「なあなあ、聞いてよ」

 ああまたか。


つまりボタンは紳士の嗜み


 僕の六畳の部屋にはセミダブルのベッドと学習机が八割占拠している。ベッドに座ればいいものをこいつは何が嬉しいのか冷たいフローリングに正座をして話しかけてくる。仕方ないので椅子を回転させ奴の方に目をやる。

「何、今度は誰と喧嘩したわけ」

 よくわからない事に、こいつは誰かと喧嘩をしては僕の元にやってきて、愚痴を言ってはどうしようと僕に助言を求めてくる。はっきりいって自分よりも大人にしか見えない奴のいじけている姿というのは直視しづらいものだ。

「永年共に過ごしてきた友人に服のセンスが悪いと言われたんだよ。確かにあいつはお洒落だしいつも流行の最先端をいっていると俺も思う。だけど、面と向かってアドバイスしてくれたらいいものを、あいつはJASと俺の悪口を言っていたんだ」

 とりあえず、JASって誰だよ。何の略語だ。そして泣き出さないでくれ。僕はまだ14歳で絶賛中学生なんだから、大の大人が止めてくれ。

 「まあ、何て言うか。あんたらの価値観わかんないけど、その悪口を言った奴とあんたの服のセンスを比べてやるから写真とかない?」

 すると涙を引っ込めた奴は薄っぺらい紙のようなものを取り出し、ピコピコと何かを探し出した。そしてずいっと僕の目の前に写真を見せてきた。

 「どう思う」

 僕は仕切りに奴とこいつを見比べた。

 「え。同じじゃね?」

 ちなみにこいつの格好も奴の格好も所詮黒のリクルートスーツなわけで、違いがさっぱりわからなかった。

 「違うんだよ。あいつのボタンは二つ仕様だけど、俺のは一つなんだ。俺が今ぎり貧状態でボタンを手にいれられないことを嘲笑っているんだ」

 どうやら僕の想像を遥に下回る戦いが勃発していたらしい。というよりボタンを手に入れられないってどんなけだよ。仕方ないので奴を部屋に放置し、母親から余りのボタンを頂戴した僕は、それを奴に投げ付けた。

「それやるから、帰れ」

 僕は明日からテストなのだ。いい加減邪魔になったので奴を窓の外に押しやった。

「勇太ありがとう。またくるね」

 にこにことボタンを握りしめながらリクルート姿のTPOは僕の部屋の窓際に横付けしてある所詮UFOとやらに乗り込んだ。

 もうくるな。とりあえず塩を撒いておいた。


end


普通の中学生の少年とたまたま知り合ってから何故か遊びにくるリクルートスーツが標準装備な宇宙人TPO。TPOなくせに空気は読めない。たぶん百歳越えてる。
悪口を言った友人はNPO。たぶんキザ男。
巻き込まれた友人JAS。
いつも胃痛に悩まされている苦労人。
彼らの星ではボタンは高級品だったりする。



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