やぁこんばんは、ぼくはテディベアのテディ。
ださいネーミングセンスだって言わないでほしい。これはみっちゃんが小さな頭で考えてくれた大切な名前だから。
これから少しぼくの話をしようと思う。聞きたくないかもしれないけど大丈夫、ほんの少しの時間だから。



さてみっちゃんというのはぼくの持ち主で、十七歳のすらりとした足と甘くやさしい声をもつ女の子だ。
でも顔はわからない。なぜかって?ぼくはみっちゃんの白いカラーボックスの一番下に置かれているから、彼女の足しか見えないんだ。

ぼくが覚えているのは初めて会った時のみっちゃんの顔だけ。

ぼくはみっちゃんが十歳の時にこの家に来た。テディベアが大好きだったみっちゃんのためにおばあちゃんがクリスマスに買ってあげたのだ。
ぼくはクリスマスらしく白いクマで、サンタクロースの服を着ていた。もちろん今も同じ格好だけど、白い毛はくすんで、服の毛糸はほつれている。
みっちゃんがぼくを見た時の顔は鮮明に覚えている。大きな目が黒豆みたいにきらきら輝いていた。髪はふわふわやわらかくて、小さく薄い唇から八重歯がのぞいていた。

「テディベア…?」
「そうだよ、欲しがっていたでしょう?」

おばあちゃんの紅葉みたいなしわしわの手からみっちゃんのぷくぷくの手に渡った時、ぼくはみっちゃんがぼくを落とすんじゃないかとはらはらした。だってあんまり小さかったから。でもみっちゃんは落とさずぼくを抱きしめた。ぎゅうって、つぶれるくらいに。ぼくの服の前ボタンが歪んだのはきっとその時だと思う。
ぼくはみっちゃんの日焼けしたなめらかな頬にキスをした。みっちゃんは甘い匂いがした。きっとクリスマスケーキの生クリームだろう。お腹が空かないぼくもお腹いっぱいになるような、あたたかい匂いだった。
ぼくは幸せで、きっとこれからみっちゃんにいっぱい抱きしめられるんだと思った。どこへ行くにも連れてかれて、目のビーズがとれて手ももげちゃって、それでもみっちゃんはぼくを離さないんだろうと。
だけどみっちゃんがぼくを抱きしめたのは、この夜の一度だけだ。



みっちゃんはぼくを大事にした。とてもとても大好きだから壊さないように、ぼくをカラーボックスの一番上に置いた。そして毎朝おはよう、といい、眠る前にはおやすみ、と言った。
ぼくはそれでもとても幸せだったけれど、もちろん長く続くわけじゃなかった。
みっちゃんは若木みたいに背が伸びた。ふわふわのくせっ毛はストレートになって、ぷくぷくだった頬や手はすらっと白く細くなった。
そしてぼくはカラーボックスの一番下に置かれて、一番上にはMDコンポが置かれた。
でもぼくは不幸なんかじゃなくて、ただ少しさみしいだけだ。



下に置かれてから、たまに蟻さんとお話するようになった。蟻さんはぼくの服の毛糸を巣に持ち帰るけど、代わりに世界のことを教えてくれたりする。

「よぉ」
「こんにちは、最近どう?」
「参ってるよ、近所の人間が巣に殺虫剤を撒くようになってさ。くそ、これもオバマ大総領のせいだ」
「オバマ大統領って誰?」

…とまぁこんな感じだ。大抵ぼくの質問責めに蟻さんがいやになって帰ってしまうけれど。
以前、蟻さんとみっちゃんの話をしたことがある。

「この家の嬢ちゃんも変わったよな。前は俺たちを見たら、『アリさんだー』って巣までついてきたのに今じゃ『キャー蟻! お母さんティッシュどこー!?』だ」
「そうだね、今蟻さんが見つかったらきっと指で潰されちゃうだろうね」
「げっやめろよ。ったく…お前もこんなとこで埃かぶっちゃってな」

蟻さんはぼくの頬の埃を小さな口で取ってくれた。

「ありがとう。でもぼくは幸せなんだ」

そう、ぼくは幸せだ。ただ少しさみしいだけ、特にこんな雨の夜は。
流れ星の見えない箱の中で願っている。いつか、みっちゃんがもう一度ぼくを抱きしめてくれますように。おやすみなさいって、笑いかけてくれますように。



そろそろぼくの話を終えよう。最後まで聞いてくれてありがとう。長くなってごめんね。
明日もまた幸せでありますように、おやすみなさい。










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