◎切り取る一瞬、



「いいですかジャーファルさん!手持ち花火ひとつにしたって楽しみ方ってもんがあるんですよ!」


そう力説したアリババはふんふんと勇ましく袋を開けた。
そしてその中から花火をひとつ手に取り、先端を蝋燭に近付ける。

花火の先についた紙はすぐに燃え、瞬く間に点火。
噴射音と共に飛び散る火花はススキ状に広がり、暗闇の中に金色の光が浮かんだ。

パァッ!と輝くそれは美しく、火の粉を散らしながら落ちていく様は心踊る。
立ち上がりにこにこと笑うアリババはなんとも無邪気で、どうですか!?と言わんばかりに首を傾げる彼を愛おしく思いながらジャーファルは応えるように「おぉ〜!」と小さく拍手を送った。


「綺麗ですね!私花火なんていつぶりだろう。」
「そうなんですか?俺は毎年なんやかんやでやってますよ!」
「へぇ。ではアリババくん、私に楽しみ方とやらを教えてくれますか?」


にこりと笑ってそう言えば、気を良くしたのかアリババはニヤッと笑ってジャーファルから距離を取った。
小走りで充分に離れると、くるりとジャーファルの方を振り返って花火を構える。
何事だろうかと様子を見守っていると、アリババは勢いよく火花の散る花火を持ったままくるくると腕を回しだした。


「これはこう!こうして遊ぶんです!ほら見て綺麗!」


アリババが動かすまま円を描くように残像を残す花火。
色が変化するものだったらしく、金色から青、緑、オレンジ、赤へと鮮やかに変わっていく。

成る程、確かに綺麗だ。
アリババの言う事が事実なのかはわからないが、彼曰くこうやって遊ぶものらしい。
ジャーファルはふわりと笑ってまた小さく拍手を送った。


いつもよるコンビニで夏をアピールするかのようにずらりと並べられていた花火。
そういえば毎年この時期になるとあったような気もするが、別に興味はなかったので記憶は曖昧。
今年は何故だか目に止まり、アリババが喜ぶだろうかと何気なしに買ったのだが、どうやら思ったよりも喜んでもらえたらしい。


楽しそうな彼に誘われるように、どれどれ…とジャーファルもひとつ手に取って火を付けてみる。
流石にアリババと一緒になってくるくる回すのは恥ずかしくて出来なかったが、しゃがんで見ているだけでも色鮮やかに変化するそれを見るのはなかなか心を弾ませた。

ジッと手元で輝く花火を見つめていると、ひとつやり終えたアリババがまた走って戻ってくる。
用意したバケツに棒を捨て急いで新しい花火を取ったアリババは、ジャーファルの持つ花火の先へと自分の花火を近付けた。


「ちなみに、こうやって火をもらうのがマナーです。」
「ふふっ!マナーなんてあるんですか?」
「そうですよ?蝋燭からつけるよりも楽しいでしょ!」


よくわからないルールを得意気に言うアリババ。
火花はアリババの持つ花火の先端を燃やし、また勢いよく火花を散らす。
忙しなくまた走って距離を取ったアリババはくるくると腕を回しだした。

忙しい子だなぁと笑いながら楽しそうな様子を見ていると、丸を描いていた光が少しだけ形を変える。
自分でやっておいて照れたように笑う彼は、ハートを何度も描きながら「ジャーファルさん!」と楽しそうに名前を呼んだ。

丸よりも描き辛いそれは少しだけわかりにくかったがジャーファルを照れさせるには十分で。
ジャーファルは火照る頬を隠すように片手で顔を覆ったのだった。



切り取る一瞬、



コンビニで売っていた程度の花火の袋はすぐにやり終えてしまい、残るは線香花火が数本のみ。
アリババ曰くこれは最後にするのが決まりらしく、中盤や最初にするのは邪道らしい。
そんなもんかと思いながらも二人で蝋燭を囲み、風を遮るようにしてしゃがむ。


「勝負ですジャーファルさん!先に落ちた方が負けですよ!?」
「わかりました。勝ったら何がもらえますか?」
「ジャーファルさんがアリババくんとまた花火を出来る権利です!明日でもいいし、来年でも有効です!」
「……成る程、勝っても負けてもアリババくんが得するわけですね?」
「む、ジャーファルさんはしたくないんですかぁ?」
「ふふっ!いいえ?また買ってきます。」
「やったぁ!」


二人顔を見合わせてクスクス笑い、同時に蝋燭に線香花火の先を近付ける。
パチパチと小さな音をたてて燃えだしたそれは可憐な華を咲かせた。

儚げなそれは一般的に寂しいイメージが定着しているらしいが、アリババとならばそうではなく。
勝っても負けても次の約束になるのだから、まったくこの子は愛おしい。


ふと隣を見れば同じようにアリババも此方を見ていて、ふにゃりと微笑む彼にやっぱり好きだと再確認。
覗き込むように口付けていたせいで勝敗はどちらだったのかわからなかったが、まぁ結果は同じなのだから問題はないのだろう。


***

deltaの椎野様から暑中見舞いのフリー配布でいただきました。
ありがとうございます!!


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