誕生日。それは誰しも必ず迎える日。例に漏れ無く俺、忍足謙也は本日15歳の誕生日を迎えた。
携帯電話の目覚ましを止める為に開けば、元部活メンバーから多数のメールが、それに着信もあったようだ。一通り流し見するがそこにはどれもおめでとうの文字が。後で一つ一つゆっくり見て、電話はかけ直そう。恋人からなんの連絡も無いのが寂しいが今は気付かないふりをしよう。もしかして忘れているかも知れないが、その時はその時だ。それに今日は始まったばかりだ。夜までまだ時間はある。
そう思い、まだ眠い目を擦りあくびをしながらリビングへ行けば母から「おめでとう」と伝えられた。そして用意されていた朝食に手をつけているとそっとプレゼントを渡される。それは真新しいヘッドフォン。赤色に黄色の星が書かれていて少し男の俺には可愛らしいかもしれない。それでもつい先日家族で食事中にポロっと溢した言葉を覚えて居てくれたからこそのプレゼントだろう。
たったそれだけのことだが、覚えて居てくれたことが嬉しい。
感謝の言葉を伝えがっつく様に朝食を腹に押し込む。
そうして、食べ終わった食器をシンクへと持っていき「ごちそうさま」と一声かけ部屋へ戻る。
部屋に置いたままだった携帯はまたランプを光らせ誰かから連絡があったことを知らせてくれた。恋人からかもしれない、浮き足立つ気持ちを抑えながら携帯を開けば、残念なことに元クラスメイト数人からのメールだった。
ハァ、とため息をついた瞬間携帯が着信音を奏でる。


「も、もしもし!?」
「あー謙也?今お前ん家の前なんやけどいれて」

ディスプレイも見ず慌てて出た電話は淡い期待を裏切るように悪友からの電話だった。ガクリと落ちる肩に、出そうになるため息。いやいやまだ!まだ始まったばかり!そう自分に言い聞かし、一旦電話を切り階段をかけ降り玄関を開けてやれば「よっ」と言いながら片手を挙げている悪友と、めんどくさそうな顔をしながら大きな袋を持っている後輩がいた。悪友だけだと思っていたから、まさかめんどくさがりな後輩がいるなんて思っても見ず驚いた。
とりあえず二人を部屋へ通し適当に座るよう促す。
光もユウジも、しょっちゅう俺の部屋に遊びに来ていたから今更かしこまった様子はなく寛いでいる。寧ろ部屋の主の俺をベッドへ追いやり、二人で話し込む始末だ。一体何しに来たんだ。

「さって…まずは謙也誕生日おめでとうな」
「おめでとうございます」
「おお、ありがとうな!」

会話が落ち着いたのか、おめでとうの言葉をくれる。しかし言う前に何故か正座になった二人に「なんでやねん!」と突っ込みを一つ入れてからお礼を言う。
わざわざ悪友と後輩が遊びに来てくれたのもこの言葉を直接言ってくれるためだろう。確か二人は0時ピッタリにメールが送ってくれたはずなのに律儀な奴らだ。だが、そんなところが嫌いじゃない。

「そんでなーこれ俺らからのプレゼントや」

ガサガサとビニールの袋を鳴らしながら、光が持っていた大きな袋を手渡される。
重くもなくかといって凄く軽いわけでもない。揶揄ではなく本当にニヤニヤと笑っている二人に嫌な予感を感じながらも手渡された物をそっと開く。

出てきたものに開いた口がふさがらなかった。白くてさわり心地のいい大きなクッション。そこまではよかったが何故か恋人の写真が印刷されている。しかもどれも視線を外しているし、気付いている様子が全く見えないので多分これは盗撮だろう。
それとコツンと手に触れた固いもの。クッションの影になっていて気付かなかったがもう一つ入っていたようだ。
そちらも取り出せば、こちらはなんの変哲もないデジタル式の目覚まし時計。
四方八方から覗いても本当に何もない。コイツらに限ってこんな面白味も無いものをプレゼントに選ぶとは思わないが、折角いただいたものだ。有り難く使わせていただこう。

「どや!」
「先輩、その顔ホンマアホみたいっすからやめたほうがエエですよ」
「なんやとー!…まぁええわ、そんで謙也、感想は?」

卒業してから数日しか経っていないからか、相変わらずなやり取りを繰り広げる二人を尻目に貰ったクッションをまじまじと見つめていると本題を思い出したかのように声をかけられた。

