「泉くん?」
「ん?」
「聞いてる?」
「んー…」
今日の泉君は絶対おかしい。
さっきから意識が無いのも同然。
んー、とか、あー、とかしか喋らない。
「どうかしたの…?」
「ん?」
「何かあった…?」
「別に…」
「そっか、」
何かあったのかな。
悲しいこととか苦しいこととか。
聞いても答えてくれないから分かんないよ、泉くん。
「わたしといるのつまんない…?」
「いや、」
「わたしのこと嫌いになった?」
「ちがうよ」
「じゃあ、なんで…」
「ちょ、あんまこっち見んな。」
泉くんの言葉がグサリと胸に刺さった。
痛い。
今日は本当に久しぶりに部活がオフで、映画館デートする約束だったのに。
だから新しく買ったワンピースを着たし、髪もいつもと違う感じにしたのに。
「なんで…、」
やだ、もう涙出てきた。
本当ごめん、泉くん。
こんな面倒な彼女のこと嫌いになって当然だ。
「―…っ!ごめん、篠岡。」
わたしの涙を見て慌てて泉くんは足を止める。
「あの、あまりにも篠岡がいつもと違う可愛さだから、…いやいつも可愛いんだけど、俺、なんか…緊張しちゃって。」
「え…?」
「マジこのままだと人前なのに篠岡になんかしでかしちゃう気がして…映画館行くまで我慢してた。」
「本当…?」
「嘘なんかつかねーし、嫌いになんか死んでもなんねーから。」
[押して駄目ならなんとやら]
そう言って泉くんはわたしのおでこにキスをして、親指で涙を拭ってくれた。
「…ひっ、人前!」
「だって篠岡はこっちの方が良いんでしょ?」
「そ、それは…」
「じゃあさっきのに戻ろうか?」
「今のが、良いです…。」
自分でも顔が赤くなるのを感じる。
「了解。よし、行こ。」
そう言って泉君はわたしの手に自分の手を絡めて止まっていた足を進めた。
「あれ?逆…」
向かっていた道とは逆に進み始めた彼を不思議に思って見上げると、彼はニッコリと笑った。
「やっぱり考えたんだけど、映画館だとイチャイチャ出来ること限られてるじゃん。」
「え…?」
「だから急遽俺の家にコース変更。」
「…え!?」
「口答え禁止ね。」
そして上からゆっくりと彼の顔が近づいてきて、わたしにキスをした。
「…人前!」
「良いから!」
━End━
やっぱり今日の泉くんなんか変!
…でも嫌いじゃないよ!