スカウト!マーチングバンド





【桜フェス】で『Trickstar』が出るのでその宣伝をするぞ!と連絡が来たのは30分前だった。仁兎に指定された場所に到着すると、転校生が目を輝かせて登良の手を握った。

「ね、登良くん楽器できる。」
「ひえっ!?…………楽器、ですか?」

はぁ、と言わんばかりの生返事を起きた。何がどうなっているのか説明してほしい、と伝えると転校生のあんずがごめんねと笑った。あんずの説明から登良がつまんで理解できたのは宣伝を兼ねてマーチングバンドをしよう。となったらしい。ということで、楽器ができるかと結論づいたらしい。ある程度説明が終わって、さてと。とあんずがニッコリ笑って「…で、楽器はできる?」と問いかけられる。たしなむ程度にはある程度兄には教えられてるので大体は楽譜さえあれば吹けるだろうと推断して言う。

「……吹奏楽で使うような楽器なら大体はできます。」
「ほんと!じゃあ登良くんにはなにがいい?」
「登良くん、僕はフルートですよ!」
「……マーチングバンドなら、音は欲しいから金管……トランペット?。」

まるで答えが予想されてたように、あんずがはい。と楽器を差し出した。あんず先輩!登良くんまだ衣装に着替えてませんよ!登良くんこれ、衣装です。何時ものネクタイからこれに差し替えてください。あとこれも!と楽器の上に衣装のピンクのネクタイが渡された。ユニット衣装は大体持ってるので問題はないだろう。

「あ……はい。とりあえず着替えてきます。創、楽譜ある?」
「はい、あんず先輩が用意してくれました!」

すでに準備はできてる。と言わんばかりにトランペットの楽譜が渡される。簡単な楽曲で、過去に登良が吹いたことあるな。と思い出した。あとで、ほかの子も呼びに行くからね。と小さくガッツポーズしてあんずは登良に声をかける。友也と光も来るんですか?と言うと、そうだよ。とあんずがどうしたのなにかあった?といわんばかりに首を傾げる。

「友也が来たら、俺スーザやります。だから友也に金管楽器をやるように頼んでください。そして友也にスーザを持って来てもらってください」
「なら先に楽器持ってこようか?」

あんずの提案に登良は首を振る。友也と一緒のタイミングでいいです。この場所に創のフルートとにーちゃんのガードとスーザはバランスが悪いので、ほかが集まるならそのタイミングで構いません。4人でやるにしても音は欲しいですし。とにかく友也を使ってスーザを持って来てほしいと登良は頼む。いやいやちょっとまて、と仁兎が止める。

「登良ちん、スーザって大きなのだろ!?重たい肩にかける楽器だろっ大丈夫なのか?」
「俺、楽器は大体仕込まれてるので問題ないです。体力もそれなりに自信はあるので、吹けますよ?振り回すアクションも」
「登良ちんがそういうなら……。」

それまではいくらでも望むままのパフォーマンスをしますよ。と告げて、手元のトランペットを軽くふく。この間やったばかりのユニットソングのワンフレーズを難なくふききって、とりあえず着替えてきますね。と登良は楽器と共に一度校舎の中に消える。そんな登良の背中を見送った仁兎が、「登良ちんって斑ちんの弟だけあるなぁ。」とこぼす。音は隣にいた創が拾って、疑問符を浮かべる。「に〜ちゃんなにかいいましたか?」
「ううん、なんでもない。なんでもふけるってすげぇな。って思って」消えて行ったその背中に大きな楽器がかかるという、そうですね。と二人は零した。
そんな事とはつゆ知らず、登良はユニット衣装に着替えてネクタイを今回用に着替える。ピンクのネクタイに桜モチーフのサシェと胸元に桜のバッチ。帽子は白帽子に音符とリボン、登良が細すぎて大きく見える膝少し長いパンツ。オーバーニーの靴下とブーツを履いて、楽器と一緒に外に出ると、仁兎のバトントワリングと創の演奏が耳に届いた。楽器を持って慌てて出て行くと、二人で何とか場を持たしてるような感じだった。少しの人だかりができていて、どうやって入っていくか考える。わたわたと慌てるような音が風に乗って聞こえるので、それに合わせてベース音を作って混ざればいいと判断する。マーチベースなので歩く速度を思い浮かべて、修正するようになればいいのだけれど駄目なら合わせればいいかと思い、小節頭の音を四つ吹き出す。二小節分音を出すと、視線がちらほら集まる気がして、そのままのリズムに合わせて歩幅を刻む。マーチング一拍目と三拍目を左足にするんだったっけな、と思いながら登良は脚を進める。音の存在に気づいてか聞いてる人たちが気が付いて道を作ってくれる。これを演出ととらえたらしい。

「登良ちん!」
「お待たせしました。ちょっとの間、創は休憩してていいよ。に〜ちゃんはもうちょっと一緒にがんばろ?」
「登良ちんがいい子でおれは嬉しいぞ!」

頭を撫でられたが登良は気にすることなく楽器を吹く。一般的に聞きなれた簡単な音楽にタンギングで多少の工夫をしながら吹き進める。小学校でやるようなだれもが知っている曲を独奏用楽譜だったはずだ。表の拍に合わせて楽器を振りながら登良は仁兎に合図を送る。仁兎が話し出したので音を絞りつつそのまま吹き鳴らす。一曲吹き終わると、まばらに拍手が聞こえだす。

「登良くん、ありがとうございます」
「この後、吹ける?」
「はい!大丈夫ですよ!」
「友也と光が来るまで頑張ろう?」

そうですね。と嬉しそうに創が笑う。登良はそれにつられてふっと息を吐くと、次の楽曲だと言わんばかりに先ほど転校生にもらった楽譜を吹き始める。入るタイミングが分かったらしい創の音が耳に届く。その音に合わせながらフルートが主旋律を吹いてるというように登良はリズムうちに徹する。華やかな音と創らしい柔らかい音が同時になる。時に同じ音を吹いたりベースを担ったりしながら、アレンジして違うように聞かせることを登良は意識する。二人でしばらく吹いてると、仁兎が慌ててごめん!と一言残して端っこの方に消える。電話がかかってきたらしい。登良は気にせず電話に音が入らない様にベルの方向を変更して、創に合図を送る。仁兎が転校生と一緒に帰ってきて、創と二人でたくさんの拍手をもらいながら登良は小さく笑うのだった。
そしてしばらくたって友也たちが来ると、友也と楽器を変えてベースに徹しながら登良が光に叩くタイミングを教えるということをしながら『Ra*bits』のマーチングバンドを成功させるのであった。

この時、三毛縞斑の弟。というものがとんでもない可能性の塊で規格外の兄を持つ規格外の弟とまことしやかにささやかれたとかささやかれてないとか。




[*前] | Back | [次#]




×