外ではうるさく蝉が鳴いている。きっと外は夏の気温らしくイライラするくらい暑くて、気持ち悪いくらい汗が流れて、痛いくらいの日差しを受けるのだろう。 まあ、エアコンで涼しくカーテンを閉めて外の風景が見れない俺と千歳には関係ないことだ。 夏は日が長いとはいえ、午後六時を過ぎてカーテンを閉めているこの部屋は大分薄暗い。 そんな薄暗い部屋の真ん中に千歳と背中合わせに座り、お互い何をするでもなくぼーっとしている。 いつもせかせかしている俺だが、千歳とこうしてゆっくり過ごす時間は好きだ。 「千歳〜?」 「ん?なしたと?」 「呼んだだけや」 「はは」 ぐぐっと背筋を伸ばしながら千歳に体重をかける。痛い痛いと笑いながら言われ、もっと体重をかけることにした。 「っ、謙也くん、これ以上前屈できんばい…!」 「千歳身体硬いなあ。酢飲めばええやん」「んー…あの臭い嫌いやけんイヤ」 「わがままなやっちゃなー」 体重をかけたまま言ってやれば、お返しとばかりに押し返された。そのまま押し合いを続けていると急に力がかからなくなり、勢いよく床に倒れ込んでしまう。 見慣れた天井が見えたかと思うと、視界の端から千歳がにやりと笑いながら現れた。 「さっきのお返しばい」 にやりから、にこりと笑顔を変え一言言ったかと思えば、弱い脇腹を容赦なくくすぐられた。 くすぐったくてバタバタしてる俺を気にせずくすぐりを続ける千歳。ギブやギブ!!の言葉もんーで流された。 千歳のくすぐりは、笑いすぎて息が出来なくなった俺の動きが止まるまで続いた。 「っはあああ、は…!!…笑い死ぬわ!」 「あはは、すまんばい。…ね、謙也くん後ろ向いて?」 「…なんやまたくすぐる気か?」 「そぎゃんこつせんとよ」 今このノリで後ろを向いたら、終わったばかりの拷問をされるに決まっているじゃないか。頭ではわかっているのだが、身体が勝手に向きを変えてしまう。惚れた弱味だ、これぐらいは許してほしい。 千歳に背中を向け、何時来るかと戦戦兢兢としていると背骨に指が触れる気配がした。 来たと思い、身を強張らせていると予想に反してそのまま指は下に下がって行くだけだった。 ふふっと千歳の笑う声が聞こえたかと思えば、「なんて書いたかわかっと?」と突然耳元で言われ、飛び上がりそうになる。 驚きでばくばくとうるさい心臓を感じながら千歳が背中に書いた文字を思い出す。 短かったのはわかるが、くすぐりに気を取られ過ぎて何を書かれているかまでは気が回らなかった。 「千歳、もっかい頼むわ!」 「しょんなかねぇ。最後やけん当ててね?」 じゃあ、と書かれた文字は、多分『す』だ。そのまま腰の辺りに触れられて二つ目の文字が書かれる。次は多分『き』だ。 「わかっと?」 「『すき』、やろ?」 「せーかい。…好いとうよ」 千歳から好きを伝えられた後、後ろから抱きしめられた。背中合わせに座っていた時より密着している。お互い言葉を発しなく吐息だけが聞こえる。 抱きしめられてるだけなのが、なんだかむず痒くなって来て、千歳の方を向き抱きしめ返す。 俺が突然振り返ったのに驚いたのか、今度は千歳の肩がビクッと跳ねた。さっきのお返しだ。 ぎゅっと抱きしめ、見つめあい、啄む様にキスをする。 角度を変えて、何度も何度も。 「ん、千歳、俺はお前のことが好きや」 「…有難う」 ふわりと笑う千歳に笑みを返して、強く抱きしめた。ずっと離したくないから。 ( 触れた唇と抱きしめた身体の暖かさ ) オチが毎度弱くてすみません。8月9日がハグの日だったのでお家でイチャイチャする謙ちとにしてみました。 0810 |