◎その愛おいくらですか?
※注意

沢村と成宮が義兄弟。
沢村が最初から鵜久森戦並みに強い。←でもあんま関係ない
書いてる途中に迷子になった。
捏造多め。
カップリング要素少し


それでもokな方↓↓


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「危ないっ!!」

そう成宮が切羽詰まった彼らしくない声で叫んで、その場にいた皆がいっせいに振り向く。

彼らはその目に映った光景があまりにも非日常的すぎて呆然とするしかなかった。

まるで全てが映像の中みたいで、実際には数秒にしか満たない時間が頭の中にスローモーションで再生されていく。


ガラガラと音をたてて落下する機材

かなり上の方で作業していた作業員の焦った表情

唖然と上を見上げる真下にいた生徒


誰もが彼の上に落ちる、と思った。
あれに当たったら野球が出来なくなる以上に悲惨な結果を生む、とも。

その生徒が青道の一年生で、たまたまそこで練習していただけで。

誰もが反射的に彼に向けて手を伸ばした。

先輩、監督、同級生。
合同練習をしている最中で、彼を知らない他校の人まで。


そして彼らは解っていた。


今ここで手を伸ばしたところで絶対に届かない。

届く距離にいたとしても1.5秒たてば地面に追突する場所に飛び込めるわけがない、と。


全て、夢だ

悪い夢。


だから、覚めろ

覚めてくれ。


目を背けた者を、誰も責められない。

ただ目を逸らさなかった者はその瞬間を確かに見た。


視界の中で、映像の中で、

白い影がよぎったのを。


ああ、そう、スローモーション。


呆然とする彼を突き飛ばして、そのまま抱えるように地面を転がる白い影。

その直後、機材が地面に叩きつけられて砂埃が舞って。

耳をつんざく、凄まじい音。

砂埃が収まって、しばらく。


彼らが見たのはただ堅く沢村を庇うように抱きしめる成宮と、成宮の服をぎゅっと握ってしゃがみ込む2人の姿のだった。





“おまえを兄弟なんて認めないよ、絶対に”


俺には今まで生きてきて絶対に外すことのできない足枷がある。
言葉の鎖で繋がれた身体はひどく重い。その重さに耐えられなくなると、真っ暗な自分の部屋で、心臓を握り潰すように胸の上に左の手を置いて強く握った。
ドクン、ドクン。
荒々しく脈打つ心臓。世界に取り残される感覚。爪が食い込んで感じる物理的な痛み。全部が一気に降りかかってきて、それを一身に受け止める。

わかってる、……わかってるよ。

忘れるな、と。
心が、心臓が、強く叫ぶから。
鎖に引っ張られるたびに思い出すから。
覚えてるよ。アンタが言った「認めない」の言葉。
だから俺もアンタのことを認めない。
忘れてないよ。アンタが俺のことを嫌いだってこと。
だから俺もアンタのこと嫌い。

顔を合わせなきゃならなくなるたびに、身に纏う空気が全身で俺という存在を否定するから、俺はできるだけアンタを視界にいれないように、アンタの視界に入らないように努力する。
それは半分自分のためで半分アンタのため。あの見下すような目と合うとメデューサよろしく、俺の頭はカチカチになって機能停止してしまうから自分なりの自己防衛。

今考えると、俺は期待していたのだと思う。

新しい家族に、兄という存在に。

どんな人だろう?と親が再婚することを知ってから毎日妄想して。
妄想の中では誰かと一緒に仲良くキャッチボールして遊ぶ自分と、顔もわからない誰かが俺に優しく笑いかける光景。

それを考えるだけで、母さんがいなくなって悲しくてたまらない心の穴が埋まっていく。

俺はそんな妄想の中で育まれた家族愛という愛情を、たとえ現実に裏切られたとしても簡単に捨てるなんてできなかった。

“うるさい!話しかけんなッ!!”

だから、たとえアンタが俺のこと大嫌いだったとしても、俺はそうでもなかったんだよ。

嫌い、嫌い、嫌い。

その言葉がだんだんと俺の身体を縛っていく。

俺はアンタに拒絶される自分が惨めで、アンタの前では「俺も嫌い」って言い続ける。

なんて生産性のない、無意味な関係。

親が再婚してからの1年間は、こんな関係だった。





それが一転したのはいつだろう?

