携帯電話の着信音が鳴り目が覚めた。俺以外の家族は三日間の連休を使って家族旅行に出掛けてしまった。連れていってほしい気持ちも確かにあったが、全国大会を控えている部活の方が忙しくそれどころでは無かったので諦めて家族からのお土産に期待することにした。

そして今日は今月に入ってから唯一の丸一日休みで、家族の居ないこの機会に付き合って数ヶ月が経つ彼女を泊まりに誘えば、可愛らしい笑顔を浮かべて頷いてくれた。

そんな彼女と、昨日の夜は手を繋ぎながら一緒に帰った。いつもは離れてしまう交差点でも手を離さず一緒に帰る俺たちに、気付いた親友たちにからかわれたりしたものの応援してくれているのを知っているから、その優しさに彼女と顔を見合わせて笑ってしまった。
二人で帰宅して彼女にご飯を作ってもらい、彼女お勧めの有名なアニメ映画を一緒に観たり、イグアナの餌を一緒にあげてみたりと、滅多に出来ない体験を一緒にした。

昨日の出来事を思いだし、改めて携帯電話の画面を見れば11時42分とお昼近い時間が表示されていた。
着信音で起きてしまったかと隣に眠る彼女の方を見れば、特に起きた気配は無く長い睫毛に囲まれた瞳は閉じられていた。元々彼女はよく眠る子なのでこれぐらいなら心配することはないか、何より昨日は少し無理をさせてしまったから暫くは起きないだろう。
横で身動きしても、やはり起きる気配は無さそうなので、おでこに一度キスをしてベッドから降りる。
昨日は彼女がご馳走してくれたから今度は俺が返す番だ。
冷蔵庫を開け、今ある材料で男でも出来そうな簡単な料理を思い出す。

(卵と、ご飯で出来るもの…)

少し考えてから失敗が少なそうな炒飯にすることにした。
最初にネギや肉を口に入る大きさに切って、熱したフライパンに薄く油を引いてその中に切ったものを入れる。
その後溶いた卵とご飯を入れてかき混ぜて様子を見ながら醤油やコショウで味をつけていく。
大分混ざったところでご飯の上に少量の油を入れて全体に行き渡る様に炒めれば完成だ。

「ん、白石やないけど完璧やな!」

味見がてらに一口食べてみれば、自分で言うのもなんだがいつもより美味しく出来た気がする。

(これも千歳が居ってくれたからやな)

美味く出来たことが嬉しくてにこにこしながら彼女を起こすために部屋へ迎えば、既に目を覚まして着替えを終えたところだった。

「あ、謙也くんおはよう」
「おーおはよ。昼飯食うやろ?」

ふわりと花が舞う様に微笑んでくれた千歳に満面の笑みを返して、二人でリビングへ戻る。
タオルを渡し、洗面所へ入って行ったのを見届てから出来上がったばかりの炒飯を皿に移し、テーブルの上にお茶と一緒に並べて、タイミングよく戻ってきた千歳に座るよう促し二人で向かい合わせに座る。

「いただきます」
「どーぞ!今日のは力作やで!」

手を合わせて行儀よく食べ始める千歳を確認してから俺も食べ始める。
少しばかり冷めてしまったがそれでも充分美味しい。

「ん、美味しいばい。お昼ご飯ご馳走になったけん、夜はウチが作ってもよか?」
「ええんか?オカンたち遅くなるゆーてたから助かるわ!夜はカップ麺でええかなー思ってたとこやったし」

二人で話ながらご飯を食べる。それだけのことだが凄く幸せだ。

「ごちそうさまでした」

再度手を合わせて軽くお辞儀をする千歳。

米粒一つ残さず綺麗に食べてくれた千歳に「お粗末様でした」と答えて皿を受け取る。使い終わった食器を洗おうと台所に立てば後ろから来た千歳がスポンジを取ってやる気に満ちた顔で「これぐらい、うちにやらせてほしいばい」と言われた。

「すまんなあ。なんかやることあるなら手伝うで」
「じゃあお皿拭いてもらってもよか?」
「おう!任しとき!」

千歳の隣に立ち、洗い終わったお皿を拭いていく。
二人分しか無いお皿はすぐに洗い終わり二人でソファーに座る。
やることもないので、テレビを点けて昨日観きれなかったDVDを再生する。

映画を半ばまで観たところでうとうととしてしまい、千歳に寄りかかる。
くすっと笑った気配がして、「おやすみ」と小さく聞こえた。


―――


次に目を覚ませば、時計の針は17時過ぎを指していた。
DVDはメニュー画面になって、千歳は俺に寄り掛かって眠っている。寝起きで喉が乾き起こさないよう立ち上がろうとしたが、動いたことによって千歳が目を覚ます。
ゆっくりと上がったら瞼に、「おはよう」と告げてやれば掠れた声で、「おはよう」と返された。

「千歳もお茶飲むやろ?」
「ん、ありがとお」

冷蔵庫へ行き二人分のお茶を持ちソファーへ戻る。

「すまんなぁ。せっかく二人やったのに寝てしもて」
「よかばい。ウチも謙也くんとお昼寝出来て嬉しかったと」

ふにゃりと可愛らしく笑われて、思わず手で顔を覆う。千歳はいちいち俺のツボを突いてくる。

「?…あ、謙也くん夜は何がよか?」
「…千歳が作ってくれるならなんでもええで」

突然顔を覆った俺に、意味がわからず首をかしげながらも晩飯のリクエストを聞いてくる千歳。
それに答えれば、少しだけ悩むような仕草をした後思い付いたように手を叩いた。

「それじゃあ、肉じゃがとかでよか?」
「おう、ええで!…あ、せやけど材料ないんやった…」

そう言えば昼飯で家にある材料を使いきったのだ。どうしようか考えていると、千歳が上着を着て財布を持って出かける準備をし始めた。
俺も慌てて上着を着れば、「謙也くんも来ると?」と聞かれ頷けば「お買い物デートやね」と微笑みながら言われ、胸が高鳴る。

玄関の鍵をしっかり閉めて自然と手を繋ぐ。目指すはスーパーだ。
途中で寝てしまった俺に、映画の続きを話してくれる千歳。その映画の感想を素直に伝えれば喜んでくれた。好きなものを共有出来るのは嬉しいものだ。

話しながら歩いていればすぐ着くもので、かごを持って食材を見て回る。
じゃがいもの見方や、新鮮な魚の見分け方を教わる。初めて教わることに感嘆のため息を吐けばくすくすと笑われた。

必要な材料を購入してお店の外へ出る。重たい荷物を右手に持ち、左手で千歳と手を繋ぐ。

「なあ、ほんまにそっちも持たんでよかったん?」
「ウチも持ちたいけん、気にするこつなかよ」
「重うなったらすぐ言うんやで?」
「うん、有難う」

千歳が頷いたのを確認してゆっくり歩き始める。
今日の晩御飯の話をしたり、じゃがいも以外の見分け方を聞いたりしながら帰路に着く。

「あー、なんや今めっちゃ幸せやわ」
「偶然やねぇ。ウチも今同じこつ思ってたっちゃ」

同じことを考えていたのが嬉しくて思わず顔を見合わせて笑う。

「俺ら似た者同士やなあ」
「ふふ、そうやね」

いつの間にやら家の前まで到着していて幸せを噛み締めながら扉を開けた。


( ずっと続く幸せ )




私の中の謙ちとを詰めたら思いの外長くなりました。おかげで最後駆け足ですみません。幸せな謙ちと好きです。1000hit有難う御座いました!
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