先生許される理由などないのです。あの星が瞬く理由がぼくにはわからないように。 「先生、父と母はきっと来ません」 「…なら、少し話をしましょう。あなたの」 ぼくは知っているのです。見たのです。あの春の日、母のひざ枕を求めた夜に。ぼくを診た後、母の部屋にお医者さまが入って行きました。ぼくのためだと頭をなで、ぼくも入ったことのない部屋へ。 知ってしまったのです。春に甘く鳴く猫、花の蜜を運ぶ蜂、美しい館の跡地でののら犬の行為の果てを。美しさと醜さの交わる様を。 そして悟ったのです。父の冷たい瞳の理由を。 先生、ぼくはふたつの細胞からできたのです。奇跡?いえそんなロマンチックなことではありません。すべては悪戯が引き起こした偶然の悲劇であったのです。幼い体液はたとえどんなに幼くともぼくを生むのです。 笑うでしょうか。笑ってください。あなたの喜劇に組み込まれ、少しでも救われるように。 「先生、ぼくは」 「…柊、少し眠りなさい。もうすぐ春は終わります。夏が来ます」 ありがとうございます、先生。 先生。 「もう泣いてもいいですか」 知りたくなどなかった。 まだ夢を見ていたかったのです。 ← |