小さいころから、前を歩くのは私と哉太だった
その後ろを月子と錫也がついてきて、よく後ろから危ないだのなんだの注意されていた
いつからだろう
3歩後ろから聞こえる声がもどかしいと思うようになったのは
振り返ればいつだってすぐそこにある笑顔が、嬉しくて、寂しく感じるようになったのは




「…ん、」

頬を撫ぜる風を感じて、ゆっくりと瞼を持ち上げる
何をしていたんだっけ?とまだ寝ぼけている頭で考え、2、3回瞬きを繰り返して寝返りを打ち、目を丸くした

「……何で哉太?」

黙ってればイケメンな幼馴染の寝顔がすぐ間近にあり、思わず眉を顰める
いや、何か口半開きだし今は全然イケメンじゃない。
そこまで考えて、そういえば哉太の家で遊んでいたんだっけ、とようやく思い出す
よくよく見れば哉太の向こう側では月子が可愛らしく眠っていた

(そっか、ゲームしてて…そのまま床で寝ちゃったんだなこれは…)

子供みたい、と欠伸を一つ漏らすと、くすくす笑う声が耳を擽った

「――おはよう、日向。」

「……錫也、」

上を見上げると、すぐ傍のソファに腰掛けた錫也の柔らかな笑顔が視界いっぱいに映る
陽の光を浴びて、紅茶色の髪がきらきら光るその様がとても綺麗で、思わず目を細めた

「よく眠れたか?」

「錫也、寝なかったの?」

「あぁ。流石に4人とも寝てたらマズいかなって思ってさ。」

「えぇ?別に哉太の家なんだし良いと思うんだけど。…暇じゃなかった?」

「本読んでたし、お前ら見てるの結構楽しかったぞ?日向、途中からすっごい締まりない顔で寝てたし。」

「ちょっと止めてよ…、錫也の悪趣味ー。」

顔を両手で覆い、まだ眠くて舌足らずな声で文句を紡ぐ
悪い悪い、と全然心のこもっていない謝罪が聞こえ少し唇を尖らせたが、錫也はそんなもの気にする様子もなく楽しそうに笑って見せた
それが少し気に食わなくて、少し眉間にシワを寄せる

「…錫也は変わんないね。」

「うん?」

「昔っから私たちが馬鹿やらないかとか、そういうのを後ろから見守ってたよね。」

「あぁ…。だって、見てないとお前ら本当に危なっかしくて、目離してる方が落ち着かなかったからなぁ。」

「そんなんだからおかんって言われるんだよ…。もっと若者らしくすれば良いのに。」

「言い出したのは日向だろ?……その手は何?」

「錫也も寝るの。」

両手を広げておいでのポーズをすれば、錫也は少し目を丸くしてから眉を下げて笑った

「あのなぁ、俺らいくつだと思ってるんだよ?」

「大人はしちゃ駄目とかないでしょ?っていうかまだ子供だもん。」

「確かにそうだけど…いくらなんでもそれは…」

「錫也。」

両手を広げたまま名前を紡いで、綺麗な青の瞳を見つめる
何か言いたそうに口元を歪めたあと、錫也が、はぁ、と溜め息を吐いた
ぎし、と音を立ててソファから立ち上がり、私の隣にしゃがむ

「……マジで?」

「私、錫也にだけは嘘ついたことないのが自慢なんだ。」

自信満々にそう紡げば、今度こそ観念したように錫也が私の肩にぽすりと頭を預ける
お日様の匂いと錫也の匂いがする紅茶色の髪が顔を擽り、知らず知らず笑みを溢す

「錫也おっきいね。」

「当たり前だろう?俺だって男なんだから。」

男子とは思えないさらさらの髪を撫でると、錫也は少しだけ顔を赤らめ、何とも言えない表情で苦笑した
それでも私の好きにさせてくれる錫也が可愛くて愛しくて、ぎゅぅ、と彼を抱き締めた

「日向、」

「おやすみ、錫也。」

「え、ちょっと待て。これで寝るのか…?」

「え、ダメ?」

「……もう好きにしてくれ。」

はぁ、と溜め息混じりに吐き出し、錫也がゆっくりと目を伏せた
ぎゅ、と私を抱き締め返したその腕の力に、少し胸が高鳴ったんだけど
それは、錫也には内緒にしておこう





「…ふああぁ〜っと…んぁー…今何時だ…?」

夕焼け色が深まる頃、大きく伸びをした哉太がむくりと起き上がる
寝ぼけ眼で辺りを見回したあと隣を見下ろし、少し笑みを零す

「…おい、月子。起きろよ。」

「んん…?何?哉太…。」

「ほら、これ。」

ふぁ、と欠伸をした月子に、哉太が面白そうに目の前の光景を指し示す
最初はきょとんとしていた月子も、哉太のいう「それ」に気付き、小さく笑みを浮かべた

「ふふ、なんか懐かしいね。」

「だろ?昔っからいっつも日向がこうやって錫也のこと無理やり巻き込んでたよな。」

「そうそう。『錫くんも一緒じゃないとイヤ!』って言って、隣まで引っ張ってきちゃうの。で、結局錫也も言うこと聞いちゃうんだよね。」

「ま、こんだけべったりくっつかれたら言うことも聞かざるを得ないって感じだけど…それでも錫也の奴、しょうがないなって言いながら嬉しそうなんだよなー。」

「そうだよね。いい加減二人とも自覚すれば良いのに。」

二人で苦笑した後、哉太がデジカメを静かに構えた



「ま、幸せそうだし、良いんじゃね?」



切り取った一枚を私と錫也が見るのは、もう少しあとの話





寄り添う二人が、恋を知ったあとのお話









(日向頼むからもうやめようなこれ。)(え?何でダメなの?)((胸が当たって寝るまで辛かったんだって正直に言って良いのかこれ…。))








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