎて、胸やけするかもしれないけど。」

そうだ。と思い出したように、声を上げて、なずなはこれを友ちんに。と紙を一枚渡した。光がなにか羨ましい。と呟いたが、登良はちらりと見えた。来年度の活動をするための書類に見えた。

「活動書類?」
「そうだぞ。『Ra*bits』の活動を来年度からも継続するために必要な、書類一式正式にリーダーの項目に、友ちんの名前を書いてある。問題が無ければ、春になったら判子とか押して生徒会に提出しろ。それまではまぁ。額縁にでも入れて飾っとけ。」
「友也くんが次のリーダーなんですね。おめでとうございます〜」
「おめでとう、友也。よかったね。」
「おめでとう友ちゃん!がんばれ、オレたちも全力で支えるぜ〜!」
「えっ!?登良じゃなくて!?俺でいいんですか?」

慌てた友也が登良を見た。いきなり言われて、登良はビックリして一瞬飛び上がって光の後ろに隠れておどろおどろしく、なずなの方を見て、首を横にとれるぐらいの勢いで振った。

「ちょっと悩んだんだぞ。登良ちんなら大丈夫だろうけど、友ちんのが一番リーダーの気質だと思うんだ。夢ノ咲学院では、リーダーの権限が強めに設定されてるし……その分責任や仕事、つまり負担もかなり増える。から、登良ちんには難しいかな。って想うし、誰よりも一番伸び代のある友ちんを、リーダー稼業に忙殺させるのはどうだろうか、って疑問は残る。」

その分レッスンが足りなくなったりしたら、本末転倒だし。でも、たぶん。苦労すればするほど、お前は強くなるよな。かなり大きくなった登良ちんもいるし、きっと大丈夫だろう。ただ無理はすんなよ〜。また倒れたりしたら、この書類を破りにくるぞ。おれはちょっと、遠ざかるから……なかなか手は出せなくなるから、あんず。どうかこの子たちをよろしくな。最高のアイドルにしてくれ。おれは、そんなこいつらをTVとかで見てさ。この子たちは、『Ra*bits』はおれが育てたんだな!って偉そうな顔をする予定だから。どうかよろしく頼む、『プロデューサー』これからも、この子たちを見守ってあげてくれ。

「俺は、そこにに〜ちゃんも一緒がいるのがいいな?この一年、五人でやってきたし。ねぇ。」
「友也くん、感極まって固まってますね。予想してなかった展開じゃないでしょう?」
「仕方ないやつだぜ友ちゃんはっ、止まってちゃ困るぜ〜動いて動いてっ!」

茶化す様に光が友也のほっぺをつつく。やめろよ光。と声を上げて、身をよじりつつも、なんだか感動しちゃった。と友也が零した。俺はずっと『普通』で集団の中じゃ目立たなくて、ほかにも凄いやつがいっぱいいるのに、自分が選ばれるなんてことめったになくて。だから、嬉しくて。
目元に、涙がこぼれるのを指先で拭うから、泣かないで。登良はハンカチを友也に渡す。こういう時のためにイメージトレーニングとかしてたのに。と少し悔しそうで、感情がくるくる回っているなぁ。とどこか他人事のように思いながら、登良は周りを見回した。まわりの光も創もちょっと泣きそうに見える。

「今からそんなんで大丈夫か〜心配だなぁ。【返礼祭】本番、お客さんの前では乱れたり泣いたりすんなよ。それがアイドルのけじめだ。おれも、舞台の幕が綴じるまで、そんなふうに美しく振る舞いたいって思うよ。」

っていうわけで、最後まで気を抜かずにレッスンをするぞ!俺の仕切りは今日でおしまいだっ、思い残すことが無いように聞きたいこととか全部聞いとけ!なずなの号令によって周りははっとして、顔を見合わせてから、よろしくおねがいします。そう頭を下げた。

「友也、紙をなおさないの?」
「そうだな。ちょっとクリアファイル出すから登良、持ってて。」

手渡されたので、受け取った瞬間、入り口のドアを大きく開いた。開くはずもないドアが開いて、ぴしりと体が一瞬固まった。紙を持っていた手にも一瞬力が入ってしまったので、友也の手に渡る書類に皺が入ってないかすぐさま確認して、問題ないことを安心して、音の方を向いた。紅朗がそこに立っていた。

「おう、登良。驚かせちまったか?…失礼するぜ、仁兎はいるか?」
「おぉっ、紅朗ちん!どした、おれたちに何か用か〜?頼んでた【返礼祭】のための衣装は、さっきあんずが届けてくれたけど、どっか、あとから不具合が見つかったとかか?」

衣装は仕上げたよ。仁兎に用事があるんだ。ちょっとツラかしてくれよ。と言う。『Ra*bits』の皆と一緒に過ごしたいだろうけど、『Valkyrie』がやべぇんだよ。俺じゃどうにもなんねぇし、幼馴染の気安さで斎宮を詰ったりしちまいそうだしさ。仁兎がどうにかと紅朗は言う。色々あぁだこうだとなずなが言うが、紅朗は向き合ってくれと乞うた。そんな二人の様子を見て、登良は、そっと視線をずらした。紅朗がそういうのなら、そうするべきだろう。昔に聞いた『Valkyrie』の話が脳裏によぎった。良い別れ方をしてないと言っていた気がする。冬の一件もあって有耶無耶にした記憶がする。始まる前に帰ってくるとは思うのだけれども、やっぱり最後の最後で心変わりされたらなんて思考をしてしまうので、情けないと思いつつそっと痛む胃を撫でていると、なずなはちょっと行ってくる。と部屋を出て走って行った。
ぽつりと帰ってくるよね。と言った音だけがよく響いた。



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