043

バスは試験会場にたどり着く。すこし荒れた市街地を想定した作りのエリアだった。エリアの中央の塔の根元がスタート位置らしく、そこにつけと言われたので指定の位置に向かう。雄英のグラウンドの砂だってばれないばれない。ここの砂だよー。そうだよー!相澤に指定された位置に立つ。
すでに見られていたらしく、リカバリーガールの確認の声を聞く。BGMクラスメイトの歓声のもと、第2段の号令が始まる。自分で時間を確認するために時計のストップウォッチを起動させて動き出す。
まずやるべきことは、カフスの固定だ。捕縛されたとき用の保険は、梅雨ちゃんのチームが動いていたことに似ている。相澤やオールマイトに、私がカフスを持ってないと思わせることが必要だと判断する。塔のてっぺんに引っ掻けるようにカフスを二つ置いて、移動を始める準備をする。
相澤とオールマイトの二人同時に出会うともうほぼヤバイので、どうするかとぐるりと思考を巡らせる。地下を進むか、進まざるか。上を走るか走らざるか。地上を行くか行かざるべきか。相澤の視界と私の視界との兼ね合いがあるから、上を走って有利を取ればオールマイトがやって来るだろう。から、上は止めよう。空中の機動力はすこぶる悪いのだ。
地上を走るかと心に決めた瞬間に「逃がさねぇ」と声がした。反転するよりも早くに相澤だと理解したのは視界の端に捕縛用途の白いのが飛んだからだった。

「オールマイト居たぞ!!」

増えるのは困る。右足を軸にして踏ん張って蹴りあげたが掠りもせずに届かない。ならば、然る対処は相澤の瞬きの間に対処をするか隠れるか。襲撃によりインターバルが長くなったりしたとも聞いた。それまで、持つか。なんて思ったが持たないし、オールマイトが増えるのだから、むり。逃げて”個性”が消えるようにするしかない。視界から隠れれば解除されるのは、百達のでみた。ぐっと踏んで、相澤と距離を開けるようにバックステップで逃げれば、捕縛武器を使って追撃してくる。やばい、と踏んでそのまま物陰に隠れるように逃げる。相澤の視界を外れたので、近くのコンクリートを近くの壁に設置して、重力のままに落とす。砂煙を巻き起こし轟音が鳴る。二度三度同じことをして埃をまわして、少しでも時間を稼いで距離を移動しなければ。私のみえる位置にカフスが見えるようにしなければならないのだ。足元のコンクリートをひっぺがして、煙の置きやすい環境を作り、逃げる。
五メートルほど走った瞬間に、オールマイトの拳によって起こした砂埃が凪がれて消えた。
やばい、相澤だけでもと思って本能的に遠くに置く。思ったより30メートルほど置いた距離の先に相澤がいるのを確認して、脇道に逃げて、追跡の妨害のように砕けているコンクリートを壁に沿わせてから、手を離すように落とす。バラバラとこぼれていくので、オールマイト対策にいい。そのまま走ると、足元に自分よりも大きな影ができて、上を見るとオールマイトが拳を降り下ろそうとしていた。
慌てて横にそれて、オールマイトと壁を視界にいれて、”個性”を発動させる。下半身だけを埋め込んで、カフスのある先をみたが、そこは砂ぼこりで煙っていた。やるんじゃなかったと後悔するが、そんな時間をオールマイトは作ってくれない。

「相澤くんこっちだ!!」
「今行く!」

カフスをかけるのを諦めて、私はそこから逃げるように走るのだ。目指すはゲートだが、恐らく相澤もゲート地点で待ち伏せているかもしれない。そう思うだけで胃が酷く痛んだ。ちらりと腕時計を見やると、残り時間はあと二十分。もう、こんなことあと2回あるのか、とも思うとちょっと泣きそうになる。


/back/

×