流れた涙は、まるで流れ星みたいで


夜の帳が落ちて
星々が空に浮かんだこの日の夜。
青空颯斗は、二回目の別れを、恋人不知火一樹に告げたばかりだった。



「会長……やっぱり、さよなら」
「どうしてだよ!?納得いかねぇって、さっきから何度も言ってるだろう!?」


肩を掴まれて顔を覗き込まれてももう、さよならなことはさよならなのだ。

青空の目は凄く暗く、不安になるような空に負けない位に深い。



「もう僕のことは忘れて…「理由を言え!…颯斗!!」

話を遮り、青空の手を掴んで離さない不知火。


「離して…「だめだ!お前が、颯斗がちゃんと理由を話して、俺が納得できたらお前のこの手を離してやる」

その時は、本当のさよならだから

そうやって不知火は言った。
青空はすぐに困惑の表情を浮かべる。

不知火は自分に非があるから僕が別れを切り出したと思っている。
でも、――――…。


「会長の、せいではありません」
青空には不知火に非がないと伝えることが精一杯で。



いつもの癖で、青空がぎゅっと血が滲む位に唇を噛み締めたその瞬間。


ぽすっ


青空は不知火の胸の中にいた。
ぎゅっと抱き締める力が強くなり、体つきが細い青空の躰が、みしみしっと音を立てるんじゃないかという位に、強く。


「………会長…?」
「それ、止めろって言ったろ?」
不知火の冷たい指が、青空の唇を緩やかにそっとなぞって、赤く血が滲む唇を指の腹でそっと撫でた。

指の冷たさに、冬を感じる。
あぁ、もう十二月。

泣いても笑っても
もう十二月なのだ。


「…颯斗、何があった?俺の力でも、何も分からなかった」
「会長、僕は今だに弱虫だったんです」

そんな事はない、と言う不知火の言葉を遮って青空は話し続けた。

「いいえ、だって僕は今、僕の都合だけで貴方にさよならを告げた。…分かってください。怖いんですよ。貴方の恋人としてずっと、…そう。貴方がこの学園を去る日までずっと貴方の恋人として隣に居たら、僕は独りです。貴方がこの学園を発ってしまったら、僕は独りの孤独に潰れて生きていけないかもしれない」


青空の目の端に溜まっていた涙が、行き場を無くして青空の白い頬を伝った。

まるで、それは一瞬でまっすぐ流れてゆく流れ星のよう。


「だから、僕は、貴方に嫌われれば、貴方と別れてもう、何も関係のない人間になれれば貴方がいない世界でも、なんとか生きてゆける…「お前…。颯斗、お前そんな事…」

何も口に出さない恋人は、不知火の後をただ付いてきてくれる(恋愛面に限る)優しい恋人だった。

しかし、その反面辛い事があっても自分でなんとかできるだろうと自分を頼らずに一人で思い詰める癖があった。


また、
一人で毎日毎日毎日悩んで、
きっと出した結末なのだろう。


だからこそ、


「颯斗、俺はそんなに頼りない奴を生徒会長に任命した覚えはないぞ?俺とお前は、離れてたって一緒だろ?」
「無理です!僕が、ずっと会長のことを好きでいることは出来ますけど、いつ来てくれるのかと学園の入り口をいつも見つめてずっと待っているなんて、みっともなくて、情けなくて、耐えられない!……僕のことを嫌いになって、…さよならって言ってくださいよ!!」

哀しい位に切実な叫び声。
不知火は今まで以上に腕に力を入れて抱き締めた。


「………離れるのが、辛いって…思ってるのは、お前だけだと。…本当にそう思うのか?」

その言葉に、青空がはっ、と顔を上げる。


不知火の瞳には、透明な涙。


「俺が、お前も一緒に連れて行ってしまえたら、ってどんなに思ってるか」

お前は分からないのか


不知火の体は大きく震えていた。
怒りと情けなさ、哀しさ。
そんなものが、全てが詰まっていて、青空はあぁ、辛いのは、悲しいのは、自分だけじゃなかったんだ。
と思った。


「大好き、です……」
「俺だって、愛してる、颯斗。その日が来て、離れても大丈夫な位に、ずっと一緒にいよう。…もし、それでも離れるのが辛いなら、二人会う日を決めよう。大丈夫だ。お前だって、後一年じゃないか」

な?と笑う不知火の涙でいっぱいの笑顔に、青空の胸はきゅっと締め付けられた。



この人は、こんなに大きい。

僕は、
こんな人の後を継ぐんだ。


「会長、…やっぱり、さよならは……」
「しないでおいてくれ。俺をこれ以上泣かせる気か?」


不知火が少しおどけた調子で言うので、にっこりと笑って、青空は言った。



「次に、涙を二人で流すときは、二人、共にお互いの涙を拭える位に大人になれてるといいですね」











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