わかってるのは普通に兄弟をやれてる今となっては全部全部昔の話だってこと。

「兄ちゃん」って呼んでも「なに?」って返してくれる。
漫画かしてって言っても「何でお前なんかに」と言われない。

嬉しかった。ただ純粋にやっと認められたんだと、全身でホッとして肩の力が抜けたのを覚えている。

兄ちゃんはただ、母さんが他の男と再婚するのが嫌だっただけだって。

あのときはそう自分を納得させたはすだった。

だから自分は認めたくない存在だったのだと。そう理解した。

でも、時折。
かつての鎖に足を絡め取られて、心が闇に引き摺り込まれそうなる。
所詮、トラウマ。
あの1年のせいで「人に認められたい」と必要以上に思うようになった。それに理由が欲しくなった。

“アンタは俺のこと、ちゃんと弟だと思ってるの?”

初めての兄弟だから普通の兄弟がどんなものなのかわからない。

きっとこれが普通なんだと思う。

一緒に遊んで、年上だけど友達のように笑いあって、たまに同んなじ布団でゲームしたり漫画読んたりして夜更かしする。

それでも、俺を時折不安にさせるのは。足枷となっているのはやっぱり初対面で言われたあの言葉。

兄ちゃんはどうやって心を整理したの?
本当に俺のことを兄弟って認めてくれたの?

時間が物事を解決するなんて知らなかった。
理由は絶対に時間の経過だけではなかった。

兄ちゃんはたまに俺をギュッと抱きしめる。肩に顔をうずめて何も言わない。

人肌が恋しいのか、泣いているのか。

意図はわからないけれど、真っ黒に覆われた視界の中で俺は黙って腕の中でじっとしてる。

そう、これは兄弟じゃなくて。

まるで何かに縋っているようだと。
そう思ってしまった思考回路のヒビは、未だ治ることなく俺の中にあり続けた。





あれから7年たって、兄ちゃんは野球が強い高校に行くために1人で東京へ行った。

片田舎のここで野球の神童とまで言われるくらいの天才。

ここでと言ったけど、兄ちゃんは本当に野球がうまい。
よく2人で一緒に野球してたからか、友達は「栄ちゃんも鳴さんと同じくらいうまいよ!」って言ってくれる。
嬉しいけど、違う。
兄ちゃんはもっともっと凄い。
俺みたいにストレートだけじゃなくて、いろんな球を投げれる。

だからそんな兄ちゃんに「お前も来年、東京に来いよ」って言われたとき、嬉しかった。
兄ちゃんに並ぶためにギリギリまで練習して練習して。

辛いときは支えてくれる仲間がいたから頑張れた。兄ちゃんの顔が浮かんでもっと強くならなきゃ、って。

そんなこんなで兄のいない生活も10ヶ月が過ぎようとしたとき。

突然だった。
俺のもとに黒い服着た女の人がやってきたのは。





御幸 一也。
こいつのせいで俺は青道に行くことになった。

この人にボールをとってもらうのは楽しくて、ひどく興奮する。
作品とは言ったもので、御幸が指示した通りの球を俺は投げる。

そうすると敵を翻弄できて、三振。

相手は間違いなく強い。
これが東京。これが世界。
兄の戦っている戦場。

マウンドに立つと心臓がうるさく騒ぎだす。
この感覚がたまらない。たまらなく楽しい。
ボールに気持ちをのせて御幸の構えるミットにめがけて投げる。

こいつならどんな球でも取ってくれる。そんな気がした。

内か外の判断は御幸任せ。
御幸は強い。センスとか頭の良さとかいろいろと。

この人にもっとボールを取ってもらいたい。

それが俺の青道行きを決意したきっかけだった。

青道にはいい先輩がたくさんいて、同室の倉持先輩と増子先輩とはけっこう仲がいいと思う。降谷っていう俺と全く違う系統の球を投げるライバルもいる。春っちは親友だし、そのせいかお兄さんにもよく話しかけられる。

毎日が充実していて、とても楽しい。

……ひとつのこと以外は、だけど。

そのひとつとは兄ちゃんだ。
入学前に御幸に会った後、俺は兄ちゃんに電話した。


『俺、東京行くことにした。』

『…ふーん、まあいいんじゃないの。でも迎えになんて行ってやんないよ?面倒くさい。』

『平気だし!駅から青道まで近かったから迷わねえよ!!』

『……は?青道?』

『おう!御幸 一也ってやつがいて、そいつに球とってほしくてさ!』

『………え?青道?』

『え、ああ、そうだけど。』

『…………………。』

『兄ちゃん?』

『ーーツーツー』

『…きれた』


あれから全く音沙汰ない。
せっかく東京に来たのに一度も会ってない上、メールしても返信が帰ってこない。

……どうして?

