俺いくことにしたよ。どこにって?そんな野暮なこと聞くなよ。

 

やぁ先生、今何してた?まさか奥さんとナニしてる最中じゃないよな。え?病院?あぁよかった。
何の用かって実はさ、俺死ぬことにしたんだ。さっき睡眠薬を大量に飲んだ。
おっと救急車なんてナンセンスなものは呼ばないでくれよ。俺はもう眠りたいんだ。
理由?んなもん特にないよ。先生も知ってるだろ。なんで誰も彼も人が死ぬと理由を知りたがるんだ。事故も自殺も殺人も大して変わらない。ただ手を繋いだか繋がなかったかってだけで。
まぁでもあえて言うなら、なんとなくだ。ただの気分。毎年三万人以上自殺してるんだから、ひとりくらいこんな理由でもいいだろ。

 
初めて会った時のことを覚えてるか?俺はもう何回も自殺未遂を繰り返してて、あの時も薬を飲んでふらふらだった。胃洗浄はつらかったよ。
なんでこんなことしたのかって、あんたあの時も聞いたな。俺はなんて答えたんだろう、もう覚えていない。
…なぁ先生、なんで生きるのはこんなに怖いんだろうな。なんでみんながあんな何十年も生きられるのか俺にはわからない。自分も、と考えただけでぞっとする。俺は一生こんな恐怖に怯えたくないよ。
大人になれば消えるって、あんた言ったっけ。でも俺は、怯えなくなることもなんか怖いんだ。全くどうしようもねぇな。


ごめんな。しあわせだったと言えればいいのに、できそうもない。


あぁ、そろそろ眠くなってきた。やっと終わるんだな。  
あんたのこと、結構好きだったよ。奥さんと幸せにな。



じゃあ、おやすみ。












「…なんであんたがここにいるんだ」
「きみが携帯にかけたから。携帯は移動しながら話せる」
「…家電にかければよかったな」
「番号は今度教えてあげるよ。だから、今日は生きなさい」
「…失敗、か…」
「失敗じゃないよ。さぁもうすぐ救急車がくる。少し眠りなさい」


遠のく意識。力の入らない体。
あぁ自殺は失敗。ぬるい自殺願望をもてあまして、明日はなにをしようか。










第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -