やっと話してくれたタズナさんによるとこうらしい。タズナさんは、表面は海運会社で活動してる大金持ちで、裏では悪どい商売ばっかしているガトー(なんだか美味しそうな名前だ)という男に、命を狙われているらしい。どうやら波の国の運搬航路を独占し、富の全ても独占しているガトーには、タズナさんが今建設している橋が邪魔らしく、橋を作っているタズナさんを消してしまおうということらしい。 「しかし分かりませんね…相手は忍すら使う危険な相手…なぜそれを隠して依頼されたのですか?」 「波の国は超貧しい国で、大名ですら金を持ってない。もちろんワシらにもそんな金はない!高額なBランク以上の依頼をするような……。まあ…お前らがこの任務をやめれば、ワシは確実に殺されるじゃろう」 「そんなのって…!」 「が…なーに、お前らが気にすることはない!ワシが死んでも10歳になるかわいい孫が一日中泣くだけじゃ!あっ!それにわしの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで寂しく生きていくだけじゃ!いやなに、お前達のせいじゃない!」 「「………」」 いやいや責められてる感バリバリじゃないか。それに妙に演技掛かっている。しかし事実ここで任務をやめればタズナさんは本当に殺されてしまうだろうし、孫がいると言うのも嘘ではないだろう。ここでやめるというのは何とも後ろ髪引かれる思いだ。後味が悪すぎる。カカシ先生もそう思ったのか、任務は続行となったのだった。タズナさんが小さくガッツポーズをしているように見えたのはきっと気のせいに違いない。 それから暫く歩いた後は、ボートへと乗り込む。エンジン音は敵に気づかれるおそれがあるので手漕ぎのボートだった。濃い霧の中、ゆっくりと海を進んでいく。途中ナルトがはしゃいでグラグラとボートが揺れて倒れかけるなんてハプニングも起きはしたが、なんとか海を渡りきり、遂に波の国へとたどり着いた。此処からは再度徒歩というわけで、ボートを降り、タズナさんの家へと歩き出す。 それにしても、そのガトーって奴がタズナさんを狙っているのならば、先程襲って来た忍達だけで終わりなんていうことは到底有るまい。また何か仕掛けてくるはず。今度はおそらく、先程の忍よりも格上の奴を差し向けるなどしてだ。そうなれば十中八九、次は上忍だろう。いきなり次々と立ってしまった死亡やら怪我やらのフラグに頭を抱えたくなった。 「………」 「…シオン?」 「ん?サクラ、どうかした?」 「ううん。なんだか難しい顔してたから。大丈夫?」 「ああ、うん。大丈夫。ありがとう」 「ならいいけど…」 「…いつまた敵が襲って来るか分からない。ぼーっとしてんな」 「うん。分かった」 二人が言ってきたほどだ。余程難しい顔をしていたのだろうか。とにかく今は、いつ敵が来てもいいよう警戒を怠らないようにしておかなければ。集中だ集中!油断すればすぐに蜂の巣だと思え自分!そもそもカカシ先生がいるんだ。やられそうなら先生だってこの任務を続行しなかっただろうし。それに私自身、ナルト達と関わらないつもりだったにしても、生きる為それなりに修業はしてきた。全く歯が立たないなんてことはないことを願う。再度やる気を固めたところで、急にナルトが何も無い所にクナイを投げた。 「そこかぁーーっ!」 「!」 「フ…なんだネズミか」 「ネズミ?え、いた?」 「フン、いるわけねェだろ」 「って何かっこつけてんの!そんなとこ初めから何もいやしないわよ!」 「コ…コラ!頼むからお前がやたらめったら手裏剣使うな…マジでアブナイ!」 「こら!チビ!まぎらわしいことすんじゃねェ!」 どうやらナルトなりに警戒しているらしい。勘違いらしいが。怒鳴られようとも、またもや辺りをキョロキョロと見渡し警戒を続けるナルトにエールを送りつつ見ていたその時、何者かの気配に気づく。ナルトは本当に気づいたのか、はたまた偶然なのか、その場所へクナイを放った。