あの時と違うことくらいわかっている。
なのに、ただ漠然とした不安が胸をよぎって離れない。

“俺は、また……”

兄ちゃんに嫌われたんじゃないだろうか?

……今度会ったら、確かめなくちゃ。
このままでは前に進めないと知っているから。
思い立ったらすぐ行動。あのときそう学んだ。

幸いなことに3日後、合同練習がある。

俺も兄ちゃんも明日の試合にはでないけど話す機会くらいあるはずだ。

眠れない日が続いて、続いて。
トラウマというのは思った以上に深くまで根付くものなのかもしれない。

ついに倉持先輩が俺のためにプリンを買ってくるくらいにまで心配をかけた。俺どんだけヤバい顔してたんだろう。

でも、ごめん。もっち先輩。

俺、牛乳プリンより焼きプリン派なんだ。





今日は稲実との合同練習の日。

キャプテンや監督が話しているのを遠くから眺める。

実を言うと俺、御幸 一也はたいへん困っていた。

常に肌に感じる殺気。

これから試合する相手に向けられるならわかるが、俺も相手も今日試合に出ないはずだ。

相手が成宮 鳴っていうのがさらに面倒くさい。

……俺なにかしたっけ?

周りにいた先輩や倉持も気付いていて「お前なにやったの?」って視線が痛い。いや、俺なにもやってないから。心当たりないから。
成宮は不機嫌を隠そうともしないでこっちを睨みつける。
どうしよう?理由もわからないのに俺超困る。

が、困っているのは稲実側も同じらしい。

カルロスたちに目をやると「お前なにやらかしたんだ?」って視線が語ってた。
お前らもか、俺は何もしてねぇ。

でも、たとえ俺に心当たりがなくとも鳴の殺気は本物だ。
見下すような目で威圧されると、マウンドにいるような錯覚をうける。

こっそり聞くと、鳴の機嫌は今年に入ってずっと悪いらしい。
まったく、迷惑な話だ。
エースの機嫌が悪い原因の一端を俺が担っているらしいので、稲実にとっては俺もたいそう迷惑な存在だろう。

鳴と俺の距離を直径にして円を描くように空気が重い。
グラウンドはそれなりに広いのに、この空気は広範囲に影響を及ぼしているようでバッティングの練習をしていた亮さんが苦笑しているのが見えた。
ほんと、どうしようこの空気。


「さーせん。遅くなりました!!」


そこにベストオブ空気の読めない男、沢村 栄純が補習から戻ってきた。ありがとう、この微妙な空気に突っ込んでくれて。きっとお前ならやってくれる、そう信じてる。
さっ!いけ!沢村!!
と、沢村のほうを振り返る。

……………………。

……固まった。

誰が?って俺が。

沢村の頬に貼られた大きなバンドエイド。

それには赤い痕が広がっていて、今なお新鮮な血が流れ出ているのがわかる。パックリ切れているのだろう。

極めつけはおでこに巻かれた白い包帯だ。

明らかに怪我人です、といった風貌の沢村がそこにいた。

俺はずんずん無言で近付いて、腕を捲り上げる。

両手はどこにも手当ての痕がなくて、少し安心した。それで怒りが収まるわけではないが、手に怪我までされたら謝るだけでは済まさない。
骨折じゃなくて傷でも、膿むと痛みでボールもまともに握れないのだ。

