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ばちりと目を覚ますとカーテンの向こう側に太陽がみえた。ふと周りを見回すとすうすう寝息が聞こえて、昨晩の事を思い出した。暗いだけでパニックになって斑にすがるように眠ったことを思い出した。『Ra*bits』の仲間にも言ってない嫌いなこと。これが毎日続くのかと思うと気落ちしてしまう。ゆるゆる首を降った。太陽が見えていても今だほんの薄く暗い部屋に嫌気がさして、登良はさっさと自分の分の布団をたたんで散歩に繰り出す。念のために携帯もポケットに突っ込んでおく。時計を見ると朝五時。太陽が差し込みだしてすぐの時間帯。もうすぐしたら朝も遅くなるんだろうな。と思いつつ登良は武道場をあとにした。
散歩と言っても飼育小屋ぐらいしか思い付かずに、爪先はそちらの方向に向いた。金網向こうの動物たちは朝も早くから起きているようで、跳び跳ねたり毛繕いしていたりと思い思いの事をしている。登良は近くの石に腰をかけて、動物たちを見つめる。誰もいない空間になってて、世界に一人立たされた気分になった。ふうと息をついて膝に肘をおいて頭を載せる。空手の合宿もこんなのだったかな、なんてぼんやり思い出しながら、思考を巡らせているとまた友也と創の喧嘩の思考に行き着いた。何が原因だったのだろう、と考える。
隣の生き物の音を聞きながらぼんやりと携帯でニュースやらを見ていると、なずなから連絡が入った。どうやら朝食を作るようで、起きてるならおいでと書いてあった。時計を見ると軽く一時間が過ぎていて、6時。みんな起き出す頃なのかなと思いつつ、厨房に行くために立ち上がり伸びを一つ。朝の空気を胸一杯に取り込んで歩き出す。厨房に行く最中になずなと出会い、二人で並んで歩く。

「登良ちん、おはよ」
「に〜ちゃん、おはよう。」
「昨日、騒がしかったな」

電気消したぐらいからあんまり覚えてない。なんて告げると、登良ちん暗いの苦手?そう問われて登良の肩がぎくりと動いて視線はちらりとなずなの顔を見た。赤い瞳がこちらを心配そうに見ていた。

「夜は嫌い。怖い。兄と一緒ぐらい」
「みんな居るから怖くないぞ、困ったらに〜ちゃんのとこに飛び込んでこい」
「昨日、半面消した時点で軽くパニック、最終的に兄に飛び付いてきました」
「そんなに怖かったんだな、安心しろよ!創ちんも光ちんも友ちんもいるんだからな!」

怖かったら言うんだぞ!にーちゃんが隣についてやる!…って言ってもなかなか登良ちんは言わないけどな。カラカラなずなが笑う。それがどこか後ろめたくなって登良はしゅんと小さくなった。気にすんな!と言っても気にする方のタイプなのをわかっているのでなずなはそれを付け加えずに自分よりも小さいつむじを撫でる。

「創ちんももうすぐくるからな!」
「ん。」

小さく返事をして、昨日はどうだった?と問われ会話を繰り広げると、あっという間に厨房に着いた。二人で中に入る頃に創が追い付いてきたので挨拶を交えながら中に入る。米を炊いて、玉子を焼いて味噌汁を…と朝の戦闘を初める。昨日はそうそうに寝落ちしてしまったのでひときわ頑張ろうと心に決める登良はエプロンをつけて手を洗い、淡々と作業を開始する。
お湯を沸かし始めて野菜の下ごしらえ。野菜をザクザク切り分けてボウルに寄せる。人数が多いがもくもくとする作業が好きな登良の表情は比較的楽しそうになずなは見て取れた。昨日みんなで決めた献立に添いこれをやるから創ちんお米炊いて。と指示を出す。なずなの声を聞いて、どこか非日常感を感じて登良は口角をあげて、作業を続ける。
大根とニンジンの味噌汁、葉モノのおひたしと焼き魚に艶々ご飯。そして昨晩のあまり素材を中心に詰めた卵焼き。鍋とおひつをみんなで食べるところに運び混み自由取り分け、大きな皿1枚が一人分として11枚を机の上に広げて三人で騒ぎながら配膳する。

「創ちん。寝坊助がいないか見てきてくれないか?多分出てくるときに友ちん起きてなかっただろ?」

まだこっちに顔出しに来てないから寝てると思ってるから、起こしてきてくれないかな?ついでに話をしてきなよ。昨日の夕飯前に話せなかったんだろ?
に〜ちゃんはお見通しだぞ?ほらほら、と背中を押して厨房から追い出す、そのついでになずなは創に耳打ちを一つ。

「創ちんと友ちんが仲良くなかったら登良ちんが心配し過ぎて体調崩すんだから、気を付けてやってくれよな」
「え?」

じゃあ頼んだぞ!となずなが創を締め出した。登良は作業する手が止まったままなずなを見ていた。視線がどうしたの?も問われてるように見えたので、友ちん起こしに行ってもらってるんだ。と伝えると登良は二度ほど頷いて作業に戻る。遠くで満の声がして、楽しそうだな。と二人で笑いながら作業を続ける。