「いや、まあ嬉しいんやけど、どないせーちゅーねん」
「寂しくなったら使えや。因みにクッションは財前監修で俺製作の代物やで!」
「目覚ましは俺が作りました。それ、謙也さん喜ぶと思いますよ」
「はぁ…?」

財前の言う喜ぶことが皆目検討がつかず首を捻って時計を縦にしてみたり、斜めに置けるか試していると、痺れを切らした財前がわざとらしくため息を一つ吐き、そっと手を差し出された。迷いなく渡せば何やら軽くいじって返される。

「え、結局なんやったん?」
「しっ、もう少しやから黙ってください」

じっと男三人で時計を見つめるなんて不思議な光景だが話し出してもいいような空気ではないので、大人しく口を閉じる。

『…謙也くん、いい加減起きなっせ。遅刻しちょるよ?』

すると時計に表示されている時間が変わった途端馴染みのある、恋人の声が流れ始めて面食らった。
この場にいないのに、自然と高鳴る鼓動を抑えつつ、ちらりと視線を二人にさ迷わせば、してやったりと言わんばかりにニヤリとえげつない顔で笑っている。

「製作は俺で、」
「声担当は俺やで」

ニヤっと笑う二人に、参りましたと表現するため肩を少しだけあげ、平伏す。ふらりと居なくなってしまう恋人を引き留める術はなく、時々寂しいと感じていたのでこれからはこれで満たされようと思う。ぎゅっとクッションを抱きしめれば、財前がドン引きした顔で「きっしょ…!」と呟いたが今は聞こえない振りをしてやろう。
これで誕生日だというのに連絡一つ寄越さない恋人を補充しよう。まあ何より一番は彼が居てくれることだが。

「さーて…そろそろおいとましますか」
「そーっすね」
「俺らからの誕生日プレゼント大事に使ってや」

言うだけ言って、手早く荷物を纏め出ていこうとするユウジと財前の服の裾をうっかり掴んでしまう。ユウジも財前も不思議そうな顔をしながら首を傾げている。そして財前の方は声にこそ出さないが多分本気でドン引いている。だって明らかに『なにさらすんじゃボケェ、さわんなや』と顔に出ているのだから。

「で、謙也。この手はなんや」
「いや…」
「イヤだけじゃ流石に俺らもわかりませんわ」
「そーそー…それにそろそろお前の愛しの千歳が来るんやないの?」
「…ちゃうねん、あんな…千歳今実家に帰っとるんや…折角の誕生日に一人ってさみしない!?せやから遊ぼうや!」
『……』

そう、実は朝から浮き足立ってたのも無意味に携帯を開いていたりしたのもこのせい。高校は大阪の学校を受け、見事合格した千歳は、これからもこっちにいるわけで卒業してから一度も家に帰らないのも何だから、春休みを使って一旦帰省してしまったのだ。
俺が誕生日と言うことも知っていたが、どうしても家族揃うのが今週しかなかったらしい。俺の誕生日は確かに年に一度しかないが、千歳が家族に会えるのだって年に数度だ。実家暮らしの俺にはわからないが、やはり家族とは毎日顔を合わせたいだろう。だから、悩む千歳の背中を押してやったのだ。寂しいがこれから俺は毎日とはいかなくとも、いつでも会える距離にいるのだからこれぐらい苦ではない。
申し訳なさそうに「必ず誕生日には連絡すると。…行ってきます」と言っていた千歳を送り出したのが数日前。
たった数日だが大分千歳不足だ。そんな寂しい俺を慰めてくれと全部白状すればユウジに鼻で笑われた。

「ほんならそんな寂しい謙也と遊んでやるわ」
「…まっ、しゃーないすわ。付き合ってあげますよ」

すとんと元いた場所に座りこんでくれる二人に「おおきにいいい!!!」とお礼を伝える。しかしそんな声の間から聞き慣れた着信音が鳴り響いた。
こんないいタイミングで誰やねん!と少し不貞腐れながら携帯を開けばそこには待ちに待った恋人の千歳から着信を告げている。

「はよ出ないと切れますよ?」
「お…おう…」

震える指で通話ボタンを押せばピッと音がして向こうの音が聞こえる。千歳に似合わない人々の声が飛び交う喧噪の音。

『…もしもし?』
「も、しもし…?」

数日前に聞いた千歳の声は何だか懐かしい気がして胸がきゅっとなる。モノマネじゃない本物の愛しい人。高鳴る鼓動を抑えつつ千歳の一言だって逃さないよう震える手で強く携帯を握りしめる。

