千歳千里と言うやつは不思議だ。
教室に入るときはお約束の様に頭をぶつけたり、野良猫を追い掛けてどこか知らない場所に行ってしまったり、1時間目に間に合うよう来た筈なのにサボって放課後まで寝てしまったなど、挙げれば切りがない程だ。
だけどテニスをさせればべらぼうに強い。
授業を真面目に受けている姿を余り見ないが、成績はそこまで悪くはない、顔も悪くないからモテる。

千歳は不思議だ。

今日は、珍しく朝練から千歳が参加している。
そのお陰で白石はいつも以上に笑顔だし、金ちゃんは朝から「試合やー!」と元気だし、ユウジと光は雨でも降るんじゃないかと噂してるし。
千歳が朝練にいるだけでこんなにも空気が変わる。本人は「猫さんば追い掛けてたら、学校着いたと」と、小さく笑いながら言っていた。

(その笑顔が可愛くてちょっとときめいたのは内緒だ。)千歳を意識したのは、千歳がテニス部に入部して少し経ったくらいだった。
いつも通り授業も受けない、部活には遅刻、しょうがなく迎えに行けば悪びれる様子もなく「ごめん」で終わる。
何でこんなやつがモテるんだ!と、何度思ったことだろう。
だけど、その後に「謙也くんはほんなこつやさしかね」とにこりと笑われて、さっきまで考えて不満もまあいいかと許してしまえた。

それを繰り返してる内に気付けば好きになっていた。
意外と簡単に恋に落ちるものだ。しかし、自分はもちろん相手も男だ。
思春期の気の迷いと悩んだが、親友兼悪友の白石とユウジに相談したところ「それは多分恋や!一発かましたれ!」と、有難いんだか有難くないんだかわからない言葉を貰ったのはいい思い出だ。

千歳が朝練に現れたことによってみんな驚いたり、喜んだりと様々な反応だがもちろん俺も喜んだりの一員だ。

朝練にいるメンバーに一通り挨拶して最後に千歳に挨拶しに行く。
さっきまで、金ちゃんに試合せがまれたり、ユウジにどつかれたり、白石に褒められたり今日の千歳は人気者だ。

「なんや千歳、珍しいなあ」
「あ、謙也くんおはよお。いつも謙也くんに迷惑かけてるけん今日くらいは頑張ろう思って早起き頑張ったばい。後は猫さんのおかげやね」
「猫さんってお前…今日だけやなくて明日も頑張れちゅー話や!」

苦笑しながら千歳と話す。
そんな顔も可愛くて、やっぱり好きなんだなと改めて自覚させられた。
朝から色々な人と話して疲れたのか、ゆっくりとベンチに座って休み出す千歳。
座ったことによって、旋毛やふわふわとした髪がよく見える。
触りたいと邪な気持ちを抱いて見詰めていれば、視線に気づいたのか顔を上げて先ほどとはまた違う笑顔で微笑んでくれる千歳がいた。

「…今日だけでよかよ。謙也くんが迎えに来てくれる方がやっぱりやる気でるったい」

俺の方を見上げたまま、言ってくれた言葉を頭の中で反芻する。

(俺が、迎えに、行く方が、やる気でる…?俺が?迎えに?)

意味が理解できた時、自分の顔が瞬時に赤くなるのがわかった。

「え、ちょお千歳!それって、どーゆー…!」
「あはは。謙也くん顔真っ赤やね」

慌ててる俺を見て楽しそうに笑う千歳と、顔に手を当てしゃがみこんで熱を冷まそうと必死な俺。回りから見れば可笑しな光景だが、俺はそれどころではなく千歳がどういう意図を持って言ったのかが気になってしょうが無い。
大分顔の熱が引いた頃顔を上げて千歳を見てみれば満足したように微笑んでいた。

「ね、謙也くん、好いとうよ」

小さな呟きにも似た声だけど、しっかりと聞こえた。
一瞬聞き間違えかと思ったがもう聞き間違えでも構わない。

「っ、俺も千歳のこと好きっちゅー話や!」


勢いよく立ち上がって千歳の手を取る。
何度か目を瞬かせてから掴んだ手を握り返してくれる千歳。

「ありがとお。両想いやね」
「…おん。千歳、あんな俺ホンマにお前のこと好きなんや」
「知っとうよ。ずっと謙也のこと見てた」

余りに千歳が優しく笑うものだから、つられて笑顔になってしまった。

「そこー!いつまでイチャイチャしてるんや!授業始まるでー」

はっとなって辺りを見回せばニヤニヤしてる白石とユウジを筆頭にレギュラー陣が集まっていた。
各々おめでとうや、キモいっすわーと可愛げのない言葉やからかいの言葉を掛けて祝福してくれた。
千歳も俺もその言葉が嬉しくて顔を見合わせて笑った。

(片想いから両想いに変わりました)




尻切れとんぼ!オチが見つからないです。
てゆーか千歳どんだけ笑顔の種類あるんだよ。
0607