白石蔵ノ介 新連載プロローグ

白石新連載の簡易プロローグです
連載開始したら加筆修正、名前変換をつけて新しく公開しますので、しばらくお待ちください。
内容はシリアス、仄暗く、多少のR要素含みます





ザァー……ッ。
窓に叩きつけるような強い雨音に耳を塞いでしまいたくなった。
つい1時間ほど前までは曇天ではあったが晴れ間は多少覗いていたというのに。
雨は、好きやない。
濡れるんはもちろん嫌やけど、肌にまとわりつくようなジメジメした質感はいつ体験しても不快を感じるだけやった。
何よりも、雨は、俺の思考も、良心も奪い去っていく。


「……今日は降らんと思ったんやけどな…」
「ん?何の話や」
「雨、……好きやないねん、」


ボソリと独り言のように呟いた言葉に反応が返ってきて、振り向けば背後に謙也が立っていた。
まさか独り言のような呟きに誰からかの返答があるとは思わんかった俺は、一瞬言葉を飲み込んだ。


「なんや、謙也か…驚かすなや」
「何言っとんねん、ちゃんと声掛けたで?白石が聞いてないのが悪いんや」
「……せやったんか、すまん…」
「なんや…元気ないやんか、3限目の休み時間の時までは元気やったやろ、どないしたん」
「………別に、どうもせんけど……」

謙也の心配そうな表情になんと答えたらいいかわからん。
元気がない、と言えばそれまでだが、俺の場合、雨が降ると思考が極端に鈍るし、ぶっちゃけ言えば何もかもがどうでもええと自暴自棄になる。
煮え切らない俺の返答に、謙也はますます心配そうなけど怪訝そうな表情をしたが、それ以上はなんも言わんかった。

窓を激しく打ち付けるような強い雨音を聞くと耳を塞ぎたくなる。
ただただ無言で俺を責めているかのようで、息苦しささえある。
自分の犯している罪を嫌でも思い知らされて、今すぐにでもこの場から、いや、俺のことを誰も知らん何処かへ逃げ出したくて仕方がない。


「今日は流石に屋上で弁当食うのは無理やな、教室でええか」
「…せやな、そうしよか」
「ほな、パン買うてくるわ!出遅れたから猛ダッシュで行ってくるで!」


謙也に適当な相槌を打てば、極めてその場を明るくしようと大袈裟なくらいのアクションを見せた謙也は浪速のスピードスターらしい走りを見せながら教室を後にする。
その姿をぼんやり見ながら、心の中で謝る。
心配してくれてる謙也に対して取ってしまった自分の態度に反吐が出る。
けど、どうしても。
いつものような態度が取れない、取れそうもない。

その刹那、ポケットに入れてたスマホのバイブ音が震えた。
その振動に、ドクン、と心臓が一気に加速して息苦しくなる。


(ああ、またか)

届いたLINEの内容を確認すると、案の定な内容で。
ますます俺の思考は鈍くなって、しまいには目の前さえ暗くなったように何もかもが真っ暗になった。
出来るだけ早く返答せんと不機嫌になるあの人に、「わかった」とだけ短く返事を書いた。
すぐに既読が付くと、それ以上は見たくないとスマホをまたポケットに戻す。


いやや、もう、いやや。
苦痛を堪えて目を閉じる。
浅はかさが、自分の抑えきれなかった理性が招いたこの罪は。
消したくても、絶対に消えはしない。
わかっていても、神にでも縋るように、ますます強まる雨に思わず願った。


(どうか、どうか、俺のこの罪を……洗い流してくれ)


叶うはずがないと知りながらも、何かに縋りつきたくて何度も何度も乞い願う。
いつから俺は、こんな人間に成り下がったのだろう。
俺の、……俺の居場所は何処にあるんやろ。
確かなのは、もう、此処ではないということだけ。
芽生え育ててしまった絶望は、更なる絶望を生み出していく。

誰か。
誰でもいい、俺を……救ってくれ。






「蔵ノ介、……遅かったじゃない」
「…すまん、部活が長引いてしもうて」
「部活?……こんな雨なのに?」
「……おん、ミーティングもあったし、俺は部長やから」
「そう、…まあそういうことにしておくわ。さあ、早く乗って」


関西らしい、派手な真っ赤なポルシェ。
顎でしゃくるように彼女は俺を助手席へと促す。
雨と同じく肌にまとわりつく様な視線に気づかんように、息苦しさを抑えて助手席に乗り込んだ。
音も立てず走行を始めた車内には、彼女が纏う甘ったるい香水の匂いが充満していて、鼻を塞ぎたくなった。

部活が長引いた、なんてもちろん嘘やった。
少しでも彼女に会う時間を減らしたい、ただそれだけで部活のミーティングが終わったあとも、部室から出ることが出来なかった。
疑うような視線を一瞬向けてきたがそれ以上聞いてこなかったことに心底安堵した。


運転席に座る彼女を見たくなくて、ただひたすら窓の外へと視線を向けた。
自分の肌にまとわりつく何もかもに嫌悪しながら流れる景色に目を向けることしかできん。
行き着いたのは、またいつもと同じ場所。
地下の駐車場に車を止めると、早く降りてと促すような視線を向けられ、降りるしかなかった。


手馴れたように洗練された動きは、まさに大人の女そのもので。
出逢った頃から何も変わらないその姿は、憧れや恋慕にも似た気持ちを抱いたことがあったあの頃と同じ。
ただ俺の気持ちだけが、あの頃と現在ではまるで違う。
憧れも恋慕も敬意さえも目の前の彼女に対して一切抱いてはいない。
いま俺の心にあるのは、一瞬でも早く、この瞬間が終わって欲しい、それだけだった。


「蔵ノ介、行くわよ」
「……おん」

大人の女性と中学の制服を着ている俺を怪訝な表情で見てくる人々の視線から一刻も早く逃れるようにと急かされエレベーターに乗せられる。
着いた部屋が奇しくも302号室という番号を見て、一瞬心配そうに俺を見る謙也を思い出した。


部屋に入るなり、待てないとばかりに首に手を回されキスをされた。
絡みつくように貪るように舌を絡ませようとする彼女に、とうとう俺の思考はプツリと切れるのがわかった。
彼女と身体を重ねるのはこれが初めてじゃない。
もう何度も、何十回も、何百回も、彼女と身体を重ねてきた。
その度に、俺の罪は重ねられ、重い重い枷を今日もまた背負う。

そんな罪に飲まれ思考を根こそぎ奪うこの女(ひと)は。
妖艶に、淫らに、ベッドで舞い踊る。
その姿は、ただの下賤な娼婦のようだと思った。



2018.04.30 prologue end
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