*その間だけでも(次富)
※次屋→富松
「あー、ここ何処だ?」
裏々山での実習を終え、忍術学園に戻る途中、何時ものように道に迷った次屋三之助はようやく自分が迷子になった事に気が付いた。とりあえず三之助は学園が見えないかと近くの木に登ると、下から声がした。
「三之助!オメェこんなとこにいやがったのか!すっげぇ探したんだぞ!」
「おー、作兵衛。」
声の主は同じ三年ろ組の富松作兵衛だった。何時も、迷子になる三之助(と左門)を探しに来てくれるしっかり者だ。三之助は木から降りて、作兵衛に近寄る。
「まったく、見付けるの大変だったんだからな。」
「ごめんね、作兵衛。」
「謝るくらいなら最初から迷子になんてなるなよな。ほら、帰るぞ!」
作兵衛は怒りながら、三之助の手を引いて学園へと歩き出す。少し強めに握られた手がちょっと痛い。
「いい加減にその無自覚な方向音痴治せよな。何時も探しに行かなきゃならねぇ俺の身にもなれ!」
「うん、わかってるよ。」
「ホントかぁー?」
「ホントだって。」
ホントだとは言ったものの、三之助は方向音痴を治す気はあまりない。何故なら、作兵衛が好きだから。方向音痴を治したら作兵衛はあまり自分のことを見てくれなくなる気がしてならない。
迷子になった自分を捜してくれている間だけでも、自分のことを見てくれて、少しでも自分のことを考えてくれるなら、忍者として致命的でも方向音痴のままでいい。
「…勝手でごめんね、作兵衛。」
作兵衛には聞こえないほど小さな声で謝ると三之助は作兵衛の手を少し強めの力で握り返した。
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三之助は方向音痴が自分と作兵衛を繋げる唯一だと思ってる。
作兵衛は方向音痴があってもなくても三之助を大事に思うのに。
(2012.05.01)
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