気配の正体を見れば、真っ白な可愛らしいユキウサギぎりぎりにクナイが刺さり怯えていた。あ、可愛い。本当に真っ白だ。ごめんと謝りながらユキウサギを抱きしめるナルトもまた可愛いらしく、相乗効果で二人とも半端なく可愛い。私も触らせてもらおうと考えナルトの方へ歩き出した時だった。 ほんの小さな木々の擦れる音、何の予兆もなしにいきなり感じた殺気に振り向けば、自分達に向かってくる巨大な刃物。認識すると同時に聞こえたカカシ先生のふせろという叫び声に、咄嗟にタズナさんに覆いかぶさるように伏せる。なんとか避けたその巨大な刀は、そのままの勢いで木に食い込む。そして次の瞬間、その木に食い込んだ状態の刀の柄に、口に包帯を巻いた鋭い目つきの男が乗っていた。 「へーこりゃこりゃ霧隠れの抜け忍桃地再不斬君じゃないですか」 現れた敵の纏う空気、立ち振る舞い、目つきに、さっきの奴らとはレベルが違うことを悟る。カカシ先生も知っているみたいだし、名の知れた抜け忍だ。そんな敵に考え無しに突っ込もうとしたナルトを、カカシ先生が静かに制止する。 「邪魔だ。下がってろお前ら。こいつはさっきの奴らとはケタが違う」 そして小さく、「このままじゃぁ…ちとキツイか…」と呟いたカカシ先生は、静かに自身の左目を覆っている額当てへと手を伸ばす。 「写輪眼のカカシと見受ける…悪いが、じじいを渡してもらおうか」 「?」 「!」 「卍の陣だ。タズナさんを守れ…お前達は戦いに加わるな。それがここでのチームワークだ」 「……」 「再不斬、まずは…オレと戦え」 「!」 額当てを押し上げたことにより覗いた、カカシ先生の左目。赤い瞳。これが、写輪眼。記憶として写輪眼のことは元から知っていたに加え、情報収集の為にも様々な書物や資料を読みあさった。それなりに知識はある。実際に見るのは勿論始めてだが。 「ほー、噂に聞く写輪眼を早速見れるとは…光栄だね」 「さっきからシャリンガンシャリンガンって、何だそれ?」 「…写輪眼、」 ―――いわゆる瞳術の使い手はすべての幻・体・忍術を瞬時に見通しはねかえしてしまう眼力を持つという。写輪眼とはその瞳術使いが特有に備えもつ瞳の種類の一つ… 「――しかし写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」 「え?」 「クク…御名答。ただそれだけじゃない。それ以上に怖いのは、その目で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ。オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していた手配書にお前の情報が載ってたぜ。それにはこうも記されてた。千以上の術をコピーした男…コピー忍者のカカシ」 千以上の技をコピーしたとは、流石だと舌を巻く。 「さてと…お話はこれぐらいにしとこーぜ。オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねェ」 「!!」 スッと構えた再不斬に、素早くタズナさんを守るように卍の陣を組む。そんな私達を守るように、カカシ先生が前に立てば、ぎろりと睨む再不斬。 「つっても…カカシ!お前を倒さなきゃならねェーようだな」 「!」 一瞬で湖の上に移動した再不斬は、水の上に立ち、チャクラを練っている。一体何をするつもりだと、クナイを構えている手に無意識に力が入る。 「忍法…霧隠れの術」 「消えた!?」 そう唱えたかと思えば、スッと再不斬の姿が消えた。そして徐々に、霧が濃く、深くなっていく。如何せん視界が悪い。余計にあちら側の気配を読みにくくなってしまった状況に舌打ちをしたくなる。 「……霧に乗じて、殺るつもりですね」 「嗚呼。あいつは霧隠れの暗部で、無音殺人術(サイレントキリング)の達人として知られた男だ。