この涙は天から与えられしものなのか



“可哀想にね”
“残念にね”

僕等の愛を馬鹿にする人間は口をそろえて皆同じ事を言う。
それは僕等のことを侮辱した言葉なのではないか、といつも思ってしまう。

こんなに愛し合っていて
こんなに求めあっていて
こんなにもかけがえのない存在同士なのにもかかわらず、

僕達の愛は認められない。

どうして?


不知火会長は僕に行った。

「何があっても、絶対にお前のことだけは守ってやるからな、大丈夫だ。安心しとけ」と。

大好きな彼の言葉は、僕の心に暖かく沁み渡った。
それは世間一般、全てに背を向けるという覚悟。

背徳の愛を貫き通す覚悟を彼は僕に与えてくれた。

僕は人間が大嫌いだ。
僕の外見をバカにしたり僕の性格を非難したり笑ったりする。
でも、会長だけは違った。

僕と過ごした時間はほんのわずかなものかもしれない。
それは、本当に“一年”にも満たない数か月だったのかもしれない。

それでも不知火会長は、僕のことを励まし、守り、勇気づけてくれた。

“そんな奴等の言うことなんか気にする必要はないんだぞ?”って。
“此処にお前のことを好きな奴がいるだろう?”って。
“俺が、ちゃんと毎日そばに居るからな?”って。

そんな貴方の暖かさや優しさは僕が今までに“友達”というものや“恋人”に貰ったことのない暖かい言葉。

―――嬉しかった。


貴方が僕のすることを期待してくれたのかと思うと、心が救われる様な気がした。
クラスでどんな目線を向けられていようとも、貴方が受け止めてくれる、と。
どんなに辛いことがあっても、貴方にこの後会えるんだ、と思えば本当に嬉しかったし、辛いことも頑張れた。

僕は貴方の期待にこたえようと思って、生徒会の仕事もたくさんこなした。
辛いこと、哀しいこともたくさんあったけれど会長が“俺が付いているだろう、頑張れ”そう言ってくれるだけで本当に嬉しかったから。

僕が貴方と付き合うって事になった時も、嬉しくて涙が出た。
生徒会の二人のささやかな祝福も、会長の溢れんばかりの笑顔も。

「会長、大好きです」
「あぁ。俺もだ。…ずっと、一緒に居たいな」



そう言って笑い合った二人が手をつなぎ、喧嘩し、笑いあってもう十年がたった。
一樹会長、はいつしか“一樹さん”になって二十九歳、いいおじさんになっていた。

「…なぁ、颯斗。……結婚しようか?」

一樹会長がいつになく困った笑顔で僕にそう言うので僕も困った顔をして頷きながら差し出された手を重ねた。

「はい。そうしましょうか」


この“結婚する”という言葉の重さを僕はよく知っていた。
“日本”というこの国で、男二人が結婚するのはまず不可能。
また、世界に大手を振って歩いてはいけないということも痛い位に良く知っていた。

でも、離れられない。

「俺の叔父には、もう話した。…お前のご両親のところへ行きたい」

今、丁度彼等は日本コンサートでこの国に戻ってきているところだったから丁度良かった。
僕達二人は手をつないで緊張した面持ちで僕の家へと向かった。


「今日は、お話があってきました。……颯斗さんを、僕に、ください!」

一樹さんは家に上がってすぐに両親の前に座り込んで頭を下げた。
その彼の真摯な態度に僕は惹かれ、そして心を寄せてきたのだ。

「…はい?」
「男同士、というのは痛い位に承知しております。しかし、どうしても僕には彼が必要なんです!お願いします、どうか、どうかお願いします。…幸せに、してみます」

一樹さんが、床に頭が付くほどに深々と頭を下げた。
大好きな貴方が、僕との結婚の為に、ここまでしてくれる。

本当に幸せで愛おしい時間だった。
しかし、その一瞬は両親によって引きちぎられた。


「何をふざけたことを言っているんだ!男同士?気持ちが悪い、出て行きなさい!」
「そうよ!利用価値もない、面倒事は持ってくる。貴方は本当に最低な人だわ颯斗、あっちに行きなさい!二度と私達の前に姿を現さないで!」


そうやって罵られても一樹さんは、“また来ます”とだけしっかり言うと、涙で前が見えず、立ち上がれなかった僕に手を差し伸べてくれた。
そっと手を載せると僕の手を引っ張り上げてくれて家を二人で後にした。

空はもう、夕焼け。
二人は無言で思い出の場所、星月学園が見える丘まで登った。

「颯斗……悪い、な……あん、な思い…させて」
「か…いちょう、僕は、平気ですよ…。貴方が、傍に…い、て…くれればっ!!」

僕は一樹さんに抱きついた。
彼は何も言わずに優しく抱きとめてくれる。

僕の今言った言葉は嘘のようで、本当。
一人で生きて行ける歳になった僕は、本当に会長…一樹さん以外、何もいらないと思えた。

“彼の暖かい手以外、何もいらない”


でも。
「じゃ、どうして、そんなに泣いてるんだ…?」

出て行く時に、聞こえてしまった会話。
―お前の教育が悪いからあなったんじゃないか!?
―人のせいにしないでよね、教育なんていらないって言ったのはあんたじゃない!
―責任押し付けてるのはどっちだよ!?
―あぁ!あんな子産まなきゃあよかったわ!

親は、僕といういらない人間のせいで喧嘩をした。

ごめんなさい、ごめんなさい。
出て行けと言われれば僕が出て行く、消えろと言われれば僕が消えるから。

だからお願いですから、喧嘩を辞めてください。

でも僕が今、涙を流している理由はそのことではなかった。


「貴方が、泣きたいのに涙をこらえてお泣きになりません。……だから、代わり…に、貴方の代わりに、……泣ける僕が、二倍泣くんです」

そう言って僕が大泣きし始めると貴方は僕の方にそっと手を置いて、静かに悔しみの涙を流した。


「俺達…そんなに悪いことしてんのかな……。お前が、存在を否定されるまで、そんなことされなきゃいけないくらいに…悪いことなのかよ……」

あぁあ
どうしてわかってくれないの?

こんなに大切、ということを。

彼が居なくては
この温かい言葉がなければ

僕はもう生きては行けないのに。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -