ピンクのチークに、アイシャドウに、グロス。他にもファンデーションやアイライナーに見たことがないメイク道具。
テーブルの上に広がるそれらの物を一つ一つ手に取っては弄ぶ。
これはユウちゃんの私物で化粧が出来ないと呟いた私にユウちゃんが持ってきてくれたものだ。

そんなユウちゃんはというと私とは反対側でファッション雑誌を開きながらあーでもない、こーでもないと唸っている。
こんなにもユウちゃんに一生懸命になってもらえるなんて私は幸福者だ。
嬉しさから込み上げて来る笑いを隠そうともせずにいると、笑いに気付いたユウちゃんが雑誌から視線を上げて訝しげに見つめてくる。

ユウちゃんの大きな猫目に見つめられて、胸の鼓動が少しだけ早くなった気がした。

「はぁ、千歳の服選らんでんやからこれがええとか意見言えや」
「うーん…ユウちゃんのがセンスがよかけん任せとう」
「…せやけど初デートなんやろ?自分で決めんでもええの?」
「…うん」
「ならええけど。ほんならこれとか?」

開いていた雑誌を見せられ、ユウちゃんが指差すところに視線を当てる。
そこには、胸元の大きなリボンが可愛らしいブラウスと動き易さを重視してくれたのか、グレーのキュロットにヒールの低いサンダルを穿いているモデルさんがいた。
確かに可愛らしいとは思うが、それなりに身長のある私がこれを着ても似合わないだろう。寧ろ小さくて可愛いユウちゃんが着るなら絶対に似合う服だと思う。

私が困っているのに気付いたのか「やっぱあかんかー」と呟いているユウちゃん。
慌てて「そげなことなかよ?ばってん、ウチには似合わんたい」と言えば、急に眉をつり上げて軽く頭を叩かれた。

「…雑誌見てるだけやとわからんわ。千歳服買いに行くで!」
「ええ…今から行くとよ?」
「思ったら即行動や!っと、その前に…」

反対側から私の側まで来て、おもむろにテーブルの上へ広げてあったメイク道具へ手をかける。

「せっかく出掛けるんやったら、練習がてらにメイクしたるわ」

そう言って彼女の左手が魔法のように動き出した。

「千歳は元がえぇからメイクは薄くてええな」

ファンデーションを軽く塗られ、茶色やピンク色のアイシャドウを塗られる。
されるがままになっている私は自分がどんな姿になっているかなんてわからないままだ。
筆が肌と擦れる初めての感触がくすぐったい。

「千歳、今絶対目ぇ開けたらあかんで」

目の下に軽く指を当てて、まつげにマスカラを塗られているのがわかる。
こんなにも私が無防備になるのは、きっとユウちゃんの前だけだ。
カチャカチャとプラスチックがぶつかり合う音がしてまたそっと触れられた。
頬に当てられた甘い匂いのするメイク道具はきっと先程弄っていたチークだ。
優しくパフが触れる感触とチークの甘い匂い、それに混じってユウちゃんのふわふわとした香りが心地よい。
そして最後にチークを塗られたばかりの頬に柔らかいものが触れた。


「…ん、終わり。メッチャええ出来だと思うで?」

そう言われ、目を開けばユウちゃんの優しい笑顔が目の前にあった。

「ユウちゃん…?」
「千歳…メッチャかわええよ」

突然ぎゅっと抱きしめられ、頬にキスをされた。
それは先程感じた感触と同じで、あぁ、二度目だな、と、思った。

「ふふ、謙也くんにもまだされたこつなかのに」
「えぇ!?そーなん!?すまんなー謙也!」

ここにはいない私の彼氏へと謝罪し彼女は離れていった。
そして、テーブルの上へ置いてあった鏡を手渡してくる。
恐る恐る鏡を開けばそこには初めて見る自分の姿があった。

何時もよりはっきりとした二重のラインに、長く見えるまつげ。
それに合わせてうっすらとピンク色に染まっている頬。
なんだか自分ではないようだ。

「チークはピンクにしたけどオレンジでもええと思うわ…あ、忘れてた」

鏡を見つめているとユウちゃんが何か思い出したのか、その鏡を取り上げられた。
そして、また顎へ手をかけられ何も施されていない唇を一度指でなぞり、グロスを塗られた。
その時いつもは私のが背が高いから見ることはない、下から見るユウちゃんが新鮮で、不意に笑いが込み上げてくる。

「なに笑ってんねん。そないにウチの顔がおもろいんか」
「そぎゃんこつなかよ。ウチはユウちゃんのこと好いとうなぁって思っただけばい」
「ほー…ま、ならええけど。ほんならこれでホンマに終わりや。…白石やないけどパーフェクトやな…!流石ウチやな!」
「うん、ありがとお」
「さって…買い物行くでー!」

手に持っていたグロスを置いて、一度背筋を伸ばしゆっくりと立ち上がる。
ペタペタする唇に違和感を感じながらも、ユウちゃんについていくため私も立ち上がる。
これから二人で三十分かけてお買い物だ。

「千歳〜?はよ来んと先行くで」
「あ、今行くばい」

さくさくと用意を始めていた彼女は既に靴を履いて玄関で待っていた。

( 「千歳に似合う服見つけたるわ!」 )
( 「楽しみやねぇ」 )

そんな会話をしながら鍵を閉め家を出た。

( 初デートはもうすぐだ )



千歳が重い子みたくなってしまいました。ユウジキャラ違うよね。そして謙也が当て馬みたいな扱いになって申し訳ないですorz
ほっぺにちゅーするユウちとが書きたかっただけです。

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