おおふり | ナノ


それは突然紡がれた。私が1+1の答えを出す位に簡単に。





[Answer]





気分転換に教室で勉強して行こうと思って残って30分。
もうクラスの人は全員帰ってしまって、少し寂しい。
夕焼けが差し込んで来る窓の外を見ると、校庭には誰もいない、何か変な光景。
テスト前だから当たり前だけれど、でも野球部の1人位はいるかなって思ってたのに。
志賀先生がいるからそうもできないか…。
今日は西広君の講座開かれてるのかな…私も参加したかった、でもあのメンバーだと私が講師役をやらなきゃいけないかも。
そんなことを1人で考えながら問題を解く、わりと捗るかもと思いつつもやっぱり数学は苦手だ。





「良かった、いたいた。」
小さな声だったけれど、少し驚いた。
だってそれは聞き慣れた声だったから。
「泉君、どうしたの?」
そう、それは泉孝介のものだった。
「はい、これ。」
彼はそう言いながら、私に1枚の紙を渡した。
「今月の予定表、そこでシガポに会ったから。」
予定表にはテスト後の練習日程がぎっしり。
あぁ早くテスト終わらないかなぁ。
「あ、ありがとう!あの、」
「ん?」
「忙しくなかったら…この問題だけ、教えてください…」
彼も野球部の中では講師役に値する力量だ。
特に数学においては私の何百倍も出来て。
「良いけど、これ?」
コクンと頷くと彼の瞳は綺麗に弧を描いた。
これくらいできるだろ、と憎まれ口を叩く。
ごめんなさい数学は苦手なんです、もう!英語なら逆の立場なのに!





「ここはこうで…ほら。」
「わぁ…できた!」
「おぉ。」
「ありがとう!」
「今何時?」
「えっと、4時半。何かあった…?」
「いや、特に。篠岡は最終下校までここで勉強してくの?」
「うん、そのつもり。」
「ふーん、」
捗る?と聞かれたら捗ると答える。
泉君が来てから少し捗らなくなったけど、だってなんだか緊張するの!
泉君は勉強しないの?と聞けばするよと答えつつも彼は窓の外を見ている。
そして、変なの、と呟いた。
「何が変なの?」
「校庭に誰もいねぇ。」
「当たり前でしょ、テスト期間だもん。」
「あぁそっか…」
「でもね、私もさっき同じ事考えた。」
「ははっ、そういえばさ…」
「ん?」
「俺、篠岡の事好きなんだ。」
「へ、あぁ…そうなんだ…」
「じゃあな、また明日。」
「うん、また明日。」





泉君が教室を出て30秒。
頭がぼーっとする、窓から差し込む夕焼けが暑い。
勉強も一切捗らなくなった、意味が無い。
ええと、なんだっけ…
そういえばさ、俺、篠岡の事好きなんだ。
何だ、あれは。
告白だろうけど、どうしてあんなに簡単に。
泉君が私の分からない数学の問題を解く位に簡単そうだった。
そして私はなんなんだ。
へ、あぁ…そうなんだ…
まるで噂話を話す様なやり取りだった。
国語なら泉君に負けないなんて言ってる場合じゃなかった。
もう少し素直な言葉が出せなかったのかな、私も泉君も。
いや、泉君は十分素直だった。
ひねくれものはわたし。
校庭に誰かいないか探していたのも、泉君がいるかもと少し期待したから。
西広君の講座に出たいのも、泉君と少しでも勉強したいから。
数学の問題を教えてと言いながら本当はもう少し一緒にいたかっただけ。
窓の外、校庭を見ると泉君がいた。
下校にどうしてそんな所通っているの、平然と。
「泉君!」





待って、まだ分からない問題があるの!と叫ぶとまた彼の瞳は弧を描いて。
早く来いよと叫び返された。
ペンケースと問題集を慌てて鞄に入れて階段を駆け下りる。
動悸が激しいのは走っているからでしょう?
あぁ、1+1の答えはなんだっけ。
きっと私が数学が苦手なのは泉君に教えて貰うためなんだ。





━End━





「で、どの問題が分からないの?」
「あのね…答えは!」


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