プロローグ
燃えている。
何もかもが。
時折聞こえる肉の切れる音と断末魔。
「父様。母様・・エミリー・・・」
少年の大切なものが消えてゆく。
言葉にならず、吐き気を感じた少年の異常に気付いた従者のエリックは必死に背中を摩った。
「ジル様どうかお気をたしかに・・まだ皆様が死んだとはわかりません」
そう、わからないのだ。彼ら二人がいるのは建物の下にある地下シェルター。だが悍ましい音は地下まで響いていた。
「おいっ何かあるぞ」
その声にビクッと身体を震わせた。
そしてその時、エリックが少年ジルの方を向いて優しく微笑んだ。
「ジル様。私は御当主様に拾われて、あなた様の従者になれて本当に幸せでした。」
そう言ってジルを抱きしめ、そっと口付けた。それは従者としてしてはいけない行動。
「・・すいません。私はあなた様の事を愛しておりました。だからこそ、あなた様を死なせは致しません。我が名に誓って」
一瞬のことに惚けていたジルだったが、シェルターの入り口に向かったエリックを見て、声をあげた。
「・・っ何をする気だ!?」
愛しい者を見る眼でジルを見たエリックは優しい笑みを浮かべた。
「生きて下さい。我が唯一の主・・」
そう言うとエリックはシェルターの外に走り出た。
残されたジルは、ただただ震えていることしかできなかった。
音が止みシェルターの外に出ると城も人も何もなかった。文字通り何も。まるで元から何もなかったかのように緑が生い茂っているだけだった。
「・・・何なんだ。なんで何もないんだよ!?父様母様?エミリー?・・エリック・・・っ・・」
広野には少年が独り佇んでいた。
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