「今戻ったぞー!登良くん!」
「…はい、運んで。」

走ってきた兄を瞬間で厨房から追い出して、ランニング組に次々と作り終えた皿を片っ端から渡して食堂に運び込んでもらい、最後に薬缶をなずなに渡して登良はお盆に人数分のコップを乗せて厨房を出ようとした時に、創と友也が帰ってきた。登良!と呼ばれて振り返る。どうしたの?と目が二人に問いかける。まだ仲直りしてないの?とも言いそうな目をしている。

「友也くんと仲直りしたよ、」
「本当?」

よかった。と登良は笑う。どこか恥じらいもあるその姿に、登良は「俺も、ちょっと言い過ぎたかな。って思ってた。」しゅんと登良の視線が下を向く。いろいろ考えてたけれどそういうことにならなくってよかった。と告げる。

「そういうことってどんなことだよ。」
「…解散。とか、喧嘩して一人が退学とか」
「登良は考えすぎだって!そんなことにならないよ!」

解ってるけど、考えすぎて昨日一日ずっと胃が痛かった。にへらと弱弱しく笑う。それももう考えなくていいならもういいやと告げると、に〜ちゃんが心配してましたよ。と言われて、昨日の武道場のに〜ちゃんの叫びを思い出してうーん。と悩む。あとで謝ろうと思っていると、なずなに「みんな集まってるから!登良ちん!」と急かされて三人で顔を見て、一度笑ってから小走りで食堂に向かう。



それから【ハロウィンパーティ】用の衣装を決めたりレッスンしたりとあわただしい日々を過ごして二週間。毎日毎日ホラー映画の鑑賞会で毎日登良は誰かの隣で手を握ってもらったり兄の膝の上に隠れたりだとか早く寝たりだとかいろいろしつつ、レッスンやパオーマンスに熱を込めて時間は本番になった。衣装に着替えた登良たちは、廊下に出ると、あんずが最終調整のために待機していた。

「あんずさぁああん!!ママだよおおおお!!」
「煩い」

アンティーク調にこしらえたスカーフをぐっと掴んで斑の暴走を止める。もう!登良くんは恥ずかしがりやだからな!一緒に行くぞお!と登良を抱き上げてあんずの元に走る。止めろと意思を込めて抱き上げている腕をバシバシと叩くと仕方ないなと降ろされる。

「ひぇっ!お化け!!」
「…いや、みんな御着換えしてるんで…うん…」
「うひっ?急に大声出さないでほしいッス。こっちがビクッてするッスよ!よく見てください隊長、お化けじゃなくて仮装した登良くんッス!!」
「ああほんとだ、よく見たら登良くんだった…」

首を傾げていたら創に呼ばれて、そちらに歩いてくとあんずが光に衣装の調整をしていた。登良くん動きにくくない?と問われて、体をひねってみたりするが問題はなさそうと告げると、自分で裾を踏んづけて転びかける。裾長すぎた?ううん、大丈夫。とゆるやかに首を振ってると登良の背中に衝撃が走る。

「三毛縞さ…登良君!助けてくれ!!!怖い怖い怖い怖い!!!!」
「うひゃああああ!…え?あ?何…?…守沢先輩…?痛い痛い痛い痛い!!!!髪の毛!!!!」
「親分!大丈夫ッスか?今の間に!」

髪の毛を掴まれて悲鳴を上げる登良に鉄虎が千秋を引っぺがす。湊太がユニットの方に行っておいでと言われて、周りにユニットの見知った顔が居ないことに気が付いて、頷いてから駆けだす。角を二つまがれば、メンバーの背中を見つける。登良は二人の名前を呼んで二人の間を裂くように立って腕をつかむ。登良どうした?と友也に言われて登良はなんでもないと首を振る。

「ちょっと楽しんでる」
「…登良がそうやって笑うとかわいいよな」
「そうですよね…」
「?どうしたの?二人とも?」

三人で喋っていると、写真一緒に撮ってください。と声をかけられて一緒に写真をとりましょう。とファンサービスを開始する。ライブが始まるテンションの為か日常表情の変化が乏しい登良も今日この時はひどく笑顔で写真を撮ったり創はお茶を売ったりしだして集客を兼ねて販売をしていたりすると、光が駆け寄ってきて、舞台で集合かかってるの連絡を切り上げて舞台脇に集まりなおす。
「登良ちんも来たな!はしゃぎすぎて事故らない様に、柔軟運動はしっかりやっとけ!」の号令に従って柔軟を始める。舞台までもう少し。柔軟を終わらせて舞台脇に立つと、友也が登良の手を握った。

「…?」
「不安ならこうしてたら怖くないだろ?」
「…ありがと、友也。」

お願いだからこっち見ないで。ちょっと恥ずかしい。繋いでない側の手で自分の顔を覆う。だるだるの袖で顔を隠して目線を逸らすが、それでも耳は隠れずに真っ赤になってるのが見えて、友也がクスクス笑う。笑うなよぉと小さな声でつぶやく。数秒後に来る照明の暗さを早く望んでるのだから不思議な話だよな。と友也が言う。

「なにかいった?」
「ほら、はじまるぞ。」

友也が舞台を指差した瞬間、照明が消えた。それと同時に登良は小さく息を飲み込み友也の手は強く握った。舞台中央で各ユニットリーダーが一言添えてから全員が飛び出して、どの仮装してるかという説明の段取りになっている。おいでー!となずなの声が聞こえるので行こう!と友也が手を引く。半分泣きかけだった登良はうん、と大きく頷いて二人で舞台に駆けだした。




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