「は?名古屋?」
「そう。今度観光してみたいんだけど、どこかお勧めの場所とかあるかな?」
昼休み
天気もいいからと中庭のベンチで二人ランチを食べていると、唐突にそう尋ねられた
「何で俺に訊くんだよ?」
「だって翔くん名古屋出身なんでしょう?ちょっと前に教えてくれたじゃない。やっぱり地元の人に訊くのが一番良いかなぁって思って。」
「あー、確かに言った覚えがあんな…。でも結構前だろそれ?よく覚えてたなお前。」
「そりゃ、翔くんのことですから。」
ふふ、と柔らかく微笑む目の前のパートナー兼秘密の恋人に、ドキッとしてしまう
こう言うことをさらりと言われるのは、やっぱりまだ慣れなくて心臓に悪い
動揺してるのがバレないように相手から視線を外し、名古屋の観光スポットを必死で思い出してみる
が。
「…ねぇな。」
「え?」
「食い物ならいっくらでも出てくるけど、見る場所なんてそんなねぇんだよ。強いて言うなら名古屋城とかか?」
「そ、それは渋いね。」
流石に苦笑いしてしまった相手に同じような笑みを返し、持ってきていたペットボトルを開けようと手を伸ばす
「まぁそんなんだからあんま来る必要ねぇと思うけどなー。てか、何で名古屋?」
「え?だから、翔くんの出身地だから。」
「は?」
「うん…だから、観光とはまた違うのかな?ただ本当に、行ってみたかっただけなの。」
ふわりと、
優しく微笑んだそいつは、とびきり甘い蜜を含んだ声で言葉を紡いだ
「翔くんが育った街を見てみたかったんだ。」
それは、愛の告白とかでも何でもない、のに
やけに俺の胸に響き、身体が震える
どうしようもない、愛おしさに
「お…、まえも物好きだよな。なんもねぇっての、あんなところ!」
「なくても良いんだってば。」
「そ、それに大体、名古屋くらいわざわざ行かなくたって、行く機会くらいあんだろ。」
「え?」
言葉の意味がわからないのか、きょとんとするあいつをちら、と横目で見やる
――なぁ
今から言う言葉を、お前はどう受け止める?
「俺の家に挨拶、来る時でいいだろ。」
俺みたいに少しくらいドキドキしてくれたら、嬉しい
(答えは、花のようにはにかむ笑顔)