DEATH MATCH部屋

Start++


 よく考えなくても、おかしいと思うことはある。その種類は様々で、たとえば道徳的ではない行動だとか違反行為だとか、ともかく人は”普通”以外のものを好まない傾向になる。だから敏感になる。そんなもの、本当は存在しないのもわかっていながら。

 雲ひとつ無い快晴なこの空であっても、凍てつくような寒さにグリーンは身をすくめた。シロガネ山の頂付近までリザードンに運んでもらい、今度はウィンディに付き添ってもらいながら雪の道を進む。
 故郷のマサラやトキワは既に夏の日差しを浴び、木々は美しい緑に彩られている。いつだって極寒の冬の中であるシロガネ山にくるとあの暑さですら愛しくなるというものだ。グリーンはあまり寒さには強くない。

 やっとの思いでかすかに漏れる光を見つけたときは毎回安堵のため息が漏れる。蒸気があがって息が白い。炎タイプのウィンディがいてもらってもこれだけ寒いのだ。グリーンが小さくくしゃみをすると、もう少し先の洞窟から黄色いなにかが走ってくるのを見つけた。ぴょこぴょこと愛らしく長い耳や尻尾を揺らす彼はあいつの相棒ピカチュウだった。

「ぴか!」
「うお、っと!」

 勢いそのままに飛びつかれる。その小さな体を抱きしめると挨拶だというように片手を挙げてもう一度「ぴか!」と鳴くと頬をすり寄せる様子は可愛い以外の何者でもない。おや同然にどちらかというとクールなピカチュウは最近とてもグリーンに愛情表現をするようになった。昔はむしろ逆であったのに。それはきっと、おやに似ていて同調するタイプだからなのだろう。意外にも。
 ピカチュウを抱いて洞窟をくぐると声をかけるよりも、顔を見るよりも、先にピカチュウごと暖かい腕に閉じ込められた。

「おかえり、グリーン」
「…おう。」

 この寒さでも半袖の出で立ちのせいでむき出しの腕が暖かい。不意に体の拘束がとれて黒いオニキスのような目が真っ直ぐにグリーンを見つめる。いつものような無表情。でも、その目が一瞬だけ細められたのを見逃さなかった。生まれたときから一緒に居るといっても過言ではない時間は、相手の表情をたやすく読み取ることが出来てしまった。言葉数も表情も少ないこの幼馴染と意思疎通することが容易だったことに感謝していたが、今ではわからないほうがよかったと思わざるをえない。グリーンを見つめるその目は明らかに”恋情”を含むものだった。

 ”普通”じゃない。あり得なかった。だって、グリーンも、幼馴染の―レッドも、男なのだから。
 思春期真っ只中にこんな場所に篭って、よく顔を合わせるのがグリーンばかりだからきっとこうなってしまったんだろうとグリーンは考えている。そして、グリーンやレッドの母親しかわからないであろうかすかに変わる表情が嬉しそうにほころぶのを見ていると、それもどうでもよくなった。本当、”普通”じゃない。嫌ではないと思う自分も、きっと同じ目でレッドを見ているのだろうから。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -