あるひのしあわせ
『もう少し…右かな』
彼女は、四角い小さな穴を見ながら僕にそう言った。僕は彼女の言うとおりに、このソファを動かす。「あ、いき過ぎー、ちょい戻って」とまた僕に言う。言うとおりに動かす。何回目だろうか。僕には"もう少し"や"ちょい"という動きが難しいみたいだ。「わたしがやろうか?」と苦笑い気味の彼女が、穴からではなく、背中を伸ばしてちゃんと僕を見る。
「ごめんごめん。でも大丈夫。…これでどう?」
『うん…お、いい感じ。よし、セットするよー』
「お願いします」
彼女はボタンをポチっと押す。オレンジ色の光が点滅し始める。これを見ると、僕はいつも胸がドクンドクンドクンと少し速く動く。
僕はセッティングしたソファに座る。戻ってきた彼女は、僕の隣に座る。
さっきより点滅が速くなった。もう少しだ。僕はピースをする。
『ねぇ、かたいよ。ほら、笑顔で!』
「なんか、緊張するから…」
『ふふ。じゃあほぐしてあげる』
そういうと、彼女は僕の頬にちゅっとキスをした。遠くの方でカシャという音と同時だった。彼女はにこにこしながら、音のなったほうに向かう。
『ねー見て見て!ふははっ、すごい顔してるよ』
「それは、君が急にあんなことするから…」
『ふふふ。そういうところ、だいすき』
「…僕もです」
僕らの幸せが、一枚の写真に描かれた瞬間だった。
happy様に提出 テーマ「しあわせ」
wrote:120517