まだ6月だというのに暑くて仕方がない。 朝見た天気予報では、初夏の気温だと伝えられていた。 暑さが嫌いな俺としては、こんなにも暑い日に朝練を入れた白石部長を恨むばかりだ。 朝練を終え、教室に入り席へ着く。普段は嬉しい窓側の一番後ろの席も今は苛立つ原因の一つだ。 カーテンを閉めて窓を開けても、乾いた風が時々入ってくるぐらいしか無い。 そんな状態で一時間目の数学を適当に聞き流して二時間目は嫌いな古典だ。 こんな暑いんやからええ加減冷房つけろや。と内心悪態をつきながら携帯と音楽プレイヤーを持って休み時間の内に教室を出た。 二時間目はサボりだ。 静かに過ごしたいと思って図書室へ行ってみれば、何処かのクラスが授業で使うのかざわざわと声が聞こえた。 ため息を一つ吐き出して来た道を戻る。 (部室…はバレたら部長がめんどいわ) ぶらぶらと歩きながら考えるも、どこも思い浮かばない内にチャイムが鳴って廊下には誰もいなくなってしまった。 下手に廊下を歩いて教師に見つかればこの上無く面倒だ。 (しゃーない、屋上行くか…) 再度ため息を吐いて屋上に向かって歩き出す。 暑くてサボったのだから、出来れば外へは行きたくなかった。 ゆっくりと靴の擦る音をさせながら、屋上へ続く階段を登る。 屋上に着き扉を開ければ、乾いた風が吹き雲一つ無い青空が広がっている。 後ろ手に扉を閉めて、日向よりは幾分かましな日陰となっている給水塔の裏へ座り込みイヤホンを付けて音楽プレイヤーの音量を最大にまで上げ携帯を弄る。 暑いが教室で静かに授業を受けるのと比べればまだいいだろう。 ――どれぐらいたった頃だろうか。 ふと人の気配を感じて視線を上げれば俺の嫌いな先輩が給水塔の端から顔を覗かせていた。 へらりと笑いながら少しずつこちらへ来る千歳先輩。 (俺はこの千歳先輩が大嫌いだ) (無駄に背が高くて見下ろして来る視線も、へらへらと笑った顔も、突然現れてレギュラーの座を奪った癖に部活には滅多に現れないところも、久しぶりに部活に来ては圧倒的な強さを見せるのも全部纏めて大嫌いだ) 何も言わない俺に許可を貰えたと思ったのか横に座って何が楽しいのかニコニコとしながら空を見てる。 好きな曲が流れている筈なのに何も頭に入って来ない。 (イライラする) イヤホンを外して、音楽プレイヤーの電源を切る。 「先輩空なんか見て楽しいんすか?」 「うん、楽しか。光くんはそうじゃなかと?」 「別に空なんか見たってなんもおもろないです」 千歳先輩と同じく空を見上げても見えるのは朝から変わらず晴れ渡る空。 ジリジリと焼ける太陽に嫌気がさしてしょうがない。 「そげなことなかよ」 ゆっくりと立ち上がってフェンスまで歩いていく。 せっかく日陰にいたのにわざわざ暑いところに出ていく千歳先輩の気が知れない。 「俺はね、屋上から見る空が好き」 フェンスに寄りかかって此方を見るわけでもなく呟く千歳先輩。 「屋上だけんくて、高いところから見る空が好き。手が届く気がするけん好き」 先の問いに答えるか否かを悩んでいると再度喋りだす。 「…アホっすね。アンタ、そんだけデカイのに高いとこが好きってどんだけデカくなりたいんすか?」 嫌みたらしく答えてやれば、驚いた後苦笑して「そうやね」と一言だけ呟いた。 それ以来何も言わずに空を見上げている千歳先輩。 空気が重い訳では無いが、無言はツラい。話し掛けるか悩んだが二時間目終了のチャイム音が聞こえたので教室に戻ることにした。 此処で千歳先輩のよくわからない話に付き合うよりは真面目に授業を受ける方が有意義だ。 千歳先輩さえいなければ昼休みまで屋上でサボるつもりだったのに全く邪魔な人だ。 立ち上がった俺に気付いた千歳先輩が視線を向けて来る。 「お先ッス」 イヤホンを装着して音楽プレイヤーの電源を入れる。 「またあとでね」 再生ボタンを押そうとしていた手が止まった。 もう少し早くボタンを押せたら聞こえなかったのに。そのまま聞こえない振りをして屋上の扉を閉めた。 再生ボタンを押して、教室へと向かう。 図書室の横を通りすぎようとすれば先程まで授業で使っていたのか白石部長と謙也くんがいた。 「光やん。どこ行ってたん?」 「…謙也くんに関係無いっすわ」 「わかった!サボりやな!あかんでーちゅーか光顔真っ赤やん」 「ホンマやな。光がそこまで赤いのも珍しいんちゃう?」 スッと白石部長から鏡を差し出されてそこに映る自分の姿は言われた通り真っ赤だった。太陽にあたりすぎたせいかと思ったが原因として頭に浮かぶのは千歳先輩の言葉。 思い出して更に顔が赤くなっていくのが鏡に映ってわかる。 ポーカーフェイスを自称していたのに、みっともない。 此処まで赤くなったのもきっと熱のせいだ。 ( 彼のせいだなんて認めたくない ) よくわからなくてごめんなさい。私もわからないです。その内移動させます。 0625 |