確信予定

「冬は好きだなぁ、と思う」

木枯らしの吹く風通りのいい川辺を歩く。
片手に夕飯の食材が入ったエコバックを持って。もう片手には柔らかく小さな、働き者の手を握って。

「うん…?夏が好きだって言ってなかった?」

夕暮れの早くなった空を見上げながら、隣に感じるのは自分を見上げる大切な存在。

「夏も好きだけど、冬もいいな、と最近思う」
「最近なの?」

くすくすと笑う気配を身近に感じて、やっぱりいいなと思う。
こんなにも穏やかな空気を楽しめる季節だとは思っていなかった。
夏だってそうだ。
元来、自分は夏も冬も好きではなかった。
暑いやら寒いやら喚きたてる存在ばかりが傍に居たからだろうか。
…それに煽られて、自分もそればかり口にしていた気がする。

「優雨と季節を過ごす度に、それを好きになっているな」
「つまり、冬は好きじゃなかった?」
「ん、まあな」
「そっか。それはもったいないことをしていたね」

にっという擬音語が似合う表情で、優雨が立ち止まる。必然的に自分も足を止めた。
それを確認して、繋いでいた手を放して少し先を行く優雨。
追いかけようと足を踏み出しかけたときに振り返って自分を見上げてくる彼女は、満面の笑みで、片手にパンの入った袋を持ったまま両手を広げてみせた。

「…?、」
「――ね、もう夕暮れだよ」
「…ああ」
「まだ4時を回ったくらいなのにね」
「…そうだな、?」
「あと少しすれば、この空は星空にかわるよ。満天の」
「……優雨?」

思わず疑問を挟んだ。
優雨の言っていることはきっと普通のことで。冬の現象でしか無い筈で。

「凌大くん、知ってるかな。冬の空は綺麗なんだよ。蕩けるような夕日に、静かに佇む星に、落ちてきそうな月。この三つが少しの時間の間に堪能できるんだよ」
「……あ、」
「夕日を見ながら電車を降りて、家に帰る途中にスーパーで夕飯の買い物をする。出てきたらそこには近い月が輝いていて、家に着くころには空は星に彩られている」
「…うん」
「ほら、素敵な季節でしょう?」

満足そうに微笑んだ彼女は自分の元に戻ってきて、愉しげに手を繋ぎなおしながら何事もなかったように歩き始めた。
釣られて歩き出したことを確認するなんてこともなく、前を、或いは上を向いたまま少し先の未来を語るのだ。

「今度は冬に見る流星の素晴らしさを教えてあげるよ。楽しみだね、凌大くん」
「――ああ」

でもきっと、どんなものでも自分は好きになってしまうのだろうなと、どこか漠然とした確信を抱いたのだ。

____
memo.
20121230 hina

双子座流星群が綺麗だったのです。遅ればせながら、冬はやっぱり素敵なのです。


prev next

bkm



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -