「黒梨ー! 時姫ー! 今日七夕だよー」
「急にどうした、アークテュルス」
「……七夕だからってなんだっていうのよ」
「ここはやっぱり短冊に願い事書いて、織り姫と彦星の逢瀬を願おうよ」
「逢瀬なんてどっから覚えてきたんだよ」
「はい、短冊ね」
「私、書くなんて一言も言ってないわ」
「電波でいっぱい願い事飛んでくるよ? 書かないの?」
「まぁいいじゃねーか、1年に1回なんだし」
「ねー」
「黒梨は甘いのよ」
「つーか、笹は? 笹ないと短冊飾れねーぞ」
「あ。忘れてた。黒梨取ってきて」
「なぜ、俺」
「許したんだから取ってきなさいよ」
「どこからだよ」
「異次元とか?」
「は? 何言って…」

すぽん、ひゅるるるるー

「わあっ」「きゃっ」「んな、どうなってやがるアークテュルスぅぅぅぅ」










日が傾いてからきぃちゃんと買い物に行って夕ご飯の材料を仕入れた。きぃちゃんに「何食べたいー?」って聞いても、「なんでも」って返ってくるのはいつものことだから、私が食べたいハンバーグを作っている。

あと、サラダにスープと、…もう1品ほしいなぁ。デザート作ろうかなー

キッチンで挽き肉を混ぜながら考える。それにしてもお肉の量が多かったかもしれない。ボールにいっぱいでこねる度に溢れそうになってる。どう見ても2人分以上ある。

どーしようかなぁと悩んでいたら、外から、とすん、と音がした。外といってもここは最上階で、あるのはバルコニーくらいだ。

「きぃちゃーん、今なーんか音しなかったー?」

リビングのソファで本を読んでいたきぃちゃんに聞いてみた。きぃちゃんは顔だけ私の方に向けた。それから、少しだけ考えるように眉をよせる。

「いや」

小さく首を横に降った。どうやらきぃちゃんには聞こえなかったらしい。ということはそら耳かな。

でもなんだか気になってバルコニーに出れる窓を見た。薄手のカーテンと光の反射でよくは見えない。けれど、少し見ていると風になびくタオルが目に入った。

「あぁ! 洗濯物ー! しまうの忘れてたー」

バルコニーには洗濯物が干しっぱなしだった。私は急いで手を洗ってバルコニーへと向かう。

「手伝うか?」

本を閉じたきぃちゃんが言ってくれた。

「いっぱいじゃーないからー大丈夫だよーありがと、きぃちゃん」

言って、バルコニーに出た。外はすっかり太陽が沈んでほんのり暗くなっていた。弱い風にタオルが流されている。1枚2枚と竿から取って、ふと足元になにかがあるのに気付いた。洗濯物が干してある奥に、大きな塊。なんだろ?

近付いてみるとそれは人だった。

手前には銀色の髪の大きな人、その隣りに可愛い小さい子、一番奥に黒い髪がお団子みたいになってる人。

みんな、カッコよくて可愛いなぁー

しゃがんでよく見てみた。みんな、ちゃんと息をしてる。眠っているみたい。あれ、でもなんでこんなところで?暑くないのかな。

「あのー」
「、誰?」

声をかけようとしたら、真ん中の可愛い子が目を覚ました。

「えーっと、私はー」
「ユワ、第六感学校に通う、B型の一人っ子、今は親と離れて暮らしてる、勉強はイマイチ、料理の腕は黒梨と同じくらいかな」
「わわ、すごーいねーなんで分かるのー?」

可愛い子がすらすらと言い当てた。本当にすごい。

「アークテュルス…?」
「……ここは、」

拍手をしていると、銀色の人とお団子の人も目を覚ました。そして私を見て驚いてる。大丈夫ですか、と声をかけようとして、後ろからの声に先を越された。

「ユワ」

振り向くと真っ黒なきぃちゃんがいた。逆光で顔がよく見えないけど、声が硬い。きぃちゃんは私ではなく、私のむこうを見ていた。

きぃちゃんの雰囲気が冷たくなる。

「きぃちゃん?」

早足で私の前まで来たきぃちゃんは私の腕を引っ張って立たせた。そのまま背中に隠される。銀色の人たちが見えなくなっちゃった。

「誰だ」

低い、きぃちゃんの声。それに答えたのは銀色の人。

「え、てか、ここどこだよ」
「なんなの一体」
「なんかぼくらの世界とは違うみたいだよ」
「「は?」」

ていうよりも違う話になってる。きぃちゃんの背中から顔を出してみたらお団子の人と目が合った。

「こんにちはー」
「……貴女、だれ?」
「えと、私はー」
「白い人はユワ、小さくて弱々しく見えるけど黒梨より強いよ。んでー黒い人はキヅル、夜叉の再来って呼ばれててかなり強い、無愛想だけど人徳はある、でも持久力はない。2人とも反則技みたいな超能力が使えるみたいだよ」
「お前には言われたくないだろよ」

またすらすらと言い当てた。本当にすごいなぁ。でも1つ忘れてるよ。

「それにーきぃちゃんは優しーいんだよ! ねーみんな、自己紹介しよーよ!」

きぃちゃんの腕をぎゅっと抱きしめて言えばみんなに見られた。なんで不思議(というより剣呑?)な顔をしてるんだろ?




銀色の人は暗清黒梨くん、可愛い子はアークテュルスくん、お団子の人はものぐさ時姫さんでした! 落とし穴みたいなのに落ちて、気付いたらここにいたみたい。まぁ、瞬間移動だよね。

「ねぇ、あっくんたちがー持ってるのなあにー?」

1歩前に出ようとしたらきぃちゃんに止められた。きぃちゃんの目がちょっと険しい。近付くなって言ってるみたい。

でも大丈夫だよ、きぃちゃん。きっとこの人たちは悪い人じゃぁないよ。もし悪い人でも2人なら勝てるし!

そんな意味を込めてにっこり笑った。伝わったかは分からないけれど、前に進んでももう止められることはなかった。

「あっくんってアークテュルスの事か?」
「そーだよ。あっくんとーこっくんとーとっきーだよー」
「ユワは人にあだ名付けるのが好きみたいだよ」
「……とっきーってまさか、私? 止めてよね」
「ははっ可愛いじゃん、とっきー」
「黒梨!」
「んで、コレだっけ? もしか、短冊知らねーの?」

こっくんがひらひらと青い長方形の紙をなびかせた。あっくんは黄色の、とっきーは赤のを持っていた。ちょっと羨ましいな。

「たんざくってなあに?」
「七夕ん時に願い事書く紙だ」
「たなばた? きぃちゃん、たなばたーってなにー?」
「さあ」
「何、七夕も知らないの?」
「七夕っていうのは7月7日の行事で、天の川を挟んで離れ離れになった彦星と織り姫が年に1度、逢える日なんだよ」

あっくんが教えてくれるその横でこっくんが頷いていた。よくは分からないけど、1つ気になった。心臓がときんと鳴る。きぃちゃんを見ると少し目を見開いていた。

「みんなはーあまのがわーって知ってるの?」
「は? 当たり前じゃん」
「当然でしょう」

どうしよう、きぃちゃん! 嬉しい! 私たちの他にもあまのがわを知っている人がいたよ!

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