021

「つ、つかれた・・・。もうむり。」
「情けないですわよ。佳英さん」
「大丈夫だってー佳英ちゃんすごいよ」
「…あー。お茶とりに行かなきゃ。ちょっといってくるね。」

だるーつかれたー。もういいでしょ、とか思いながら人ごみをかき分けて控室に戻ろうとする。爆豪がそこにいた。おつかれと声をかけようとしたが、行くなと口ごと鼻も抑え込まれる。ちょっとまってなによ。抗議の声をあげようとしたら、抑えた声量で黙ってろと言う。とりあえず鼻だけは死守して、どうしたのよ?とふがふが言ってみる。返答は見事に、黙ってろ爆破するぞ。だったので、しかたない、黙ってやろう。

「そんなんじゃなくて、って言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな」

俺の親父は…エンデヴァーは知ってるだろ。万年ナンバー2のヒーローだ。お前がナンバー1ヒーローの何かを持ってるなら俺は。
ここまで聞いて、轟の声だと理解した。あーあいつ、うちとは違って、悪かったな庶民で。うっせーーーぞ。それはおいといてくれ、そんな有名どころの親なんだなぁ。と思いつつ、喋ってる相手は誰なんだろうかとぼんやり考えてみる。爆豪がここにいて、聞いてるってなると、相手は緑谷か?とも思慮をめぐらせる。なんか、重たそうな事情みんな持ってんだなぁ。なんて他人事のように聞いてると、何とも言えない轟とは別の声、あぁ緑谷だと気づく。宣戦布告したのもどうやら、その父親を見返すとか言ってる。…何を言ってるんだろうね、とも思うと同時に、何を考えてるんだろうね自分。って私を殴りたくなった。他人事の事情に深く首を突っ込まないほうがいい。私が二つ年上なのもばれかねない。変な年上意識を付けられるのも困るからだ。たぶん、仮免とかで年齢ばれるんだろうけれどさ。

「僕は、ずうっと助けられてきた。さっきだって、僕のチームに。僕は、誰かに助けられてここにいるんだ。」

オールマイト、彼のようになりたい。彼のようになるためなら1番になるくらい強くならなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない。でも、僕だって負けらんない。僕を助けてくれた人たちに、応えるためにも。さっき受けた宣戦布告を改めて僕からも・・・。僕も君に勝つ!
青春だねェ、とか思いながらほぼほぼ全文立ち聞きしてしまった罪悪感を覚えながらも、私も君らの青春に混ざれてるのかな、なんて頭の隅のどこかで思う。…やはり、どこか彼らにキラキラまばゆいようなものを当てられてしまっているようだ。ため息を一つ。
轟も、緑谷もそのままグラウンドを経由していってしまった。遠ざかる足音を聞いて、爆豪が私の口元を抑えていた手をはなす。ぷはっと息を吐き出して、轟たちのいたほうを見つめる。

「…なんか、とんでもないこと聞いちゃったねェ。」
「んなの、だいたい誰にでもあるだろ。一番になりたい理由なんて」
「なもんかな、私も私で特殊な事情。ってやつはあるけれどね。」
「なんだよ、それ」
「いつかね。言うのはひどく難しいからね」

んじゃ、と手を挙げて控室に戻るのであった。そういえば、水のみ切ったの忘れてて、結局無駄足になるのでした、まる。ちょっとしまらないよね。HAHAHA。情けねぇ。



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