沢村も俺が言わんとしていることがわかったのか、ちょっと逃げ腰になっている。

亮さんの弟と東条が沢村の後ろでわたわたしているのが見えた。

稲実の部員もいるし、俺もそんな怒るつもりはなくて、キツく注意してやるだけのつもりだからそんな慌てなくてもいいのに。


「さーわーむーらーくん?」

「ひっ、こ、これには深ーいわけがございまして!!」

「お前投手なんだから怪我だけはすんなって言ったよな?」

「仰るとおりでございやす!」

「はあ、手じゃなかったからよかったものの。…お前もうちょっと落ち着いて行動しろよ。」

「さ、さーせん!!」


沢村は大きく頭を下げて、慌ただしく練習に加わった。

それを何の気なしに目で追う。

グラウンドに隣接した建物があって補強工事でもしているのかガンガンと釘を打ち付ける音がうるさいが、野球部もそれに負けないくらいの声で練習しているから文句は言えない。

その近くに金丸がいて、沢村は彼の方へ行ったみたいだ。

本当に犬みたいに駆け寄って、邪険にされても食い下がる。
本当に犬だったらアイツはもっと可愛がられるのだろうに、とか。バカみたいなことを考えて「ないない」と首を振った。
沢村は野球バカでうるさい人間だからこそ、チームに影響を与えることができるのだ。
それは刺激だったり、落ち着きだったり、いろいろと。

もうお前はこのチームにとってなくてはならないくらい大きな存在になってたんだな、と成長の早さちょっと感心した。

俺も自分の練習に戻るか…、とグローブをはめ直して後ろを向いた瞬間。

ギリッと、今まで以上の殺気に「ああ、そういえば」と今解決しなくてはならない問題を思い出した。





それから数時間後のことだった。

鉄のかたまりが空から降ってきたのは。

自分の上じゃないのに恐怖が胸の内を占める。

沢村は?成宮は?

もしあれが自分の上だったら、今自分は?


誰も何も言えなかった。

それは恐怖と成宮のように動かなかった自分に対して罪悪感があるからなのかもしれない。

成宮だってギリギリの距離にいた。

なのにアイツは迷うことなく助けに行ったのだ。
他校の一年を救うために。

普段の成宮からは想像もつかない必死な余裕をなくした顔で。


「っ、おい!大丈夫か!?」

「っ、に、ちゃ…こそ、」

「俺よりお前だよ、ああもう!!」

「ご、ごめん」


沢村は顔は見えないけど明らかに涙目で、成宮はほっとしたように張り詰めていた全身の力を抜いていた。

一歩間違えば成宮も、沢村だってただではすまない。


“お前らどういう関係なの?”


皆がそんな疑問を抱いてることに2人は、これっぽっちも気付いていなかった。





あれは俺がこっちにきて一年がたったころだった。

髪の毛がもとから真っ白な俺は小さい頃はそれはそれはからかわれて、イジメっぽく陰湿だったりとか堂々と変なのと言われたりとか、まあいろいろとやられていた。

もちろん俺がやられっぱなしなわけないから、言った相手にそれはそれは10倍返しくらいの仕返しをしたけど、それでも小さい頃はそれなりに傷付いたりとかしていて。

親が離婚さえしなければ、向こうだったら、もう皆からかうのに飽きたり慣れたりした平和な世界だったのに。

傷付くとすぐに自分の殻に閉じこもるのが癖だった。

でも野球は好きで、捨てられなかったから外にはでた。

あのときは周りが皆自分の悪口を言っているような気がして軽く疑心暗鬼におちいっていたから、ろくに友達もいなかったけど。

そんなときに助けてくれたのはずっと蔑ろにしてきた“弟”という存在で。

ある日、たまたま校舎裏で聞いてしまった。


「お前の兄ちゃんって髪の色変だよな?」


その言葉にまたか、と思うと同時にコイツがどう答えるか気になった。

どうせお前も一緒だろ?、って思っていたから変な期待はしない。

今思えば、酷い話だ。
自分はずっと拒絶して、なのに庇ってくれないことには傷付いて。

でもコイツは馬鹿なのか、こいつが言ったのは全く違う言葉だった。


「別に変じゃなくね?東京行ったらいっぱいいんだろ。」


きっと同級生が言ったのはそういうことじゃない。
余所者に心無い言葉を投げつけたいだけだったはずだ。

東京育ちだから気取ってるとか、お前ら東京にコンプレックスでもあんの?って言葉をたくさん言われてきた。

だから、それが一番俺を受け入れてくれたような気がしてちょっと。

ちょっとだけ嬉しかったりもしたんだ。

その後は自分でもわかるくらいあからさまに態度が変わったと思う。

アイツも戸惑っていたけど、差し伸べた手をおずおずと握り返してくれることにどうしようもないくらいの安堵と幸せを覚えた。

ああ、兄弟っていいもんだな、と思い直したりして。

中学生になるころには周りにも普通に受け入れて貰えたけど、やっぱり俺の世界は狭い。
世界というか、俺に見える風景は相変わらずで。
東京に戻ることになっても、唯一の心残りは一つ年が違う血の繋がっていない弟だけだった。

