俺とつむぎと踊りたかった夏の日。 





なにもしたくない。とか思うと体も勝手に空いた教室にいる。いや、体の持ち主が俺だから俺の意思なんだけどさ。久々に学校来たけど授業なんて受ける気にもならなくて、空いたレッスン室でこっそり寝転がる。昔はよかった。まぁ帰ってこない過去は足掻いたって手には入らない。二度とは手に入らないのだ。

「ユニットは俺一人だし。どーすっかねぇ…あーだる。」

夏を迎えかける日差しは熱いが、床はひんやりとしてて気持ちがよい。入り口に背を向けて、頬を床にべったりつける体勢で思考も意思も存在も夏の熱さにやられて溶けてしまえばいいのに、とため息一つ。今さらユニットに入るのもなぁ。どうして俺は二年の時に怪我をしたんだろう。怪我してレポート裏方で点数貰って三年には上がれたんだけどなったとたんに再度怪我してダブり。そのせいで同い年で組んだからメンバーなんていないし、去年弟は壊れたし。どこで選択を間違えたんだろうか。なにかえらんでなかったら、弟の代わりに俺が尚壊れたのかもしれない。それでも良かったんじゃないかと息を吐く。
去年は五奇人と、一閥。そう呼ばれた時代もあったがあれだよ。五奇人と一緒に物理的に動けなかったんだ。否俺が先に降りちまったんだ。悪かったって思う。ごろりと、体を天井にまっすぐになるように動けばそこに夢ノ咲の制服スラックスの通った足が一対。そっと目線を上げれば、青のメッシュがめについた弟がいた。

「探しましたよゆらぎくん。」
「ほっといてくれよ、つむぎくんよぉ。」

壊れたものなんて捨てていけばいいのにな、ため息一つついてつむぎに背を向ける。踊るんですか?と聞かれたが、残念ながら踊る足はないのだ。きれいに円の書けないコンパスなんて使い物にはならないんだ。まるでおとぎ話の赤い靴のようだとふと思う。踊るのが好きで踊っていたら、躍りをやめれなくなって最後は足を切り落とし、足だけがどこかに行く話。足を怪我して踊る気持ちだけ勝手に走って行って、ユニットから浮いて最後は俺だけが残った。残りはみんな卒業してしまった、他の面々なんてここにはいない。あるのは過去に残した大量の領地と俺だけだ。

「今日朝から病院行ったんだけどさ、やっぱりもう前みたいな踊りは難しいんだって。」

アイリッシュダンスとかやりてーんだけど、気持ちだけが走りすぎてどこかに飛んでいったんだ。だから踊れないんだって思ってたんだけどさ。踊りたくて仕方ないんだ、奇跡も魔法も起こせない俺だから見送って捨てたつもりでいた赤い足が遠くに走っていったはずなのに、赤い足が足元で踊れよって未だに誘ってるんだ。俺の赤い靴なんてもうどこにもないのにさ。

「なぁ、つむぎくん。」
「はい」

また躍りはじめるよ。前みたいなのは無理だけど、ちぎれて消えてった足すら自分で神経つないでさ、校則とユニット規定ギリギリですり抜けながら。だからさ必要なら呼んでよ。足をぶっ千切ったって俺はここで踊ってやる。輝いてやる。どこまで行ったって俺は予定狂わせの存在だからさ。ほら、昔ついただろ。幸せゆるがす何とかーってどこかの皇帝様がかってに作ったやつ。ほんと今それどおりになってんだよな。って思うよ。ユニットの予定すら揺らして壊して、未来なんてないのにさ。

「いつかまたおんなじように踊れっかな?」
「ゆらぎくんは強いから大丈夫ですよ」

ふてくされて横を向けば、つむぎはクスクス笑って俺の頭をなでる、独特のリズムで髪の毛を鋤くような撫で方は俺の癖で幼い頃に面倒見て子守唄とつむぎをなでたりしてたから、うつったのかもしれないなぁ。と思うが最初に言っとく。俺は弟に頭を撫でられる趣味は持ってないし、そういうときに撫でてたのは弟の、腹だった。

「つむぎ、いらん。」
「昔みたいに俺を呼ぶときのゆらぎくんは意地っ張りですからね!」

ほっとけつむぎ!今までの空気全部ぶち壊しじゃねえかよ!あーあつい。怒ったら尚暑い。嫌い、やだ、嫌がらせ含めてつむぎの嫌いな冬になれば良いと俺は心底思う。そんで嫌がらせで、つむぎで暖をとって寝てやる、いいんだよ。兄の特権だよんなもん。俺の冬の手は末端冷え性でひえひえなんだよ。

「あー踊りてぇ。アイリッシュとタップやりてぇなぁ。」

天井とつむぎを睨んで、口を吐いた。するとどこからもなく転校生が現れてレッスンしようとせかしたてたのだった。おい待て、やるとは俺は言ってない!待て待て早くは歩けないんだってば!つむぎ入り口に立ちかけた杖あとでもってこい!ついでに夏目ちゃんにぼこられろ!くそったれ。




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