◎あいつの妹がこんなに可愛いわけがない
「おーい、倉持?」
「あ?……ああ。」
本日、晴天。
始業式が終わって、放課後の部活。……倉持がおかしい。
そわそわと落ち着かないでしきりに時間を気にする様子の倉持に御幸は眉をしかめた。
普段はこんなことはない。
それは先輩たちも思っていることらしくちらほら心配そうに倉持に視線をよこしている。
いつもゲラゲラ笑って、何かと突っかかってくるヤツが静かなのは気になるものだ。学校生活でなんだかんだ一緒にいる時間が長い倉持のこと。正直、気になって集中できない。
このままじゃ周りも影響がでるしどーしたもんかなー、と御幸は休憩中に倉持に突撃してみることにした。
とりあえずいつもの調子で声をかける。
「なになに倉持くん。そわそわしちゃって彼女でもできた?」
「は?……ふざけんなよ御幸てめぇ、喧嘩売ってんだろ?あーチクショーこれだから女にチヤホヤされるヤツは……」
「イヤイヤ野球漬けで付き合う時間とかねぇから。………と、まあそれは置いといてマジな話。どしたの?」
「………………。」
言葉に詰まり、黙り込んだ倉持。
御幸はふむと顎に手をあて考えるポーズをとる。
これは思ったより深刻なのかもしれない。……亮さんあたりなら知ってんのかもしれないが、知ってたらあの人のことだから部活に支障が出ないように何かしらのフォローをしてくれるだろう。そう考えると知らない気もする。
「……なあ、」
ニヤニヤとチシャ猫のように笑っていた顔を元に戻して真剣な面持ちで、さらに倉持から詳しい話を聞き出そうとしたとき。
「いったあぁああああ!!!!何で先に行くんだよ!洋!!」
視界の端。
黒髪がふわりと宙を舞って。
真新しいスカートがひらり。
女子にしては元気な大きい声でフェンス越しから叫んで。
運動神経にさぞ恵まれているんだろうと思わせる俊足でこちらに向かって走る。
練習中の泥と埃で汚れた練習着にも関わらず、その子は勢い良く倉持に掴みかかった。
「待っててって言ったじゃん!もーこれだから洋はモテな、ぐほっ!!」
「あ"あ"!?お前は言ってはいけないことを言った!新入生は2年より終わんの遅ぇんだよ。それに俺は部活あるっつてんだろ!!」
「ギブギブ!ちょっ締まってる、く、首が…!」
「つうか野球部にはくんなって言っただろ?ソフトボール部はグラウンドが違ぇんだよこの馬鹿!」
「えー、でも洋に会うの久びさじゃん?それに俺、ソフトより野球のほうが好きだし。これは是非とも会いに行かねば!!と思ってメール送ったのに行ってみたら教室にいねぇじゃん馬鹿!」
「テメェ馬鹿が馬鹿って言うんじゃねぇよ。撤回しやがれ馬鹿。」
「ちょ、マジで無理、死ぬ死ぬ!!……ていうかコレ新技?」
「あ?普通に技かけたら制服が汚れるだろぉが!つうかテメェが気にしろ馬鹿!!」
…………………。
グラウンドで繰り広げられる倉持のいつも通りの関節技。ただいつもと違うのは技をかける相手が女子、しかも新入生ということだけだ。
それがかなりの美少女。いつも彼女を欲しがっている倉持が悪態をつきながらもじゃれあっている女子。とても重要だからもう一度言おう。女 子!だ。
休憩中だから騒がしいのは別にいい。
ただ、ひとつ。野球部員は野球漬けの日々なためモテても甘酸っぱい青春とは無縁の日々を送っている。もちろん倉持もそうだと思っていた。
だって本人がそう言ってるし、常に嘆いているし。むしろ一番それで騒いでるの倉持だし。
騒ぎ立てるヤツこそ一番信用ならないって本当だわ……
グラウンドにいた全ての野球部員の心がひとつになった瞬間だった。
くっ、倉持が!倉持が黒髪美少女と話してる!!!
