はあっと鬱陶しく目の前の金髪が溜め息を吐いた。
わざわざ二組から離れている八組までやってきて溜め息とは何様のつもりなのだろうか。
訝し気に視線を送れば気付いているのかいないのかわからないが、再度聞こえよがしに溜め息を吐いた。

(溜め息吐きたいのはこっちや!)

せっかく小春とラブラブなお昼休みを過ごす予定だったのに、謙也が現れたことによって台無しだ。

(小春なら、蔵リンが1人やと可哀想だから行ってくるわね☆ゆーて行ってもうたわ!)

吐き出そうとした溜め息を無理矢理飲み込んで目の前の机に頭を伏せてる謙也に声をかける。


「…ええ加減溜め息ウザいわ。わざわざ小春と俺の邪魔までしてなんの用や謙也」
「なんやユウジ顔怖いで?まあええわ!あんな千歳がな…」


しょうがなしに、声をかけてやれば待ってましたと言わんばかりに顔を上げ話された。千歳と言う単語を聞いた時点で、出来れば首を突っ込みたくなかったが乗り掛かった船だ諦めるしかない。そもそも謙也が俺の前に現れた時点で逃げ道は無いのだ。
どんなに避けようとしても結局いつも助けてしまうのだから、意外と自分は友達想いなのかもしれない。

「俺と付き合い始めてたからなんか態度が余所余所しい気がしてならんねん」
「そりゃー謙也の勘違いやな」
「なんでそんなスパッと切るんや!」
「だってなあ…」

同じ部活仲間の千歳と謙也はつい先日めでたく付き合い始めたばかりだ。
以前から謙也に恋愛相談を受けていて、二人が付き合うことが決まった日は一緒になって喜んだ。
ただ、謙也の相手は千歳だ。

人の話は大体聞いてない、神経が図太い、学校をサボるなど挙げたらキリが無いほどの自由人だ。
そんな奴が余所余所しいなんて可笑しくてしょうがない。

俺の返答が気に食わなかったのか、じーっと睨み付けてくる謙也に堪えきれず溜め息を吐けば、愕然として再度机に伏せてしまった。

「…あんな、千歳も照れてるだけやろ。すぐいつも通り戻るやろーからそんな落ち込むなや」

励ましの言葉をかけてやれば少し復活したのか鼻先を腕に埋めたまま視線だけ上げてくる。
全く面倒な親友を持ったものだ。いつものウザいくらい明るい謙也はどこにいったんだ。

「あーもー!そないに気になるんやったら直接千歳にゆーたればええやん!ウザいわ!」
「せやかて千歳に嫌われたら俺もう生きてけへんわ…!」
「知るかボケ!俺んとこ来るなや!」

しびれを切らして謙也を椅子から落とそうとするが意地でも退く気がないのか、机にしがみついている。
そこまでされると此方も意地でも退かしたくなり、羽交い締めにして椅子から落とそうとする。

「痛い痛い痛い!ギブや…!」

バンバンと机を叩いてギブアップを訴える謙也に渋々腕を離すと、ぜーはーと騒いだことによって上がった息を一生懸命整えている。
大分落ち着いたのか、涙目になりながら「ユウジが彼女やったら良かったのに…」と聞こえて耳を疑った。

「…謙也みたいなアホと付き合う訳無いやろ。千歳のこと好きならちゃんと向き合えや」

間抜けな顔でアホなことを抜かす謙也の額にデコピンを一つ食らわして慰める。
その時廊下にあの目立つ長身が見えた。俺が視線を向けて居ると、視線に気付いたのか目を細めて凝視してから、小さく手を振って来た。

「おー千歳やん」
「ユウジくん、謙也くん知らん?」
「謙也ならそこに…って何しとんの」

ゆっくりとした足取りで歩いてくる千歳が、目の前にいる謙也を探していた。何をいっているんだと謙也が居るところに視線を戻せばそこには椅子しか無かった。

更に視線を下げれば、机の横に小さく縮こまっている謙也が居た。
声を掛ければビクッと無駄に大きなリアクションを見せ、半泣きで助けてほしいと視線で訴えてくる。

「…千歳ー謙也なら此処に居るでー」

勿論無視して千歳を呼んだ。
小さな声で裏切り者!と叫ばれたたがそれも無視して千歳が来れるスペースを作った。

小さくなっている謙也の視線に合わせるように、千歳もしゃがみこむ。
そしてポケットから可愛らしいペアのストラップを取り出した。突然の出来事に謙也と俺は目が点になる。
千歳は何が楽しいのかニコニコと笑って片方を謙也へと差し出している。

「お、おきに…?」
「どういたしまして」

恐る恐る手を出して受け取る謙也の上から覗き込めば、それは千歳が好きな映画のキャラクターだった。

(中三の男がオソロでトトロのストラップって…!)

込み上げて来そうな笑いを無理矢理押し込めて二人の様子を見守る。

「俺んこと嫌いになったから余所余所しくなったんとちゃうん?」
「そげなことなかよ。…謙也くんが、お揃い嫌だったらどげんしようか悩んでただけばい。受け取って貰えて嬉か」

花が咲くように千歳が笑えば感極まって、よっしゃあああ!と叫びだす謙也。その叫び声に驚いていると、何事かとクラス中が注目し始めた。
既に謙也の目には俺含むクラスの人間全てが目に入っていないのか、千歳の手を握って「オソロとかメッチャしたかったわ!」と叫びだして遂に堪えられなくなり吹き出した。
突然吹き出した俺に、笑われる理由がわからないのか二人の頭には疑問符が浮かんでいるのがわかる。あれだけうじうじ悩んでたくせに単純なやつだ。だが、それでこそ謙也だ。
笑うだけ笑わせて貰って二人を教室に帰るよう促す。謙也にはもう来んなや!とだけ伝えて見送った。
仲良く教室に戻る後ろ姿を見ていると、めんどくさいが幸せそうで良かったと思ってしまうのだった。

( なんやただのすれ違いやん! )
( はーはよ小春戻って来いへんかな )




結構前から書きかけだった奴を続けてみました。最初に何考えてたのか思い出せない…!よくわかんなくてすみません。

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