買う者買われる者
裏町の一角にある豪奢な扉を開くと、きらびやかな装飾と落ち着いた色彩のカーペットにその店の敷居の高さが伺える。店主はロマンスグレーの髪を後ろに撫で付け、老眼鏡と思われる眼鏡の間から訪れた客をちらりと見据えると柔和な笑みを浮かべた。
「これはこれはカグラ様。一ヶ月ぶりですね」
カグラと言われた茶髪の美丈夫は外套を店主に預けながら「そうだな」と相槌を打ち、カウンターのオーダー表を見ながら話しかけた。
「いつもどうり別の奴なら誰でも良いんだが、空いている奴はいるか」
「そうですね・・・」
店主は難しい顔をしながら口を開いた。
「先日入ったばかりの者でまだ一人も客を相手にしたことのない者などいかがでしょうか。カグラ様なら初者でもたやすいのではと思いまして」
店主の含みのある言葉に嫌な笑みを浮かべながら「それは確かに私に適役だな」とカグラはこぼした。
「ところで店主。そいつは暴れ馬なのかい」
「その点はご安心下さい。とても従順な子でして、今までで一番手を焼いておらず私も驚いたほどですので」
店主の言葉に嘘偽りはなかった。この店のものは売られてきたり生きるために仕方なくという理由でくるものが大半であるため、初めの内は皆同様に嫌がり拒絶し、仕込むまでに時間がかかるのだ。だが、その少年は違った。まっすぐな眼を店主に向け自らやってきたのだ。自分に仕事をくれと。
その時の事を思い出している店主を見たカグラは「なら今宵はその者にしよう」と艶やかな笑みを浮かべながら奥へと進んでいった。
<< >>
←