DEATH MATCH部屋

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 ガタガタと騒がしい音にティーダは飛び起きた。熱で浮かされた頭が、いきなり起き上がったせいでずきずきと痛み始める。
 なんだなんだ。突然のことに何が起こったのかわからない。バタン、と大きな音で玄関のドアが閉まった音がすると思ったら、リビングのドアが勢いよく開いた。

「っ、オヤジ…?」
「あん!?お前、風邪ひいたってえ!?」
「オヤジうっさい…頭に響く…」

 騒がしく入ってきたのはジェクトだった。手になにやら珍しくコンビニの袋をぶら下げているがなぎれもなくジェクトだ。

「オヤジ…なんで」
「あ?俺様の家だろーが。帰ってきちゃいけねーか」
「違う、そうじゃなくて……こっち、帰ってきてたんだ」
「おう」
「……おかえり」
「…おう。つーかお前、電話くらい取れ」
「んー?」

 ずかずかと相変わらず堂々とした歩き方でジェクトはティーダの近くに寄る。おもむろにしゃがみこむと丁寧とは言えない手つきでティーダの頬をぬぐった。

「ジェクトさん家の息子は泣き虫だねえ、まったく」
「んえ?」

 頬をぬぐった大きな手の平は涙で濡れていた。ティーダはしばらく言われた言葉が処理できず首を傾げていたが、どうやら自分でも気づかず涙を流していたらしい。
 まじかよ…!
 この歳にもなって。ティーダは恥ずかしいやらなんやらで触るなといいたげに手を払ったが、熱の篭った体は力などまったく出てはくれなく、抵抗は無駄に終わった。ジェクトの手はティーダの額、首に体温を確かめるように触れる。それがどうにもくすぐったくて身を捩るが逃してくれない。

「熱は…けっこうあるな。なんだってんなとこで寝てんだよ。悪化すんぞ」
「…うん」
「メシ食ったか?」
「んー」
「薬は」
「……あたまいたい…」
「ダメだこりゃ。」

 熱のせいでくらくらしてるティーダに聞いても無駄だとわかったのか、ジェクトは頭をかいて「どうしたもんかね」と呟いた。病人の看病も、大人しい息子も、どちらも慣れていないのだ。は、は、と息は熱く荒い。
 不意に体が浮かぶ感覚に、はっきりしない頭でもわかった。慌ててジェクトの服を掴む。ジェクトの逞しい腕で横抱きにされていてティーダは本格的に泣きたくなった。この歳になって泣くわ父親に横抱きにされるわで思春期兼反抗期のティーダには恥ずかしいどころではない。しかし暴れでもしたら落とされるだろう。きっと病人にも容赦はない。もし落とされたらきっとこちらが悪いのだろう。なのでティーダは大人しく抱かれてた。決して触れた人肌に安心したからとかそんなのではない。

 ジェクトにしては丁寧にベットに降ろされたティーダは、ひんやりとしたシーツの感触にまた身を縮こませていた。寒い。熱い。ぐるぐる変わる感覚が気持ち悪くてどうにかなりそうだった。
 そんなティーダを横目にジェクトはコンビニ袋をがさがさと漁っていた。

「アーロンのやつ、夜にこっちくるらしい。言葉には言わねえが、お前が心配なんだろ。おら、飲み物飲んどけ」

 手渡されたスポーツドリンクのペットボトルに口付けるが、あまり飲み込めない。飲んだほうがいいのはわかっているのに、どうしても進まない。少しだけ飲んで、すぐにジェクトに渡す。

「こりゃ本格的にやべえかもな。薬やっとくか」
「えー…くすり…」

 薬は苦手だった。健康優良児ティーダは薬を飲んだ経験はあまりない。どうしても喉を通らないのだ。インフルエンザにかかったときも全力で嫌がったがジェクトに無理やり押さえ込まされ飲まされた。後日、「あんときは大変だった」とジェクトが言っていたのだからティーダの抵抗は凄かったのだろう。それほどまでには苦手だった。
 もう既にティーダは逃れようとベットの端っこに寄っている。

「安心しろや、飲み薬じゃねえ。それだとお前嫌がるからな。全く、あんな力あるんだったらブリッツでも活かせばいいものを」
「飲み薬じゃないって、なに。それ以外のあんの」
「ほれ。これが一番聞くんだと。ってブラスカが」

 ジェクトの取り出したものを見たティーダは、今すぐ窓から飛び降りて走って逃げたい衝動に襲われた。実行できるならばもうしているだろう。あんまりだ。
 いやいやと首を振るティーダにジェクトはため息をつく。ため息をつきたいのはこちらのほうだ。なんだって、なにもそれを選らばくてもいいじゃないかと。他にも選択肢があったはずだ。ブラスカを恨みたくもなった。
 ジェクトの手には座薬が握られていた。

「やだ、ぜったいやだ!なんでよりによってそれなんだよ!くそオヤジ!」
「おーおー、威勢いいねえ。ブラスカがいったってことはユウナちゃんも…」
「わー!いいって、言わなくていい!」
「ユウナちゃんが出来るんだ、男のお前が出来なくてどうする」
「そういう問題じゃ…な、なんでこっちくんだよ」
「おら、ケツ出せ」
「やだやだ!こっちくんな!」
「だーもう、ピーピー泣くな男だろーが。何恥ずかしがってんだよ。こちとらお前のおむつ変えてたんだからな。今更だろ」
「うっさい年齢が違うだろ年齢が!」

 ティーダはジェクトの手から逃れようと毛布をかぶって芋虫作戦に出たが、ジェクトの腕力によって簡単に突破されてしまった。作戦失敗である。

「わかった、わかった自分でやるから!」
「あ?自分でいれられんのかあ?自分のケツに指つっこめんのか」
「…うっ、あ、あんたはどうなんだよ」
「出来なきゃ言わねーよ。おら、腹括れや」

 腹を括る時間も覚悟もなく、うつぶせに押さえ込まれたティーダだったが、先ほど暴れたせいで抵抗する気力もなくなっていた。諦めるしかないようだった。
 この歳にもなって。何度も思ったことが頭をかすめる。本当に、風邪なんて引くもんじゃない。

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