「だから、お前もーー」





心臓がバクバクとうるさい。
命の危機というのは想像以上に人に恐怖を与えるのだと初めて知った。

俺を抱える兄ちゃんの腕が震えていて、ああ助けてくれたんだな、と実感する。

せめて誰もいないときに落ちてくれればいいのにとか、またみんなに迷惑かけてしまったとか、思うことはたくさんあるのだがそれ以上にこの温もりが嬉しくて。

あそこにいたのが俺じゃなかったら動かなかっただろうと妙なことを確信して、不謹慎ながらも少しばかり嬉しくなってしまった自分を恥じる。

昨日まで考えていたことを今聞いたら怒られるだろうか……?

今この腕が自分のために動いた。
その事実があれば理由なんてどうでも良い気がしてくる。

だけどあっちの理由だけは聞いておかなくては。

意を決して口を開こうとすれば、それは途中で御幸や稲実の人に遮られた。


「おい、大丈夫か?」

「へ?ああ。怪我はないっす。」

「鳴は?」

「俺もへーき。」


二人はほっとため息をつく。周りからもちらほら「大丈夫か?」の声や安心したようなため息が聞こえて。
それだけで俺は皆にかなりの心配をかけたことを悟った。


「なんか悪い、御幸。俺のせいで合同練習どころじゃなくなっちまった。」

「いんや、これはお前のせいじゃねぇだろ。それよりお前が無事でよかった。」

「みゆ、………………。」

「……………………。」


言いかけてやめる。
理由は簡単。なんとも言い難い視線を隣から感じたからだ。
御幸もそれに気付いたらしい。
御幸はさっきと違うため息をひとつ。それから鳴に向き直った。


「さっきからなんで鳴は俺のこと睨みつけてくるわけ?」

「………別に。」

「それにお前、ウチの沢村と仲良かったっけ?お前のおかげでコイツも助かったし感謝もしてるけど、お前があんな必死になるなんて理由が気になってしょうがないんだけど?」


皆がうんうんと頷く。その言葉はまさに全員の気持ちを代弁していた。
それに対して鳴は明らかに不機嫌です、といった顔を作る。


「ウチのって何?あのねぇ一也さっきから自分ちの子みたいな発言してるけどコイツ俺のだからね?それに兄弟助けんのに理由なんて必要あんの?」

「…………………へ?」

「あ?」

「え?」

「……栄純?」

「あー…そういえば先輩たちに言ってないわ。」


悪い悪い、と謝るも「なんでそんな大事なこと言わねぇんだ」と非難の目が集中する。

あれ?これって俺のせい?

と自問自答してみるがどう頑張っても自分が悪かった。

ライバル校同士だし聞かれたくない情報だってあるだろう。

でもそんな心配は無用で情報どころか今年度初めて会いました、と言いたいところがそれはそれで悲しい。

ああ、そうだ。それを聞こうと思っていたのにゴタゴタして忘れていた。


「なんでメール返してくんないんだよ?」

「…………だって、」

「だって?」

「お前が東京くるって、言うから楽しみにしてたのに。」

「??、来てんじゃん。」

「バカ!普通稲実だと思うだろ!なのに青道行くことになったとか嬉しそうに電話してくるしぃ!?」

「あ。」

「おまけに理由が一也に球受けてもらいたいからとか誰を恨めって言われたら一也を恨むね、俺は。」


………ああ。

ふんっ、と鼻を鳴らした成宮と慌てて鳴に言い訳している沢村を見てここにいた皆が思う。

要するに(鳴の一方的)兄弟喧嘩に巻き込まれたわけか。

エース様の不機嫌の理由なんていつだって些細なこと。



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