◎コンビニ店員と女子高生の実にくだらない話

*題名はあれでもNotパロディ


「うーん。どうしよかっなぁ……。」


そう深夜のコンビニでぼやくのはピッチピチの女子高生の姿をした神獣の白澤だ。

なんで女子高生の姿をしているのかというと、ただのノリである。

というか白澤は神獣であって唯一の存在なため性別などなく、普段は男の姿をしているけれど、なろうと思えば女にもなれるのだ。

女の子が好きだからいつも男の姿をしているだけ、とまあなんともくだらない理由がある。

………現世だと女の姿のほうが女の子と遊べるかなあ、なんて考えなきゃよかった。

白澤は数時間前の自分を悔いた。

もう時刻は11時を過ぎていてる。
ちらほらと入れ替わるお客さん(おじさんとか不良のお兄さんとか)に不審な目を向けられ、白澤もたいへん困っていた。

いや、警察に通報されないだけマシか………

場所がゲームセンターだったら補導されてもおかしくない、というか絶対に補導されている時間。

天国在住の白澤が身分証明なんてできるはずがない。
が、24時間営業なコンビニでもないのでそろそろ閉店の時間だ。

どうしよかっな……

白澤とてこんな長居するつもりはなかったし、できることならとっとと桃源郷に帰りたかった。
でも、それができないのはわけがある。

………いっそ誰が通報してくれないかなぁ

お菓子売り場を物色しているフリをしてコンビニの外を見ると、そこに映るのはさっきと変わらない。

スーツを着たおじさんがニヤついた顔でこちらを見ていた。

40、いや50くらいか………


…………簡単に状況を説明しよう。

ストーカー男につけられてコンビニから出られない!!

ジーザス!!!


以上。

自業自得といってしまえばそれまでなのだが、白澤は神獣とは思えないほどに馬鹿馬鹿しいことで悩んでいた。

なんでこんな目にあっているかというと単純で、普段の白澤が見目麗しいように女の姿でもたいへん美しかったってだけのことだ。

黒く長い艶やかな髪の毛とか、つり目気味の色気ある目元とか。
人間でないだけあって、その姿はヒトであってもどこか人間離れしている。

要するに、変態が放って置かないほどのかなりの美人。

本当、美貌も時として困りものである。

別にこのまま消えてもいいのだけれどコンビニというのは監視カメラの目があって、いきなり女子高生が消えたら大きなニュースになるだろう。証拠まであるのだ。

………それが僕です、なんてかっこ悪すぎる。もう天国にいられない。

外に出てストーカー男を気絶させてから帰るっていうのも手だが、さっき写真を撮られていた。
もうパソコンに送ってあったりしたら、と考えるとそういうわけにもいかない。

女の姿をした僕の痕跡なんて、徹底的に消しておかなければ。

あ、でも知り合いの鬼神見習ってぶちのめした後にパソコンぶっ壊すのもいいかな。


そんなことを考えているときだった。


「お客様、どうかされましたか?」


!!!!?


…………は?


僕は一瞬、わけがわからなくなる。


その店員は現世朝のアナウンサー風の髪型をしていようが、青と白のストライプの某コンビニ風を着ていようが、どこからどう見ても地獄の第一補佐官鬼灯に似ていた。


え?鬼灯?まさか本物?


あの鬼神がまさか、そんなはず……


「お客様?」


返答しない僕に焦れた加々知とネームプレートをつけた店員が首をこてんと傾げる。

あ、鬼灯だ。

鬼神がよくやる動作に目の前の店員は鬼灯だと確信した。
たぶん鬼灯は僕に気付いていない。

気付いていたらたとえ女の姿でも金棒が飛んでくるに違いないからね、うん。


「外に……………。」

「外?………ああ。」


鬼灯は外に視線を向けて納得する。


「どうするんですか?」

「どうしましょう……。」


それがわかんないから悩んでんだよばぁか!!

心の中で毒づく。
こいつの対応、絶対女の子にモテない。
なんで地獄でこいつに人気があるんだか、甚だ不思議に思う。


「はあ、………私もこの店閉めなければいけないのですが。」


うっわ、キツ………

ほら、やっぱりこいつは女心をわかってない。
これ僕じゃなかったら怖がって怯えてる女の子にそう言ってんだぞ。

鬼灯はため息をついた。
自然と背中がビクッとなる。


「強硬手段でも文句言わないでくださいよ。」

「??」


鬼灯は僕の腕を掴んで外に連れ出した。
そして店のシャッターをおろす。
店内はすでに真っ暗で、最終チェックとかが終わってるってことは、女子高生がストーカーに追われてるってわかってて店の中に最後までいさせてくれたのか。

いや、わかんないよ!
鬼灯の優しさ普通の女子高生じゃわかんないから!!

こいつ勿体ないんだよなー………、いろいろと。


「じゃあ帰りましょうか。」


そういって鬼灯はするりと僕の手に自分の手を絡めた。
背中にぞわり寒気がする。

っぎゃぁあああああ!!!!!

