俺に笑いかけるのを止めて



「じゃあ…俺、今日はこのくらいで帰りますね」
「あ?あぁ―――…」

言わなくちゃ、言わなくちゃ。

俺の心はそうやって俺を急かす。
なのに、俺はあいつの表情を見て、口が勝手に口が勝手に違うことを話してしまったのだ。

「また明日」
「あぁ…」

違うだろ

部屋に帰って来て、はっきりしない自分に嫌気がさしてただただ苛々した。

「本当に、最低な男だよ、俺は…」

不知火はベッドに寝転んで、自分の頬を叩いた。こんなことじゃいけないんだ、切り出さなきゃいけない。
毎日そう思っているのにも関わらず、東月の笑顔を見ると、どうしても言いだせなかった。
あの優しい笑顔を見ると、どうしても言いだせなくなってしまう。

こんなことをするのが、一番傷付けるって知ってるはずなのに

不知火が月子と出逢い、七海と東月ともと仲良くなっていったあの頃。
自分が高1の時に、東月を興味本位で抱いてしまったことがあった。
そして、それにはまってしまったのが東月と自分の関係なのだ。
そんな事から始まった二人にしてはお互いを想い合い、もしも男女のカップルなら誰しもが憧れるような。
そんな関係に見えていた。

が、不知火が入学してくる東月を迎える準備を整え始めた星月学園、受験日。

「あれ…は……」

桃色のふわふわした髪をした人一倍一目を惹く存在。
その少年は、凄く綺麗な顔立ち、振る舞いをしていた。が、彼の瞳は黒曜石の様に真っ黒で、何も映していない。

希望も。
幸も不幸も。

あの瞳からは、絶望しか感じられない。
感情を読み取ることが出来なかった。

そして、彼の未来を詠めば制服に無表情で袖を通す彼の姿があった。
生徒会にいきなり引き入れて、共に生活を送ってみると彼の心は固く閉ざされ、全てを拒絶し、自分の一番弱い場所を必死に隠していた。

誤魔化し笑いを浮かべる彼を、不知火は悲しい気持ちで見ていた。
きっと、本気で笑えば、心から笑うことが出来れば…こいつはもっと、美しく笑えるはずなのに。

そんな風に思うと、今までは見ないようにしてきた現実が浮き彫りになってゆく。

俺はきっとあいつのことが好きなのだ。
東月じゃなくて、青空が―――…

そう思うと、どっちつかずな態度が二人に申し訳なくて、そんな自分が嫌で、さぁどちらを選ぶのか?と聞かれた時に、"青空"と答えると決めたはずなのに…。

俺って奴は本当に最低だ

His smile always makes it impossible for me to say good-bye to him.
(彼の笑顔がいつも私にさよならと言うのを不可能にさせる)








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