『…誕生日おめでと、謙也くん』
「遅いわアホ。…有難うな」

目の前にいるわけでもないのに拗ねて自然と尖ってしまう唇。その様子がわかっているのか、電話越しに喉奥で笑う音が聞こえた。千歳はきっと俺とは正反対にふにゃんとした笑顔を浮かべているのだろう。

『…ふふっ、俺、今大阪にいると』
「……、…、はああ!!?!??!」

最初なかなか千歳の言葉を理解できずいだが、意味が漸く理解出来た時つい叫び声をあげてしまった。勢いよくベッドの上で立ち上がってしまいスプリングが軋む。俺の声とその音に小声で会話していた財前とユウジが何事かと振り向いた。千歳からの電話に舞い上がり過ぎて失念していたが、そういえば二人とも居たんだと思い出す。
訝しい気に見つめてくる二人に「ち、と、せ」と口パクで伝えれば財前からは気持ちが籠っていない軽い拍手を、ユウジからはガッツポーズをもらった。

「で?今どこにおるん?」
「公園のとこやけんもうすぐ着くったい。あ、猫さん。むぞかねー」

二人からの視線を背に受けながら千歳の居場所を聞き出す。千歳の現在地は、多分俺の家から五分くらいの場所にある公園。確かに電話越しに子供の騒ぐ声が聞こえる。それに千歳が可愛いと言ってるのは公園に住み着いてる猫のことだろう。
美人、可愛いと猫を一通り誉めると、満足したのか「バイバイ」っと小さく聞こえた。どうやらまた歩き出したみたいだ。

「何でこっちおるん?家族は?」
『うーん…謙也くんが寂しがってるけん帰ってきちょった』

あははと身長に似合わない高めの声で笑う。そんな千歳の声も耳に入らないくらい俺は動転してしまった。だって、いやまさか、千歳が俺のことをしっかり考えていてくれたなんて。
喜びで自然と笑ってしまう口元を覆い隠しながら、視線を窓へと向ける。きっともうそろそろだ。
そう思うと大人しくその場に居ること何て出来ず、気付けばベッドから飛び降り駆け出していた。
後ろからユウジと財前が何か言ってた気がするがそれは後で聞けばいい。まずは千歳だ。

バタバタと騒がしく階段をかけ降り玄関を開ければ携帯を片手に角を曲がってきた千歳の姿が見えた。
靴を引っ掛けその場からまた走る。携帯なんて部屋に置いてきた。だって、求めていた人がもう目の前にいるんだから。

「ち、とせ…!」
「…謙也くん?」

肩で息をする俺にきょとんとしながら携帯を閉じる千歳。どうやらまだ繋がっていたらしい。

「お前な、帰ってくるんやったら、はよ言えや…!」
「あはは、すまんばい。…謙也くん、ただいま」

全く反省の色が見えない謝罪を受け、その後言われる帰宅の言葉。本当はもう帰って来ないんじゃないかと怖かった。誰にも言えず、ずっと秘めてきた事を千歳は気付いて居たのだろうか?わからないが、今この場に居てくれるだけで充分だ。

「それと謙也くん。…急だったけんプレゼント用意出来んかったばい。やけんプレゼント、…俺でもよかと…?」
「っ、充分っちゅー話や!!有難うな、千歳。それと、お帰り、」

ニコッと笑う千歳が愛しくて、好きで好きで堪らなくて、漸く会えた喜びもあって、家の前だとか道路だとかそんなこと気にせず千歳のことを抱き締めてしまう。

「千歳!メッチャ好きや!」
「俺も好いとうよ」

声高らかに告白すれば、ちゅっと軽い音がして額に触れる唇。そして返されたのは好きの言葉。それだけで幸せを感じられる。

( キミと一緒に居れる事が最高のプレゼントだ! )


部屋に戻って窓から見ていた財前とユウジに冷やかされるのや、二人のプレゼントによって千歳が照れたり拗ねたりするのはまた別の話。



ごめんなさい謙也くん後で加筆します。
とりあえずお誕生日おめでとう!!!
ギリギリ間に合ってよかったです…(現在3月17日、23時54分)
気に入らないので加筆しまくるか下げるかもしれないです/^0^\過去最高文字数だったよ!

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