03

「私は君の戦い方、好きだったけどね。無駄がない」
「はは。そんなことないさ、迷いだらけの殺し方だって言われてたんだから。むしろ君のほうが効率的だったんじゃないの? ねえ、『青の傭兵』サマ」
それを聞き目を細めた彼女はカップに口をつける。道に面した硝子張りの壁から差し込む柔らかな日光が彼女の華奢な手や滑らかな肌を照らした。
二席隣で世間話をしている女性らはまったくこちらの会話が聞こえている様子はない。近くにいようと、周りにはたいした興味も関心もないらしい。
彼女はこうやって街中でお茶しているだけならただの美人だが、戦場で武器を持てば冷酷な殺人鬼に豹変する。体格に合わない銃器を使いこなし、懐に忍ばせたナイフで敵の首を裂く。相手がどれだけの人数だろうと、国に命じられた任務は全てこなして帰ってくる。遠距離戦も近距離戦も、どちらにも死角はない。
昔見た、真っ赤に濡れた身体と、そのなかで爛々と輝く青い目に、恐怖を抱くと同時に心を奪われたことを覚えている。
「……みんな私のことをそう呼ぶらしいんだけど」
タルトを食べる手を止めぼんやりと物思いにふけっていると、納得できないといった様子で彼女が言った。
「私のイメージカラーって赤だと思ってたの。誰がつけたのかは知らないけど、なんで青なのかな」
首を傾げた彼女に、彼はううん、と考えて、ぽんと手を打った。
「やっぱりあれじゃないかな、目の色。戦場に行くときは大体地味な色の服着ているだろうし、強烈に印象に残るんじゃない? まあ君に会った人間はたいてい墓の中だろうから、情報屋から仕入れた情報を記者たちが面白おかしく書き立てているだけなんだと思うな」
「そういうものかな」
「さあ。少なくとも俺は血まみれの君よりも普段の君のほうを良く見るから、その呼び方に何の違和感もないんだよなあ。むしろ納得した」
「あっそ」
彼女はまたコーヒーを口にする。飲みきってしまったようで、少し離れたところにいる店員に声をかけると、今度は紅茶とショートケーキを注文した。
店員が厨房に向かったのを見ると、「やわらかそうね」とポツリ、彼女が呟く。嫌悪感の漂う、むっすりとした表情。
「何が?」
「さっきの人。のうのうと暮らして平和ボケしてそう。きっとあの人、『あー明日も仕事か面倒だなあ』とか思ってるんだ。明日があるだけいいじゃない。私らみたいな孤児とは違う世界で、甘い汁吸いながら生きているんだろうな……アブラムシみたいね」
「ものすごい言い方だな……羨ましいなら足洗えばいいのに。うまい具合に過去のデータ消してもらってさ」
「別に。というか無理だよ、こんなぬるま湯みたいな場所で暮らすの。時々帰ってくるくらいならまだしも、ずっとなんて、気が狂う。私の居場所は、硝煙と血のにおいのする戦場でいいの。お似合いでしょ」
「そっか。せっかくの美人だから嫁の貰い手もあるだろうに、もったいない」
最後のひとかけらをひょいっと口に放り込みながらそう言った青年に、彼女はなんとも言いがたい表情を浮かべ、口元は何かを言いたそうにはくはくと開閉している。
盛大にあきれているようだ。何故。
「……なに」
「君あれだ。もてるけど彼女はいないでしょ」
「ばれた?」
「顔と当たり障りのない物言いに騙されてついていくけど、いざ付き合ってみたら女心のわからない朴念仁」
「酷い貶されようだな俺」
「でも大正解?」
「そう。大正解。でもさ、仕方ないと思わない? まず性別違う時点で考え方が違うし、前提として彼女らと俺は違う人間なんだから、何でもかんでも把握できるわけじゃないんだ。人が何を思ってるかはなかなかわからないや」
肩をすくめてけろりと笑ってみせる彼に、彼女は溜息をつく。


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