この衝撃はかなり大きい。しかも名前呼びするほどの関係とくれば尚更だ。
薄いピンクの唇だとか、健康的な肉付きの腕や足とか、黒髪ポニーテールとか、見るからにスポーツ系女子(美少女)っぽい女の子。
これはかなり重要なポイントである。野球部員なんて所詮脳内まで野球馬鹿なのだ。
女子と共通の話題なんてテレビくらいしかない。が、スポーツ系女子とくれば話は別だ。
野球の話をしてもわかってくれる。普通の女子より共通の話題がある。
そんな、野球男児の救世主が倉持と……!!
それは自他ともにモテる御幸にも多大なる衝撃を与えた。
ごめん倉持、内心バカにしてて。
謝るからその子紹介して、と言いたい。言いたいけど言えない。そのくらいのプライドはまだ捨てるわけにはいかない。
が、しかし!!
………御幸が葛藤するのも仕方ない。
だってその子稀に見る美少女なんだもん。
そう。例えるなら子犬。ポメラニアンよりも柴犬。いや、柴犬よりもチワワっぽい。つぶらな大きな目でクルクルしててキャンキャン騒がしいけど可愛いから許されるっていう。
うん。とりあえず可愛い。
「オメェひとりで帰れんのかよ?」
「何ぉおおお!?俺だってそんくらいできるわ!!」
「はあ、だから俺はここ通うの反対だっつったのに。女の1人暮らしとか危ねぇだろぉが。」
「何言ってんだよ?俺を襲う奴なんていないと思うぞ?」
「はあ…………。」
倉持は大きなため息をついた。
うん。とりあえずイチャつくのヤメろ。倉持の心境もわかるけど妙なリア充感が腹立つわ。
ほんと、倉持のなんだってんだ?
倉持は彼女いないって言っていたけど、それが嘘で彼女ですとか言われたら泣く自信がある。
御幸一也。
これでも人生モテ続けた男だ。ずっ勝ち組だった男。一発、死んでくるとしよう……。
「なあ、倉持ー。その子って誰?」
あくまで普通を装って。内心ビクビクなのを隠す。
すると倉持は御幸の内心なんて梅雨知らず「あー」だとか「はー」だとか言いながら苦い顔して数秒後、本日二度目の盛大なため息をついた。
そして注目されているのに気付いたのか、なるべく小さく一言。
「俺の妹」
とだけ言った。
………………………、
………………………、
は?
「はぁああああああ!!!!??」
心だけでなく、声までもがひとつになってグラウンドに響く。
彼女持ちの勝ち組野球部員は「もっと違うところ(試合とか試合とか試合とか)でこの素晴らしすぎるチームワーク発揮しろよ」と心底思っていた。
叫んだ部員があまりにも多くて、一番遠い校舎にある職員室まで声が届き、少しの間学校中で噂になったとかーー。
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|||軽〜い設定
*沢村 栄純
倉持の妹、だから話の中では倉持 栄純、究極のツンデレお兄ちゃんっ子、足速いけど兄には負ける、たぶんそのうち野球部のマネージャーやる、むかし「洋にい」呼びだったけど次第に省略して「洋」呼びになった、最近御幸センパイがやけに絡んでくる、でも時間あるとき球とってくれるから好き
*倉持 洋一
なんだかんだで妹可愛い、始業式の日は妹をひとりで帰らせるのも心配だけど部活あるからどうしようかで部活に集中できてなかった、寮生活やめて妹と一緒に暮らそうか限界まで悩んだ末に野球部があるからやめれなかった、けど心配、かなり過保護、だけど技はかける
*御幸 一也
栄純に一目惚れ?した残念なイケメン、犬好き、敵はお兄ちゃん、栄純が関係あることには何かと絡んでいく、合宿とかやばくて倉持に完全な敵認識された+殺されかけた、栄純にひっつくことで妹に関節技をきめる倉持とも距離が近くなったりするからマジで嫌がられてる(倉持に)、最近「妹ちゃん可愛い」が口癖になりつつある
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