星空に溶けて

「その旅、あたしも連れてって欲しいの」

セフィロスを追う旅で出会った彼女ーーーなまえは不思議な雰囲気だった。
戦いの世界とは無縁の温室育ちのお嬢様の割りには、剣を振り回しマテリアを駆使して魔法も使ってみせた。
「護られてるだけのお嬢様じゃダメだって、お父様が言ってたから」と笑ったなまえは寂しそうで、放っておけないと、そう思った。

なまえの故郷は神羅によって狂わされ、全てを失い、それでも憎みきれずに苦しんでいた。
文字通り全て失ったのに、だ。
故郷、家族、町の人々、仲の良かった友人、そして婚約者。
親同士の決めた婚約者でも仲は良く、きっと好きだったんだと思うと言った、会ったこともない相手に嫉妬するくらいに、俺は出会って間もないなまえのことが好きになっていたんだと思った。

最初はただ仲間として護りたいと思っていただけのはずなのに、なまえが婚約者のことを話す度に胸の奥がギシギシ痛み悲鳴をあげる。
幸せそうに話す姿見ていたくなくて、子供みたいな醜い嫉妬でいっぱいだった。
押さえきれない想いが溢れて止まらなくなった俺は、本当に子供だ。

「なまえ、アンタが婚約者を忘れられなくても今は構わない。それでも、俺はなまえが好きだ…だからこの先の未来、俺に護らせてくれないか?」

もっともっと、強くなってから伝えるつもりだった。
もっともっと、自分に自信が持てた時に伝えるつもりだった。
そしてもう少し、なまえが心の底から笑えるようになってから伝えるつもりだった。

それでもこの先、なまえと一緒にいられる保証なんてなかった。
だから言葉で繋ぎ止めるしかないと、そう思ってしまった。

「ありがとう。クラウド…でももう少しだけ、考えさせて欲しいの。クラウドのこともみんなの事も、かけがえのない大切な人たちだから」



ーーーーーーーーーー



あの時、何故かあたしはこの旅に着いていかなければならないと思った。
星を救いたいと言う大それた使命感もなく、神羅が憎くて復讐したいとか、はっきりとした目的があるワケでもなかった。
それでも彼らは受け入れてくれて、大切な仲間の1人として一緒にいてくれた。

あの日、何かもかも失ったあたしがこうやってまた大切な場所を得られるなんて思っていなかった。
共に旅をして戦い、みんなの想いを知って、あたしも彼らと同じように星とみんなを護りたいと思った。

旅のリーダーと言える存在、クラウドはどこかあの人を思わせた。
婚約者であった彼に少し似ていたクラウドに、最初は重ねていた部分が確かにあった。
それでも今は、彼自身を好きになる気持ちは抑えられなかった。
知れば知るほど彼に惹かれて離れられなくなり、強くて少し危うい彼を護りたいとさえ思った。

あれだけ忘れられるはずもないと、もう彼以外好きになることがないと思っていたのに薄情だと思う。
だけど、彼は最期にあたしに言ってくれたのだ。

「幸せになってくれ。俺以外の男を好きになってもいいから、俺の好きな笑顔でいてくれ」と。

そんな少しだけズルい彼の遺言を、あの時は護ることはないと思っていたのにーーーそれでも、すぐにクラウドの手を取ることは出来なかった。

あの人のことは勿論あったけど、ティファやエアリスもきっと自分と同じようにクラウドのことが大切で、好きだと思う。
2人ともあたしにとって、とても大切で、とても大好きな仲間。
恋愛事に先も後もないのは知っているけど、それでもあたしは一歩前に進むことが出来なかった。

「なまえ」
「ティファ、エアリス…どうしたの?」
「あのね、こんなことを言うのもどうかと思うんだけど…なまえには自分の気持ちを大切にして欲しいと思うの」
「…うん」
「なまえがクラウドと幸せになってもいいんだよ。もう、前に進んでもいいと思う」
「うん」

少し歯切れの悪いあたしを見て、困ったように笑う2人。
きっと2人はあたしが婚約者を忘れられなかったことも、クラウドのことが好きになっていたことにも気付いている。
だからこそ、こうやって背中を押してくれていると思う。

2人に遠慮している部分がないとは言い切れないし、それを嫌がるのも知っている。
それでも今一歩進むことが出来ないのは、まだ少しだけ勇気が持てないから。
結局、また失うのが怖くてたまらないの。
クラウドのことも、仲間たちのことも、大切な人の全てを。

「この戦いが全て終わったときに、あたしは前に進む勇気が持てるかもしれない」

あたしがそう言うと、困ったように笑う2人。
そんな顔をさせたいワケじゃないけど、今はあたしの弱さがそうさせてしまう。
クラウドにも、あの時同じ顔をさせてしまった。

「きっとクラウドなら、なまえの不安ごと護ってくれると思うな」
「だいじょうぶだよ。クラウドとなら」

そうやって背中を押してくれる2人は、本当に強いと思う。
あたしも2人みたいに強くなって、今度こそ一歩前に進む勇気を持ちたい。
そして、あたしにも護る力が持てたらと、そう呟いた言葉は、そっと星空に溶けて消えた。



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