大嫌いな数学の授業を右から左へ聞き流す。
真っ白なノートがちらりと目の端に写り目を逸らす。
何が楽しくて数学など習わなければないのか。そもそもxなど日常生活で使うときなど無いのだから覚える必要はないだろう。

授業を受ける気などさらさらなく、窓際の一番後ろという特等席をフルに活かし机に伏せる。

伏せて数分、うとうととし始めた頃教師からの「一氏起きろー」と呼び掛けられ小さく舌打ちをしながら起き上がる。
クラス中の視線を浴び「おー」とやる気のない返事をすれば、頭を教科書で叩かれた。


「何すんねん!メッチャ痛いわ!生徒に暴力はあかんで!」
「先生はそれ以上にお前の成績のことで頭が痛いわ」


両手を広げて呆れるしぐさをする先生。思わずクラスに笑いが起こる。
みんなに笑われ変なところで恥をかいた。愛しの小春も笑っていてへこんだ。

ハァ、と溜め息を吐き窓の外を見れば珍しく体育の授業を受けている千歳の姿が見えた。

珍しいこともあるなと思っていると千歳の横に見慣れた金髪が歩いてきた。あれは謙也だ。
どうやら一組と二組は合同授業らしい。

千歳の横に座った謙也はなにやら楽しそうに話かけている。
会話は勿論聞こえないが、うんうんと千歳が頷いているのが見える。

「(ホンマに付き合っとるんやなー)」

仲良さげに話している二人を見て、改めて本当に付き合っているのだなと思った。
部活での二人は付き合っている雰囲気を微塵も感じることが無いので新しい二人を見た気がしてならない。

二人に視線を戻すと、千歳が謙也に何か耳打ちをしていてそれを聞いた謙也の顔が真っ赤になる。
真っ赤になりながら驚く謙也の顔は間抜けで仕方がない。
千歳はしたり顔で満足そうに笑っている。

深呼吸でもしているのか、変な動きをしている謙也にそっと千歳が近付く。
次の瞬間、謙也の頬にキスをする千歳がいた。


「っ、えええ!?」


驚いて立ち上がってしまい、がたんっと音を立てて椅子が倒れる。
何事かとクラス中から再度視線を浴びる。

「…あ」
「あ、やないで一氏。なんや突然?」

やってしまった、と思う前に先生に声をかけられた。明らかに呆れている。それから先生は何か思い付いたのかにやりと笑い、「なんや一氏この問題解きたかったんやなー」と言われ黒板の前に連れていかれた。
勿論解けるわけもなく時間だけが無情にも過ぎていく。
二人のせいでクラスの笑い者だ。
部活のときこのネタで絶対からかってやろうと心に決め、黒板に向き直る。
二人を倒す前にまずは目の前の数学を倒すことにしよう。


( ちゅーか、先生この問題絶対中学レベルやないって! )
( 一氏、これ中一レベルやで )
( …え? )



ユウジくんのお話でした。白石は真面目に授業受けてます。いつか謙ちとの方も書きたいです。

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