こ、これって恋人繋ぎ!?
まじで!!?鬼灯って知らない女子高生なら恋人繋ぎすんの?僕となんて手を重ねるたびにバルスやるくせに!!!

なんだろう………。
嬉しいんだけど嬉しくない。
こいつが僕に優しいとむしろ気色悪いっていうか………。

鬼灯の手は思っていたのと違ってとても温かかった。
こういうときに鬼灯の人間味を感じる。


鬼灯は僕と肩を並べて、近くの公園まで向かうことを小声で告げた。

ああ、変態はそこでぶちのめされるんだろうなー………。
なんか悪いことをした。僕が制裁を加えたほうが圧倒的に軽かった気がする。

こっそり目を使うと変態はまだついて来ていた。

目が怖い。
白澤は吉兆に印だから人間にこんな恨みがましい目をむけられたことがなくて、人間って怖いなーと他人事のようなことを思った。

公園の奥まできて、小さな噴水の前で立ち止まる。

鬼灯は目線だけで後ろを確認して、さっきより大きなため息をついた。

そして僕の顎をとって一言。


「失礼」


口を近付けた。
でも距離は0じゃなくて、1センチくらいある。
要するにキスしてるフリだ。
僕は鬼灯をガン見した。まつ毛長い長いな、こいつ。

なんかモヤモヤするような鬼灯の身持ちのかたさが嬉しいような複雑な気分に襲われる。本当なら僕も目を閉じて、フリにのんなきゃ駄目なんだけど。

中身は僕なんだからもっと普通にさ……


チュ、


そんな効果音とともに、白澤は吸い込まれるように距離を0にした。

鬼灯は目を見開いて腰が引けそうになっているけど、僕は構わずその小さな口に食らいつく。

「っ、ふ、…んぅ」

吐息が口の隙間から漏れ出して、目を細めた。
本当、こういうときのこいつは可愛い。普段の憎まれ口も合間って、ギャップがたまらなく可愛い。

でも今の状況って第三者から見れば、超美少女の女子高生が助けてくれたコンビニ店員(社会人)に激甘ふっかーいキスをかましてるっていうギャルゲーみたいなシチュエーションなんだよね。
しかも主人公が鬼灯って腹がよじれそう。

変態ストーカーのことなんて、もうどうでもいいや………

僕がそう思い始めたのと同時だった。


「お前えええ!!俺の、俺の女神に……!」


ああ、気持ち悪い。

基本的に男って受け付けないんだよね。
つうか女神ってなんだよ。確かにこっちの容姿可愛いいし、僕も自分じゃなかったら絶対一回は口説いてたけどさ。

しかもイイトコで邪魔してくれちゃって。………ホント、最悪。

僕は神獣の姿に戻る。
なるべく殺さないように僕の気でストーカー男を威圧した。


「うわぁあああああ!!!」


男は情けない悲鳴をあげて気絶。
こーれで僕を「俺の」とか言っちゃうんだから笑っちゃう。

僕は男の姿の人型に戻って振り返った。


「じゃあ鬼灯つづk、ぐばぼぉ!!」


噴水にぼしゃん、飛沫があがる。

酷くない!?
わかってたけどせめて地面にしてよ!!!

鬼灯のバリトンボイスが辺りに響く。


「しーろぶーたさんっ!あーそびーましょ!!」

「ごめん、ごめんって!あと電信柱でなんの遊びを……いや、やっぱいい!!」

「電信柱を抜いて白豚にあてて、あわよくば感電させます。これが正しい電信柱の使い方。さあ!」

「ちっげええええ!!だいたいなあ、電信柱って壊したら修理費めっちゃくちゃ高いんだぞ!」

「経費で落としますよ。もちろん白豚駆除の。」

「白蟻駆除みたいな言い方すんな!この悪徳役人がぁ!!」


くっそお!やっぱストーカー男め!!邪魔しやがってえええ!!

鬼灯をいい雰囲気に持ってける機会なんてそうないんだからな!

白澤は自分のことを棚に上げて、転がってるストーカー男に恨みがましい視線を送った。


「まあ、あなただって知ってましたけどね。」

「はあ!?」

「力使っておいて私が気付かないとお思いで?」

「ああ、……そうだね。って僕ってわかっててキスしたの!?」

「フリです。勝手に捏造しないで下さい脳内お花畑が。……強いて言うなら白鬼から鬼白への逆転を狙っただけですよ。」

「っ、ぎゃぁあああああ!!下克上!ダメ!絶対!」

「私が好きならどっちでもいいでしょう?なにかご不満でも?」

「いや!僕は女の子には愛されたいし愛したいけど、お前に限っては愛して愛して愛されたいくらいなの!!だから絶対ダメ!!」

「………恥ずかしいな、白豚。」

「言わないで!僕も今、かなり恥ずかしかったんだから!!」


夜の公園でギャイギャイ騒いで、後から来た不良のグループがイケメン2人のイチャつきにドン引きするのはまた別の話ーー。




戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -