おおふり | ナノ


昨日久しぶりに会ったからって期待してるわたし、馬鹿みたい。
裏切られるって分かっていながら、小さな勝機に賭けちゃうわたし馬鹿みたい。





[恋はギャンブル!]





昨日のこの時間に桐青高校の高瀬さんに電車の中で偶然会いました。
そしてわたしは淡い期待を抱きながら、今日も同じ電車の同じ車両に乗る訳です。


駅で1本電車をわざと見送った時、不思議な顔をして私を見ていた名前も知らない西浦の生徒と目が合った時、わたしはどうしようも無い不安と後悔と罪悪感に潰されそうになりました。
そしてその後に来たのは、緊張とワクワクした楽しみの感情。


わたしは彼と会えるかもしれない可能性に、自分の時間を賭けたのです。


わたしはにやにやとしていたと思います。
昨日の会話を思い出したり、もし今日会えたら話す内容を考えたり、髪の毛を入念にといたり、そんな馬鹿なことばかりしていました。


高瀬さんが昨日乗って来た駅名がアナウンスされて、わたしは1度目をぎゅっと瞑って、そうっと入って来る人の波の中に高瀬さんを探しました。
桐青の制服を見つけて喜び、高瀬さんじゃないと分かり落ち込んで。


そうして
そこに彼の姿は、
ありませんでした。

つまりわたしは
賭けに負けた訳です。


良く考えれば当たり前でした、最初から勝ち負けが決まっている試合の様なものでした(野球には絶対存在しないですけど)。
だって何を根拠に彼が同じ電車に乗るかなんて。
偶然昨日会ったっていうだけでしょう?





「篠岡さん?」
うつ向きながらそんなことを考えていると、頭の上から名前が呼ばれました。
どうやら次の駅に着いた様です。
顔をあげると高瀬さんの姿がありました。

「…どうして?」
「ちょっとこの駅に用事があって。」
「あ、そうなんですか。」
「昨日と同じ電車に乗ったら篠岡さんに会えるかなって思って、何本か電車見送ったら本当にいた。」
「…え?」

「それでもし会えたら言おうと思ってたことがあって。」
「はい、」

「俺とこれからも一緒に帰ってくれませんか?」

「えと…?」
「う…つまり、付き合ってくだ、さい。」





「…よろしくお願いします。」
「え、本当すか!?」
「本当っす。」
「うわー、うっしゃ!嬉しー!!」

「実は私も会えるかなって思って、電車1本見送ったんです。」
「マジで!?」
「…賭けました。」

「俺も今日篠岡さんに会えたら告白しようって賭けてたから、スゲー緊張したっす。」

彼の方がだいぶギャンブラーだったようです。
それよりなにより、これからは偶然に小さな期待をしなくても必然的に一緒に帰れることになった訳です。
最初から勝ち負けが決まっている試合の様なものになった訳です(野球には絶対存在しないですけど)。


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