気がついたらあの世だったなんてことになりかねない」 「でも多分、最初はカカシ先生ですよ」 「まあそうだろうが…オレも写輪眼を全てうまく使いこなせるわけじゃない。お前達も気をぬくな」 「はい、」 「どんどん霧が濃くなってくってばよ!」 「ナルト、静かに。微かな音でも聞き逃せば、本当にあの世だよ」 「――――8か所」 「!え?なっ…何なの!?」 「………」 「咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈に鎖骨下動脈、腎臓・心臓……さて、どの急所がいい?クク…」 「!」 「………」 悪趣味な奴だ。人が恐怖におののく顔が好きとか言うタイプだ絶対。…、来る…!次の瞬間、最初とは比べものにならない程の凄まじい殺気に襲われる。ビリビリと肌を刺すような殺気に、大丈夫かと隣を見れば、明らかに様子がおかしいサスケ。その体は小刻みに震え、冷や汗が伝っている。完全に再不斬の殺気に当てられているらしい。ナルトやサクラは、サスケ程ではないらしいが。いや、サスケだから、か。サスケだからこそ、再不斬の殺気の凄さをその肌に感じ、己との差を感じ怯えている。クナイを握るサスケの手に、そっと手を重ねる。ハッとこちらを見たサスケに、落ち着かせるように微笑んで見せる。 「サスケ、大丈夫だよ」 「っ、…」 「そうだサスケ、安心しろ。お前達はオレが死んでも守ってやる。――― オレの仲間は絶対、殺させやしなーいよ 」 そう言ってにっこりと笑ったカカシ先生のおかげで、自分の鼓動が落ち着くのを感じる。どうやらサスケには大丈夫だと言いつつ、自分自身考えていた以上に緊張していたらしい。サスケ達の緊張も大分解れたようだ。 「……それはどうかな…?」 「!」 「終わりだ」 「っ、」 微かな空気の揺れに振り向けば、突如卍の陣の真ん中に現れた再不斬。ナルト達は気づいてさえおらず、完全に背後を取られてしまっている。咄嗟にタズナさんを引っ張るが、ナルト達まで庇う余裕はなく顔を歪めれば、そこへ走り込んで来たカカシ先生が、クナイを再不斬に振りかざした。しかしその再不斬は水分身だったようで、本物の再不斬が背後からカカシ先生へ切り掛かる。だがカカシ先生も同様に水分身だったらしく、驚く再不斬の首元にクナイを宛がった。 「動くな…」 「!」 「終わりだ」 「ス…スッゲーー!」 「ハハ…」 「………」 確かにカカシ先生は再不斬の背後を取っている。だが、再不斬に焦った様子はない。寧ろ余裕さえも窺わせるようで奇妙だ。そう考えていれば、くつくつと笑い出す再不斬。 「ククク…終わりだと……」 「!」 「…分かってねェーな…サルマネごどきじゃあ、このオレ様は倒せない。絶対にな」 「、…」 「クク…しかしやるじゃねェーか!あの時すでに、オレの水分身の術はコピーされてたって訳か…分身の方にいかにもらしいセリフをじゃべらせることで、オレの注意を完全にそっちに引き付け、本体は霧隠れで隠れてオレの動きをうかがってたって寸法か」 「……」 「けどな…オレもそう甘かぁねーんだよ」 「!!」 言うやいな、突然カカシ先生の背後に現れたもう一人の再不斬。一方カカシ先生がクナイを宛がっていた再不斬は、水になって弾けた。どうやら水分身だったらしい。余裕の正体はこれか。 「そいつもにせものー!?」 振りかざされた大刀をかわす為咄嗟にしゃがみ込んだカカシ先生だが、体術も相当であるらしい再不斬が蹴り飛ばす。後を追う再不斬にまきびしで時間を稼ぎ、一時水中に逃げ込む。しかし水から顔を出したカカシ先生の背後に、見計らったかのように現れた再不斬。そして素早く結んだ印は、水牢の術。始めからこれが狙いだったらしい。 「カカシ先生!」 「フン…バカが」 「なに!?」 「ククク…ハマったな。脱出不可能の特製牢獄だ!」 カカシ先生は再不斬によって作られた水の牢に閉じ込められてしまった。あれをやられると、対象者は身動きが取れない。 第七班、大ピンチ、か…? |